JEITAと日本オーディオ協会の関係にも言及

【レポート】最新ハイレゾ事情を各界識者が語る。JEITA主催「ハイレゾオーディオセミナー」

公開日 2016/03/22 11:32 編集部:杉浦 みな子
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■放送・配信業界のハイレゾ最新動向とは?

続いては、放送・配信業界からのゲストスピーカーによるスピーチが行われた。放送業界からは、NHK放送技術研究所 上級研究員 小野一穂氏、配信業界からは(株)インターネットイニシアティブ シニアエンジニア 西尾文孝氏が登場した。

NHK技研の小野氏は、2020年の本格普及に向けてNHKらが取り組んでいる8K SHV放送の音声仕様について説明した。8K放送は総務省のロードマップによって、今年に試験放送、2018年に実用放送を実施し、東京五輪が開催される2020年に本格普及を目指している。その音声は、22.2chマルチチャンネル仕様になることが既に発表されている。具体的には上層9ch、中層10ch、下層3chのフルレンジユニット22chに、低域用の2chユニットを加えた構成となる。

小野一穂氏

8K SHV放送で採用される22.2ch音声の構成図

この8K放送における22.2ch音声には、5.1chを超える音響方式の音質要求条件(BS.1909)として、「高さ方向を含む三次元音響」「スクリーン画面上の映像と音像の一致」「広い視聴範囲」といったいくつかの要件が規定されている。「従来の放送がカバーしていた5.1ch音声は、水平面内における音響しか定められていないが、22.2ch音声は高さ方向を含む三次元的な音響をカバーする規定。これによって全方向からの音声再生を実現し、8K映像と音像がより深く一致するようにしている」と小野氏は説明した。

5.1chを超える音響方式の音質要求条件(BS.1909)が規定されている

22.2ch音響に関連する主な標準化要項について

「NHK技研では、この22.2ch音声を扱うミキシングシステムや残響付加装置、ワンポイントでマルチチャンネルを収音できる可搬型22.2ch収音マイクなど、対応機器を開発中だ」と小野氏は紹介。また、今年の試験放送に向けて22.2ch音響のラウドネスレベル測定法も必要となるため、5.1chまでの測定法であるITU-R BS.1770-3と互換性を持ち、これを拡張した測定法ITU-RBS.1770-4として改訂したものを提案中という。

22.2ch収録するための小型球形マイクロホンを開発

22.2ch音響を制作するためのミキシングシステム


三次元残響付加装置の開発にも取り組んでいる
8K放送音声の伝送仕様は、サンプリング周波数48kHz、量子化ビット数16bitという点は従来と変わらないが、符号化方式はMPEG-4 AACになり、オーバーヘッド量が少ない音声ストリームの多重化方法LATM/LOASを採用する形となる。なお、ダイアログレベルを受信機側で調整できるようにもする予定だという。

従来の音声符号化方式との違い

8K SHV放送における22.2ch音声信号の符号化方式について


受信機側でのダイアログ制御機能にも対応予定
ここで、一般家庭における22.2ch再生はどうなるかという点だが、まず既存のホームシアター環境を使用する場合は、22.2ch音声を従来の7chや5chに変換して再生することになる。NHKでは、その変換システムの構築に取り組んでいる。

一般家庭における22.2ch音響の再生について。ホームシアターやリビングルーム、ポータブル環境等での利用シーンを想定

仮想の22.2ch再生を実現するスピーカー内蔵ディスプレイの開発にも取り組んでいる

しかし、一般家庭における8K/22.2chの普及に向けてそれだけでは不十分であるため、「テレビ/ディスプレイに内蔵するスピーカーでバーチャル22.2ch再生を実現することがキーワードになる」と小野氏は語った。NHK技研では、既に試作も行っている。試作したディスプレイでは、12chスピーカーを内蔵し、22.2chのうち前方チャンネルを実スピーカーから再生。そして、ディスプレイ部と重なる3ch分を虚音像として合成し、側方/後方はバイノーラル再生を用いて再現する仕組みを構築した。また、ヘッドホンによる22.2ch再生や、ポータブル環境における22.2ch再生を実現する技術開発にも取り組んでいるという。

今後の展望としては、まず放送波でロスレス音声の符号化方式ALS(Audio Lossless Codeding)が既に規格化されたこと、そしてハイブリッドキャスト2.0で放送と通信を同期する機能が追加規定されており、放送番組と同期したネットストリーミングによるハイレゾ音声の伝送も技術的には可能になっていることがポイントとなる。これらの最新動向を踏まえ、小野氏は「NHK技研では8Kの普及を目指し、より簡単な8K/22.2chコンテンツ制作環境の実現や、高効率な符号方式の開発を行っていく」と語った。

技術的にはハイレゾを含むロスレス音声伝送が可能となる8K SHV放送の今後の展望

続いて登場したIIJの西尾氏は、同社が手がけてきたハイレゾストリーミングサービスにおける活動を中心に報告した。

西尾文孝氏

IIJグループの事業領域について

IIJは1992年12月に設立された会社で、93年から日本初のインターネットプロバイダーとしてサービスを提供してきた。自社でバックボーンネットワークを構築して運営しており、コンテンツ配信サービスでは最大238Gbpsという驚異的なトラフィックに耐えられる環境を持っている。そんな同社が、自社ネットワークを使って新しいコンテンツ配信に取り組んだのが2010年で、この年に日本を代表するコンサートイベント「東京・春・音楽祭」のオンデマンド配信を行った。

国内最大級のバックボーンネットワークを構築・運営するIIJ

最大238Gbpsという驚異的なトラフィックに耐えられる環境を持つ


2010年に「春祭オンデマンド配信」をスタートした
2014年にはMPEG-DASH形式による同イベントのライブ配信を行い、そして2015年に実現したのがMPEG-DASH形式によるDSD 5.6MHz音声のライブストリーミングだった。コルグやソニーとの技術提携によって実現したもので、コルグがライブ音源のエンコードを担当し、コルグとソニーでDSD 5.6MHz信号処理を実施、その音源をIIJのストリーミング用プラットフォームとネットワークを使用して配信した。なお、DSD 5.6MHzとDSD 2.8MHzを同時ライブ配信したこともポイントだ。一般のユーザーは、普段使っているPCに専用アプリをインストールし、ソニーまたはコルグ製の対応USB-DACを接続すれば、このDSDストリーミングを体験することができた。

2015年、MPEG-DASHを使用した独自方式によるDSDストリーミング配信を実施

DSDストリーミングシステムの概要


日・欧4つのコンサートホールでの演奏会を、DSD5.6/2.8MHzで同時ライブ配信した

コンサートホールでの収録は、2本の無指向性マイクによるワンポイントステレオ録音を行った
西尾氏は「なぜDSDだったのか?」について、「ハイレゾ配信する中で一番ハードルが高いフォーマットだから。一番ハードルの高いことを実現すれば、あとは楽になるのでチャレンジした」と語った。

加えてこれだけに終わらず、同社では昨年12月23日からDSD 5.6MHzの音楽ライブストリーミングサービス「PrimeSeat」を開始している(関連ニュース)。「PrimeSeat」は世界初のハイレゾライブ配信サービスで、多彩なハイレゾ音源を日常的に楽しめるインターネットラジオだ。2月には192kHz/24bit PCM音源のオンデマンド配信もスタートしている。

昨年12月からは、世界初のハイレゾライブストリーミングサービス「PrimeSeat」をスタート

多彩なハイレゾコンテンツを日常的に楽しめる

なお、以前はソニー製およびコルグ製のUSB-DACでしか本サービスの音源を聴くことができなかったが、現在はその制限がなくなり、他社製のUSB-DACでも利用できるようになっている(ただし、DSD非対応のDACの場合、DSD音源はPCMフォーマットでの再生になる)。

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