創業時からの流れを説明
Polk Audioが今年で50周年。“手の届く高音質スピーカー”への努力を振り返る
2020年に日本再上陸したアメリカのスピーカーブランド「Polk Audio(ポークオーディオ)」。日本では目新しく映るかもしれないが、その創業は1972年となり、今年でちょうど50年の節目にあたる。この50周年を記念し、Polk Audioを取り扱うD&Mホールディングスがメディア向けにイベントを開催した。
イベントでは、Polk Audioの歴史の紹介、現行のコンポーネントスピーカーの紹介、そしてサウンドバーの紹介の順に行われた。本稿ではその流れに沿って、イベント内容をお届けしていく。
まず説明に入る前にビデオメッセージが流され、Polk Audio社長のフランク・スターンズ氏が「今年の6月22日に創立50周年を迎えた。振り返れば、学生たちで始めたPolk Audioも、今ではアメリカで最も愛されるスピーカーブランドのひとつになった」とコメント。
さらに、創業時の理念を今でも保ち続けていることに触れ、「彼らは、自分たちが買える最高のスピーカーを作ることを目標に会社を立ち上げました。ブランドのタグラインである “GREAT SOUND FOR ALL” は、そんなPolk Audioのもっとも重要なアイデンティティ」だと説明した。
先に触れたとおり、Polk Audioは1972年に、ジョージ・クロップファー、マシュー・ポーク、サンディ・グロスという、ジョンズ・ホプキンス大学の学生3人で設立された。ジョージ氏とマシュー氏はその前年からスピーカー「The Baby Bottoms」の開発を始めており、200ドルの貯金を使いガレージからスタートしたという。
スターンズ氏の話にあった “GREAT SOUND FOR ALL” は、素晴らしい音をなるべく多くの方に届けたいという、Polk Audioを最もシンプルに表現しているメッセージだという。創業当初は学生で余裕がなく、素材やパーツなどを手探りで試していたことから、現在でも「学生だった自分たちでも購入できるスピーカー」を目指しているそうだ。これについてD&Mホールディングスの高山氏は、「アフォーダブルなゾーンにプライドを持って取り組んでいる、珍しいアイデンティティ」だと説明していた。
創業から3年が経った1975年には、ベストセラーになった「MODEL 7」がリリース。翌年には「MONITOR 10」というモデルが発売され、こちらも大ヒットしたという。ちなみに当時の正確な価格な残っていないそうだが、MODEL 7については250ドルくらいの表記も見つかっているそうだ。
この後も成長を続け、1977年には自宅から工場でのライン生産に移行。1986年には、アメリカで最も成長した100社にも選ばれるようになり、NASDAQへの上場も果たしている。そして10年前の2012年の時点で、常にアメリカの中でトップシェアを争うようなブランドにまで成長したという。
2017年にはPolk AudioをもつSound Unitedが、デノンとマランツを保有するD&Mホールディングスを買収し、これが2020年に日本再上陸するきっかけとなった。なおPolk Audioは2019年にヨーロッパ市場へと参入しており、2021年にはEISA AWARDも獲得している。
現在Polk Audioは、日本市場においてコンポーネントスピーカーとサウンバーをラインナップしている。コンポーネントスピーカー「Reserveシリーズ」「Signature Eliteシリーズ」「Monitor XTシリーズ」の3種類、サウンドバー「Signa S4」「Signa S3」「REACT」の3種類となる。
このうちコンポーネントスピーカーは、2021年6月のReserveを皮切りに、8月にはSignature Elite、11月にはMonitor XTと、次々に製品を投入してきた。つまり最初の販売開始からまだ1年と少ししか経っていないが、すでに市場シェアは約4%、ブランド別順位は5位まで伸ばしてきたという(2022年5月時点のデータ)。
この人気の理由として高山氏が説明していたのが、「コストパフォーマンスの高さ」だ。アメリカではコンポーネントスピーカーの市場が日本の数十倍と大きく、大量生産によるコスト削減効果が得られるという。一方でこのスケールメリットは近年獲得したもので、本質的には “GREAT SOUND FOR ALL” という情熱とこだわりが生み出す、技術者たちの創意工夫やイノベーションにあるとのこと。またクリッペルアナライザーといった最新鋭の機器を用いるなど、新しいものを取り込むオープンな姿勢により、進化を続けているそうだ。
この創意工夫やイノベーションの例として紹介されたのが、ドライバーやキャビネット、ネットワークなどの各パーツだ。たとえばReserve/Signature Elite/Monitor XTのドライバーをそれぞれ並べてみると、下位モデルのMonitor XTの磁気回路が一番大きく、上位モデルほど小さくなっていっている。
D&Mホールディングスの澤田氏は、「実は3つのウーファーで駆動力に必要な磁束はあまり変わらない」と説明する。必要な磁束のために最適な設計を選ぶとReserveのもののように小さくなるが、Monitor XTでは汎用のフェライトマグネットを採用することでコストを下げているとのこと。入手しうる材料を最大限活かした結果、体積が大きくなったのだという。
Polk Audioではドライバーも独自で設計しており、最上位のReserveではトゥイーターに1インチのピナクル・リング・ラジエーターを搭載。またウーファーのコーンについても、Reserveはポリプロピレンを射出成形したタービンコーン、Signature Eliteはポリプロピレンをマイカで強化したもの、Monitor XTはペーパーコーンをラミネートしたものなど、価格に応じて工夫をこらしている。
キャビネットについても、同価格帯で多いパーティクルボードではなく、MDFを採用しているとのこと。上位モデルにつれて本体質量が増していくが、一番安いMonitor XTについても、端材を内部に貼り付けるなどして剛性を効率的に高めているという。またMonitor XTはブラックのみのラインナップだが、これは色を絞って価格を下げる狙いがあるそうだ。
またネットワークに使われる部品については、それぞれの価格帯に対して「1クラスまたは2クラス上に使われるようなグレード」だと澤田氏。また回路ではスロープに加えて補正も行っており、Monitor XTでは周波数特性、Signature Eliteでは周波数特性とインピーダンスの補正を行っているとのこと。最上位のReserveについては、かなり複雑な周波数補正も行っているという。
余談だが澤田氏によると、このネットワークによる補正は、2019年のヨーロッパ参入時に発売した「Signature Eシリーズ」でPolk Auidoが獲得した技術だという。同モデルはアメリカで発売されていた「Signatureシリーズ」をヨーロッパ仕様に変えたものだが、この際に試行錯誤があったという。結果的にSignature Eliteを含めた現行モデルでは世界共通のワールドワイドバージョンとして発売されており、ヨーロッパ仕様を開発した際の手法が功を奏したとのことだ。
ほか、Polk Audioではバスレフポートの形状でも工夫を行っており、「X-Port」と名付けられている。バスレフポートからは低音だけ出せれば良いが、実際には中音域も混ざってしまう。そこでバスレフに円筒形のチャンバーを設け、一部に開けている窓で熱変換を行い、700Hzくらいの周波数をキャンセルするという。
また、Polk Audioは分析的でモニター的な音ではなく「聴いていて心地よい、聴き疲れしないような音」をラインナップ全体で意図して作っているとのこと。さらにサウンドバーについても、より開拓を行っていきたいという。日本再上陸からシェアを伸ばし続けるPolk Audioだが、次の50年に向けてどのように展開を続けていくか期待したい。
イベントでは、Polk Audioの歴史の紹介、現行のコンポーネントスピーカーの紹介、そしてサウンドバーの紹介の順に行われた。本稿ではその流れに沿って、イベント内容をお届けしていく。
まず説明に入る前にビデオメッセージが流され、Polk Audio社長のフランク・スターンズ氏が「今年の6月22日に創立50周年を迎えた。振り返れば、学生たちで始めたPolk Audioも、今ではアメリカで最も愛されるスピーカーブランドのひとつになった」とコメント。
さらに、創業時の理念を今でも保ち続けていることに触れ、「彼らは、自分たちが買える最高のスピーカーを作ることを目標に会社を立ち上げました。ブランドのタグラインである “GREAT SOUND FOR ALL” は、そんなPolk Audioのもっとも重要なアイデンティティ」だと説明した。
先に触れたとおり、Polk Audioは1972年に、ジョージ・クロップファー、マシュー・ポーク、サンディ・グロスという、ジョンズ・ホプキンス大学の学生3人で設立された。ジョージ氏とマシュー氏はその前年からスピーカー「The Baby Bottoms」の開発を始めており、200ドルの貯金を使いガレージからスタートしたという。
スターンズ氏の話にあった “GREAT SOUND FOR ALL” は、素晴らしい音をなるべく多くの方に届けたいという、Polk Audioを最もシンプルに表現しているメッセージだという。創業当初は学生で余裕がなく、素材やパーツなどを手探りで試していたことから、現在でも「学生だった自分たちでも購入できるスピーカー」を目指しているそうだ。これについてD&Mホールディングスの高山氏は、「アフォーダブルなゾーンにプライドを持って取り組んでいる、珍しいアイデンティティ」だと説明していた。
創業から3年が経った1975年には、ベストセラーになった「MODEL 7」がリリース。翌年には「MONITOR 10」というモデルが発売され、こちらも大ヒットしたという。ちなみに当時の正確な価格な残っていないそうだが、MODEL 7については250ドルくらいの表記も見つかっているそうだ。
この後も成長を続け、1977年には自宅から工場でのライン生産に移行。1986年には、アメリカで最も成長した100社にも選ばれるようになり、NASDAQへの上場も果たしている。そして10年前の2012年の時点で、常にアメリカの中でトップシェアを争うようなブランドにまで成長したという。
2017年にはPolk AudioをもつSound Unitedが、デノンとマランツを保有するD&Mホールディングスを買収し、これが2020年に日本再上陸するきっかけとなった。なおPolk Audioは2019年にヨーロッパ市場へと参入しており、2021年にはEISA AWARDも獲得している。
現在Polk Audioは、日本市場においてコンポーネントスピーカーとサウンバーをラインナップしている。コンポーネントスピーカー「Reserveシリーズ」「Signature Eliteシリーズ」「Monitor XTシリーズ」の3種類、サウンドバー「Signa S4」「Signa S3」「REACT」の3種類となる。
このうちコンポーネントスピーカーは、2021年6月のReserveを皮切りに、8月にはSignature Elite、11月にはMonitor XTと、次々に製品を投入してきた。つまり最初の販売開始からまだ1年と少ししか経っていないが、すでに市場シェアは約4%、ブランド別順位は5位まで伸ばしてきたという(2022年5月時点のデータ)。
この人気の理由として高山氏が説明していたのが、「コストパフォーマンスの高さ」だ。アメリカではコンポーネントスピーカーの市場が日本の数十倍と大きく、大量生産によるコスト削減効果が得られるという。一方でこのスケールメリットは近年獲得したもので、本質的には “GREAT SOUND FOR ALL” という情熱とこだわりが生み出す、技術者たちの創意工夫やイノベーションにあるとのこと。またクリッペルアナライザーといった最新鋭の機器を用いるなど、新しいものを取り込むオープンな姿勢により、進化を続けているそうだ。
この創意工夫やイノベーションの例として紹介されたのが、ドライバーやキャビネット、ネットワークなどの各パーツだ。たとえばReserve/Signature Elite/Monitor XTのドライバーをそれぞれ並べてみると、下位モデルのMonitor XTの磁気回路が一番大きく、上位モデルほど小さくなっていっている。
D&Mホールディングスの澤田氏は、「実は3つのウーファーで駆動力に必要な磁束はあまり変わらない」と説明する。必要な磁束のために最適な設計を選ぶとReserveのもののように小さくなるが、Monitor XTでは汎用のフェライトマグネットを採用することでコストを下げているとのこと。入手しうる材料を最大限活かした結果、体積が大きくなったのだという。
Polk Audioではドライバーも独自で設計しており、最上位のReserveではトゥイーターに1インチのピナクル・リング・ラジエーターを搭載。またウーファーのコーンについても、Reserveはポリプロピレンを射出成形したタービンコーン、Signature Eliteはポリプロピレンをマイカで強化したもの、Monitor XTはペーパーコーンをラミネートしたものなど、価格に応じて工夫をこらしている。
キャビネットについても、同価格帯で多いパーティクルボードではなく、MDFを採用しているとのこと。上位モデルにつれて本体質量が増していくが、一番安いMonitor XTについても、端材を内部に貼り付けるなどして剛性を効率的に高めているという。またMonitor XTはブラックのみのラインナップだが、これは色を絞って価格を下げる狙いがあるそうだ。
またネットワークに使われる部品については、それぞれの価格帯に対して「1クラスまたは2クラス上に使われるようなグレード」だと澤田氏。また回路ではスロープに加えて補正も行っており、Monitor XTでは周波数特性、Signature Eliteでは周波数特性とインピーダンスの補正を行っているとのこと。最上位のReserveについては、かなり複雑な周波数補正も行っているという。
余談だが澤田氏によると、このネットワークによる補正は、2019年のヨーロッパ参入時に発売した「Signature Eシリーズ」でPolk Auidoが獲得した技術だという。同モデルはアメリカで発売されていた「Signatureシリーズ」をヨーロッパ仕様に変えたものだが、この際に試行錯誤があったという。結果的にSignature Eliteを含めた現行モデルでは世界共通のワールドワイドバージョンとして発売されており、ヨーロッパ仕様を開発した際の手法が功を奏したとのことだ。
ほか、Polk Audioではバスレフポートの形状でも工夫を行っており、「X-Port」と名付けられている。バスレフポートからは低音だけ出せれば良いが、実際には中音域も混ざってしまう。そこでバスレフに円筒形のチャンバーを設け、一部に開けている窓で熱変換を行い、700Hzくらいの周波数をキャンセルするという。
また、Polk Audioは分析的でモニター的な音ではなく「聴いていて心地よい、聴き疲れしないような音」をラインナップ全体で意図して作っているとのこと。さらにサウンドバーについても、より開拓を行っていきたいという。日本再上陸からシェアを伸ばし続けるPolk Audioだが、次の50年に向けてどのように展開を続けていくか期待したい。
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