アメリカには優れたジャズの制作者がいました。ロイ・デュナン、ヴァン・ゲルダー、フィル・ラモーン辺りがその好例でしょう。私はその名人達の作品を聴いて勉強しましたが、決して模倣することはしませんでした。口幅ったい言い方を許して頂けるならば、私は私独自のアプローチでジャズ録音をしたわけです。
録音音楽の聴き方にもいろいろあります。一つは、聴き手としてその作品を徹底的にエンジョイする聴き方。もうひとつは、「お手本」として参考にするという聴き方です。私は音楽をオーディオで聴き始めた頃、音楽をエンジョイしながらも、「ここはこういうテクニックを使ったな」とか「ここをこうした方がもっと良かった」とか、常に制作者の耳でも聴いていたような気がします。ですから、確かに名制作者の影響はないとは言えません。しかし、いざ私の音楽づくりを、となると、私の意志の反映したオリジナルの録音になっていると思います。
具体的な録音制作の魅力についてお話ししましょう。今回愛聴盤として選んだCDはすべてクラシック音楽です。それは私がもともとクラシック音楽が好きだったからという理由も勿論ありますが、ジャズは多くの録音制作を行って、結構欲が満たされたということなのかなと思います。
幸か不幸か、私のディスコグラフィーを研究して出版した方がいます。私は「出版しては困る。もし出すなら私が死んだ後で出して欲しい。生きている時出されたら、とても照れくさいし、いろんな差し障りもある」と言い続けてきたものです。それでも出版されてしまいましたが、出れば出たでそれは嬉しいことですね。
それを読んで振り返ると、どれもこれも自分の愛娘以上のもので、とても満たされた思いがします。そこで一番気になるのは、そこで満たされなかったもの、自分では録音制作しきれなかったものなのです。私の携わったものは、宇宙の星のほんの僅かで、他にも当然気の遠くなるほど膨大なものがあります。
私は、今はもう録音制作はしていませんが、聴いたものを読者に紹介する人間としてレコードを聴く時間は圧倒的に増えました。それでも先ほど説明したように、レコードやCDの数は膨大な星の数ほどあり、その中から数枚選択するとなると、これは至難の業というべきものです。それが自分として、音楽的・オーディオ的に納得できる好きなディスクを選ぶとなると、これは不可能に近いわけです。
ただ、星の数ほど名盤があるからこそ、オーディオは楽しいのです。そういったパッケージメディアがなければ、オーディオなんてただ機械を鳴らして何が楽しいんだ、ということになってしまいますものね。ネタ切れすれば只のオルゴールと同じです。ただただリピートするのみです。パッケージメディアの底知れぬ数があるからこそ、オーディオの楽しみも深いといえますね。
さて次回からは、私が選んだディスクについてお話ししていきましょう。
以下、第42回に続く
(菅野沖彦・談 / 聞き手・ピュアオーディオ本部・岩出和美)
(撮影・奥富信吾)