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<山之内正のCES2008レポート>今年の主役“次世代ディスプレイ”の画質に迫る

公開日 2008/01/10 11:15
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CESで公開される展示には2種類ある。まずは発売を間近に控えた新製品。これはジャンルを問わず展示の中心だ。そしてもう一つはプロトタイプや技術発表である。取材の中心はあくまでも前者の新製品群だが、後者の展示も数年後の動向を占ううえで興味を引かれるものがたくさんある。今年のCESではなんといってもディスプレイが主役であり、試作品や技術発表についてもこの分野の展示が大いに目を引いた。画質とそれ以外の要素に分けて、今回のCESで筆者が注目した技術を順に紹介していこう。


パイオニアが出展した“コントラスト比無限大”の試作機(写真右)
まずは画質編。高画質化のテーマはコントラストと精細度それぞれの改善に大別できるが、まずは前者のなかで一番注目すべきはパイオニアが出展した2つのコンセプトモデルのうち、予備放電をゼロに抑えた新設計の次世代パネルである。このPDPが実現する映像表現の進化は、今回のCESにおけるディスプレイ展示のハイライトといっていいだろう。

デモンストレーションの方法がなかなか巧みで、来場者の驚きを誘う演出がうまい。30人限定の完全に遮光された専用ブース内で最初に見せられる映像は十分に深みのある黒を再現しているが、真っ暗闇のなかでは僅かに黒が浮き気味で、ディスプレイがそこにあるということがわかる。しかし、事情を知らなければなるほど優れた画質だとと思わせる映像である。


吸い込まれそうな奥行き感のある黒色を再現する(写真右)
しばらくして画面が完全にブラックアウトしたあと、これまで何もないと思われた空間からじわりと白い図形が浮かび上がってくる。左側の現行モデルではうっすら明るく見えている背景は、右側のコンセプトモデルでは完全な暗闇で周囲と溶け込み、どこまでが画面なのかも判然としない。写真に紹介したように一輪の花が映る場面では、まさに花だけが宙に浮かんで見え、背景の黒は吸い込まれそうな奥行き感がある。

現行KUROシリーズのデモンストレーションで使われている見慣れた映像が続いて映し出されるが、そのなかでも花火を映したシーンが特に印象的だ。漆黒のなかに突然明るい閃光が浮かび上がり、やがてそれが消えていくと再び完全な闇が訪れる。ここまで完全に沈み込んだ黒は家庭用のブラウン管テレビでも体験したことがなく、まったく新しい次元の表現といっていい。表示領域とフレーム部分を見分けようと目を凝らすが、じっくり見ていてもまったくその境目がわからない。ここまで深い黒の再現ができるようになることは、映像の作り手からも歓迎されるのではないだろうか。

予備放電をゼロにしたことのデメリットは、少なくとも今回のデモンストレーションで用意された映像からは確認することはできなかった。花火の映像でも応答性は現行モデルと変わらず、デモの後半で映し出された『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』でも気になるような不自然な挙動は見られなかったし、暗部の階調表現もほぼ同等の水準に達している。実際のところ、漆黒のインパクトがあまりに強く、そこに気を取られたのかもしれない。星空を背景に海賊船を遠景でとらえたシーンなど、闇に吸い込まれるような遠近感に圧倒されてしまった。

今回のパイオニアの発表は、フラットディスプレイのコントラスト改善が新しい段階に入ったことを意味する。有機ELディスプレイは大画面モデルの登場にまだ時間がかかりそうだし、SEDはまだ製品化の目処が立っていないのに対し、プラズマディスプレイはすでに確立した技術である。今回の技術が製品に搭載されるまで仮に1年あるいは2年かかるとしても、まったく新しいデバイスを投入する苦労に比べれば障壁はずっと低いはずだ。同時に展示された超薄型PDP技術をこの高コントラストモデルに導入することについても、時間をかければ実現可能だという。それほど遠くない時期に、この映像が家庭で楽しめるようになることを期待したい。


液晶テレビでは高精細化の新しい動きが見えてきた。4k相当の解像度の82インチ液晶パネルを出展したのはソニー(4,096×2,400画素)とサムスン(3,840×2,160画素)の2社だが、映像の美しさで来場者を釘付けにしたのは、静止画を中心にハイビジョンを超える超高精細映像の世界を提示して見せたソニーである。動画を表示していないのは適切なフォーマットコンバーターがないなどいくつか理由があるとのこと。まずはソニーのデジタル一眼レフカメラ(αシリーズ)で撮影した高解像度の静止画像で4kの世界を体験してもらうことが、今回の展示の目的だという。 


ソニーが出展した82V型の4K2K液晶テレビ
ソニーのブースでは、画面を4分割し、それぞれにフルHDの動画を表示するというデモンストレーションも行われた。それはそれでインパクトがあるが、たとえ静止画とはいえ、パネル一面に表示された4k映像のリアリティが、やはり大きな力を持っている。同じ高精細映像でもハイビジョンとは別格の実在感があり、空気感や温度感、そして奥行きの深さは想像を超えている。絶対的な画面サイズが重要な要素なので、この映像のリアリティは写真でもなかなか伝わらないと思う。

(山之内 正)

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