JEITAと日本オーディオ協会の関係にも言及
【レポート】最新ハイレゾ事情を各界識者が語る。JEITA主催「ハイレゾオーディオセミナー」
■なぜハイレゾは音が良いのか? レコーディングエンジニアらが語るハイレゾの魅力
イベントの最後には、コンテンツ業界から見たハイレゾの最新情報が語られた。登場したのは(社)日本レコード協会デジタル担当者連絡会 委員 鈴木順三氏と、(社)日本音楽スタジオ協会 専務理事 高田英男氏だ。
日本レコード協会の鈴木氏は、まず現在の日本のレコード市場が3,000億円の規模であることを紹介した。世界的に見ると、レコード市場1位はアメリカで、日本が2位につけている。
日本における音楽産業全体の規模は約3兆円で、金額自体は横ばいだが、時代によって構成するコンテンツの比率が変化してきているという。例えばコンサートの売上げが上昇すると、それに比例してCDの売上げが落ちるといったような形だ。鈴木氏は「技術革新によって、レコード産業は変化してきた」と振り返る。「ベルリナー式蓄音機の開発に始まり、SPレコード、LPレコードの登場でレコード産業は爆発的に伸びたが、FM放送が始まって一度落ちる。それが、1982年にCDが登場することによってまた上昇する。しかし2000年代に入ってからは、大した変化が起こらず売り上げは下降していた。そこで、“ハイレゾ”が再び音楽コンテンツ産業が上昇するきっかけになっていったら良いと思う」。
鈴木氏によれば、現時点のハイレゾ楽曲数は日本を含むワールドワイドで約13万曲ほどだという。日本のレコード会社が保有する音源の種類は大きく3種類があり、1980年頃までの音源はアナログマスター、1980〜2000年頃までの音源はCDマスター、2000年以降はデジタルマスターだ。鈴木氏は「ビクター系列のレコード会社が保存するマスターのうち約7割がCDマスター。多くのハイレゾ音源を提供するためには、CDマスターのハイレゾ化についてもしっかり考えなくてはならない」とその課題を語った。
また鈴木氏は、「ハイレゾはマスター音源と同じものではない」と、ハイレゾ音源に対してのよくある誤解についても触れた。「サンプリング周波数と周波数帯域とは完全にイコールではないのだが、そのあたりが誤解されている。収録されるのは実際の演奏の帯域であって、それを96kHz/24bitの“器”に入れているからといって高帯域まで入っているというわけではない」。例えば、ピアノの最高音の基音は約4kHzで、倍音を入れても20kHzくらいしかない。アナログマイクで収録できるのは30kHzくらいまでとされているし、古いアナログ音源も40kHzまで帯域が伸びているわけではない。ハイレゾ音源の特徴とは高域まで収録されているということではなく、「従来のCD音源よりもサンプリング周波数と量子化精度が細かいことによって、アナログに近い状態を再現できること」と鈴木氏は語った。
なお、人間の可聴帯域を超える20kHz以上を収録することによる聞こえ方への影響については、これまでにも多くの議論がされている。鈴木氏はその可能性について「はっきりとした理由はわかっていない」としながらも、20kHz以上の音が非線形歪みの要因になり得ること、結合音との関係を指摘した。結合音とは、簡単に言うと異なる周波数の2音が鳴っているとき、その2音に伴う別の高さの音が知覚される現象のことだ。つまり、20kHz以上の高周波数帯自体は耳に聞こえないが、音源にそれが含まれることで、結合音に影響するのではないかという考え方だ。
また、聴覚理論の観点からいうと、両耳間のレベル差によって音像定位の操作が可能であるため、高量子化精度は定位感の向上に貢献する可能性があることも紹介した。「詳細な科学的知見はなく、時間波形の形状と知覚の関係については要調査。なぜハイレゾは音が良いのかということを科学的にも解明し、普及のヒントにしていければ良いと思う」と結んだ。
上述の鈴木氏のスピーチで語られた「ハイレゾの魅力」については、続いて登場した最後のゲストスピーカーである日本音楽スタジオ協会 高田氏の話の中でも、同じような見解が示された。高田氏はレコーディングエンジニアとして活動しており、今回のイベントではハイレゾによる音楽制作の魅力についてスピーチを行った。
ハイレゾ音源制作には、大きく3つの種類がある。まずはスタジオ録音制作で、ポップスや歌謡曲などがスタジオで収録される。次に、鈴木氏の話にもあったレコード会社のアーカイブ音源からの制作だ。アナログとデジタル音源の両方があり、これらの資産をハイレゾ化する作業となる。3つ目はホール録音制作で、主にクラシックの収録などがこれにあたる。
スタジオ録音によるハイレゾ収録は96kHz/24bitで行うのが主で、マイクやヘッドアンプなどにこだわり、特に音響空間の再現性を突き詰めて進行するという。録音スペックが96kHz/24bitの理由は、現在の制作機材の対応状況で最も扱いやすいからとのこと。また、アナログマスターからのハイレゾ化に関しては、クロックの精度にこだわっているそうで「ハイレゾになればなるほどクロックの精度が影響する。水晶、ルビジウム、セシウムまで試したことがある」のだとか。ホール録音に関しては、アナログマイクでの録音をハイレゾ処理するわけだが、最近ではデジタルマイクを使って全てデジタル録音するという方法もあるそうだ。
高田氏はハイレゾの魅力を「可聴帯域の質が向上すること」と語った。「高周波によるサンプリングと高精度な量子化により、結果としてハイレゾは低域の聞こえ方が太く柔らかくなり、音色感が素直で生音に近くなる。このように、そもそもの可聴帯域における音の基本が改善され、分解能が高くなることによって、“音の基準”が変わるのだと思う。そして、超高域再生をカバーすることによる開放感や透明感、音の艶が含まれることにより、ハイレゾならではの音の世界が作れるのではないか」。
なお、高田氏は元々「アナログ大好き人間」だったそうだが、DSD 11.2MHz音源を聴いたときには大きな衝撃を受けたそうで、「もはや録音したときの音と再生したときの音が変わらなかった」と、初めてDSD 11.2MHzを試聴した際の感動を振り返った。
またこれからの展望について、「音源にあわせてフォーマットを選ぶ時代になったのではないか」とも語った。「ロックなどパワー感のある世界は48kHz/24bitが面白いし、パワー感と艶のバランスを良くとるなら96kHz/24bit、開放感や透明感の高さを優先するなら192kHz/24bitとか。音の質感に合うフォーマットを選ぶのが良い。CD時代は音圧競争の時代だったが、ハイレゾはダイナミックレンジを広くとるマスタリングを突き詰められる。だからこそ、ハード/ソフトとも各種フォーマットに伴う音質を追求してほしい。96kHz/24bitの世界、192kHz/24bitの世界をより良く表現できるように、ハード/ソフトともつめていく必要がある」と述べた。
最後に高田氏は「ハイレゾは、音楽制作者にとっても新しい音の世界。制作者としては、ずっとスタジオマスターをリスナーに届けたいと思っていたが、それに近いことができる。だからこそ、音楽制作者としては、より一層音楽の質にこだわっていきたい」と語り、4時間におよぶセミナーは盛況のうちに幕を閉じた。
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