ケースイが覗いたNHKシンポジウム:「岐路に立つテレビ」
進まぬデジタル放送移行、総務省と国民の意識のズレ − アナログ停波までに何が必要か
■「アナログ停波への課題」
− 進まぬ地デジ対応。国民からはアナログ放送続行の声も
− ポイントは「共聴施設」の受信対策
次のテーマは「アナログ停波の課題」について、文研の村上聖一氏による発表があった。内容は視聴者の準備状況、事業者の見方、共聴施設の改修問題についてだ。
'09年1月の調査でデジタル受信機の普及実績は49.1%に止まっており、普及目標に比べて大きな差がある。地デジ対応を始める時期についての調査を見ると、4割近くが「アナログ停波の時に買い替える、購入する」と回答。この傾向は'08年から大きく変わっていない。「受信機器支援策への見方」について調査を見ると、8割近い人が政府による何らかの助成が必要と考えている。現在政府はNHK受信料の免除家庭への受信機の配布が予定されているが、それでは足りないという結果だ。
「アナログ停波に対する見方」では、半数以上が何らかの方法でアナログ放送を続けるように望んでいる。
一方、放送事業者はアナログ停波をどう見ているのだろうか?
「2011年7月時点での視聴可能世帯割合の予測」を調査したところ、地上テレビ事業者、CATV事業者ともに「2011年7月の停波に95%以上の世帯で地デジ視聴が可能」と予測したのは半数に満たなかった。事業者が普及の妨げになっている理由を考察したのが「受信機の普及が進まない理由」という調査だ。これによると買い控えや経済的な余裕に次いで、「共聴施設のデジタル化の遅れ」が並んでいる。共聴施設とはマンションなどの集合住宅での受信対策を指している。
さらに心配なデータが放送事業者、自治体などによる「アナログ停波できる時期の見通し」だ。もっとも多い地上デジタル事業者でも2011年7月に停波できると回答したのは6割しかなく、自治体にいたっては16%に止まっている。
集合住宅が多い都市部で地デジ普及の足かせになっているのが共聴施設改修問題だ。共聴施設改修で問題になるのが改修費で、「住民にデジタル化のメリットを認識してもらうのが難しい」、「予想以上に費用が高い」など、金銭的な問題が原因になり、共聴施設の改修が阻まれている。
これについて政府の予測を総務省の山川氏が説明した。「受信障害対策共聴のケーブルテレビ化についてはあっせんを行う。集合住宅でデジタル化に伴う紛争が発生した場合は総務省が法律、技術、共同住宅管理のエキスパートからなる「共聴施設デジタル化紛争処理センター」を設置し、住民と住宅管理者との紛争収拾にあたる。古い集合住宅をデジタル化する際に費用がかさむ場合は住民の負担を軽減する補助制度を用意する」とのこと。
これに対して司会の鈴木氏は「ケーブルテレビ技術協会の調査によると、'07年3月で約50%の世帯が改修不要となっている。しかし1年後の'08年3月の数字を見るとたった6%しか改修は進んでいない。この'07年、'08年のペースで'09年を迎えると210万世帯の改修が終わっていないことになる。さらに深刻なのは、この数字は4階建て以上の集合住宅(世帯数が52万棟、約770世帯以上)を基準とした場合のことで、このなかに1〜3階建ての集合住宅は含まれていない。1階建て以上の集合住宅を集計すると、対象となる世帯数は200万棟、1,900万世帯になり、そのうち改修が必要なのは530万世帯にもなります。あと2年でこれだけの世帯の改修は可能でしょうか?」と質問。
山川氏は「アナログ停波のギリギリになって工事が集中しないようにしないといけません。そのためにデジタル化のピークを2009年度(〜2010年3月末まで)中に迎えたいと思っています。そのために'09年5月15日から'10年3月31日まて、緊急経済対策としてエコポイントをスタートさせて地デジ対応テレビの普及を後押しします」と答えた。
ここで会場からの質疑応答になった。
Q.光ファイバーを使ったIP方式の地デジ再送信は実現するのか?
A.(山川氏)基本的に放送波で届けるように努力するが、2011年7月時点で、約35万世帯で地デジが受信できないままアナログ停波を迎えてしまう見込みだ。こういった世帯には地上波の送信設備が整うまで、放送衛星を使って、地デジを送信する。衛星での受信には専用の機器が必要だが、これについては国が用意して無償で提供する。IP接続での地デジ再送信については一つの選択肢だが、光ファイバーの設置について補助をするわけでなく、個人での対応になる。
(竹中氏)アナログ停波は政策なので、郵政民営化のように政府が断行すれば実現できる。最終的には時の総理大事、総務大臣、総務省がどう判断するかということだろう。日本は2010年に「ブロードバンド・ゼロ地域」(ADSL、光接続、CATVインターネットなどのブロードバンドサービスが利用できない世帯数がゼロになる)が実現します。そして2011年に地上デジタル放送に完全移行する。当初地デジは「地上波デジタル」と言っていたが、いまでは「地上デジタル」というように“波”を外して呼ばれているのを見ると、「電波」にこだわる必要はないのではないか。
Q.アナログ停波が遅れることはあるのか? また、アナログ停波が遅れた場合のデメリットはどんなものか?
A.(山川氏)アナログ停波に日程がぶれると、買い控えにつながり消費者が混乱してしまう。政府としてはアナログ停波の日程は動かさないのが前提だ。デジタル化は世界の流れなので、いつまでもアナログ放送を残すことはない。
地デジの難視聴地域には衛星放送を利用することは確定していたが、政府としてはなんとしても2011年7月の停波を死守するという意気込みが感じられた。また集合住宅のデジタル化に伴う紛争を解決する「共聴施設デジタル化紛争処理センター」の働きにも期待したい。
第二部は堺屋氏が「これまでの議論では、デジタル化のメリットがわかりづらく、これが普及を阻んでいる原因だ。デジタル放送になれば、テレビがこれだけ面白くなる、視聴者に利益がある、という部分を前面にだせば理解は得やすい。『国策だから従え、必要なら補助金を出す』という論法ではいつまでたっても理解は得られない」と締めくくって終了した。