新製品や試作機も登場
北米の注目オーディオショウ「AXPONA」レポート【前編】アナログ再生やヘッドホンの最新動向を探る
■最新のオーディオ機器がもたらした販売網の変化と新たな潮流
AXPONA会期中に開催されたセミナーで語られていたことだが、アメリカで今起きている重要なトレンドのひとつが、ハイエンドオーディオが非オーディオ専門店で売れるようになってきていることだという。こういった専門店では、店舗と顧客でオーディオの知識に違いはなく、ハイエンドオーディオ機器がライフスタイル製品として評価されつつあるということのようだ。今後デザインの変化や操作性の向上など、よりユーザーの生活に寄り添った製品が、ハイエンドオーディオ分野に登場するかもしれない。
また、学生が買えるようなエントリークラスの商品を企画するブランドを賞賛するコメントも多く聞くことができた。中年以上の男性が参加者のほとんどである点は、AXPONAも日本のショウと変わりないが、将来の顧客を掘り起こす必要性を媒体関係者が公の場で述べていたのは印象深い。
さらに興味深かったのは、Bluetooth系製品などワイヤレス接続製品についても、ポジティブにとらえている関係者が多かったことだ。彼らはこうした新しい技術についても、音質や利便性などの問題はいずれ技術的なブレークスルーで解決できると考えているのだろう。オーディオ製品に限らず、新技術に対する心構えの違いは日本と海外の違いとして最近指摘される部分なので、改めて印象に残った。
■もはや併催必須となったパーソナルオーディオイベント
さて、AXPONAではEAR GEAR EXPOが併催されており、パーソナルオーディオ系ブランドが一堂に会して展示を行っていた。試聴に訪れる参加者も多く、アメリカ市場でのパーソナルオーディオの成長を実感できるイベントだった。
全体としてみるとAXPONAはホームオーディオ、とりわけハイエンドオーディオ色の強いイベントではあるが、もはやオーディオショウにおいてパーソナルオーディオは避けては通れない分野であり、協賛媒体にはパーソナルオーディオに特化した媒体も含まれているなど、今後その存在感がますます高まっていくことに疑いはない。
実のところ、アメリカのパーソナルオーディオ市場の伸びはかなり力強いものがあり、イヤホンやデジタルオーディオプレーヤー類は日本の存在感がとりわけ高いものの、ヘッドホンやヘッドホンアンプとなるとアメリカが最大の市場というブランドも多い。今回の展示でも、イヤホン系ブランドの出展よりヘッドホン系ブランドの出展が目立つ形であったのは、車社会であるアメリカならではの事情といえるだろう。
■今年は静電型ヘッドホンの年。各社が新製品をリリース
昨年発表され、今年日本でも発売となったゼンハイザーのフラッグシップヘッドホンシステム「HE-1」、同じく昨年発表されたHIFIMANの「SHANGRI-LA」に続き、今年はSONOMA Acousticsの「Model One」も発売予定だ。
また完成に近づいてきているというMrSpeakersの「ETHER ES」のほか、AXPONAでは静電型スピーカーブランドとして長い歴史を有するJansZen Audioのポータブル用静電型ヘッドホン新製品「Lotus」が発表されるなど、静電型ヘッドホンや静電型ヘッドホンシステムの発表、発売が相次いでいる。
静電型ヘッドホンといえば、日本のSTAXの偉業が海外でも賞賛されている。それだけに、究極のヘッドホンシステムの開発を標榜する海外ブランド各社が、いよいよ静電型ヘッドホンの発表にこぎつけたのは興味深い。静電型ヘッドホンはこれといって特定の規格があるわけではないので、それだけ各社の設計思想がダイレクトに反映された製品が多く、どの製品も大変に魅力的だ。静電型ヘッドホンは近年特に低域の量感を改善したモデルが多く登場している。ぜひ機会があればイベント等でその進化を体感してみてはいかがだろうか。