エミライが新技術発表会を開催
<ヘッドホン祭>MrSpeakers、静電型ヘッドホンの試作機を披露 - ‘16年内に登場予定
エミライは、29日より開幕した「春のヘッドホン祭 2016」にて、同社が取り扱う米MrSpeakersの新技術発表会を開催。現在開発中の静電型ヘッドホンのプロトタイプを披露した。
発表会には、MrSpeakersの創始者でありエンジニアであるダン・クラーク氏が登場。自ら開発中の静電型ヘッドホンについて語った。また、前日28日にはプレス向けに事前説明会も開催。こちらの内容も踏まえて、その詳細を紹介していく。
同社はこれまで平面磁界駆動型(プラナー型)ヘッドホンを手がけてきたが、静電型ヘッドホンを手がけるのは初めて。今回出展された静電型ヘッドホンのプロトタイプは「ETHER Electrostatic」(本項では「静電型ETHER」と記す)と仮称されていたが、現時点で正式名称は未定。価格および発売時期についても未定とのこと。ダン・クラーク氏は価格について、「ETHERよりは高くなるが、静電型だからといってものすごく高価なものにはならないことを目指している」とコメントした。発売時期については「2016年内の出荷を目指している」とのことだった。
静電型ETHERのプロトタイプは、外見はカラーをのぞけば通常版ETHERとまったく同様で、実際にハウジングやヘッドバンドは同様のものを用いている。会場には3つの個体が持ち込まれたが、試験的にそれぞれ異なる音作りを行っているという。披露されたプロトタイプは、STAX方式を改造したケーブルを用いて、STAX方式の5pin端子を搭載した静電型用ヘッドホンアンプに接続して駆動されていた。なお静電型ETHERのバイアス電流については、STAXと同様とのことだ。
発表会ではダン・クラーク氏が、その詳細や開発過程などについて詳しく説明してくれた。なお、MrSpeakersのこれまでの歴史とダン・クラーク氏の経歴はこちらの記事で詳しく説明しているのでご参照いただきたい。
■開発テーマは「静電型ヘッドホンの魅力をより身近なものにしたい」
静電型ETHERは、「Electrostatic for Everyone(すべての方に静電型ヘッドホンを)」というテーマで開発が行われたという。クラーク氏は何より静電型ヘッドホンの“音”が好きだったが、一方で静電型の敷居の高いイメージや価格の高さには疑問を感じていたという。
また、静電型ヘッドホンの音は好んでいたものの、従来モデルに対しては低音の不足や、音の透明度が突き詰めきれていないことに不満があった。そこで、これまで手がけてきたETHERやETHER Cのサウンドの長所と、静電型ヘッドホンならではの透明感や解像度の高さをミックスした製品を作りたいと思い、今回の静電型ETHERの開発着手に至ったとのことだ。
ダン・クラーク氏はまず最初に、静電型ヘッドホンと、平面磁界駆動型を含むダイナミック型ヘッドホンの違いについて説明した。
プラナー型を含めたダイナミック型ヘッドホンは、ごく単純化すれば、マグネットの磁界の中に配置したボイスコイルを電流によって駆動させ、ボイスコイルに直結した振動板(ダイアフラム)も動かし、音声を発生させるというものだ。
一方で、一般的な静電型ヘッドホンは、1組のステーターと呼ばれる金属プレート(電極)の間にごく薄い振動膜(ダイアフラム)を配置。ステーターに電流を流すことで、静電力の変化が発生し、これによって振動獏が振動して音がでるという仕組みだ。
静電型の、ダイナミック型に対する優位性とは何だろうか。まずダイアフラム自体自体が金属ではなくPETなどによる膜でできており、この膜全面が静電力によって均一に振動して音が出る。ボイスコイルの動きでダイアフラムが駆動するダイナミック型と異なり、分割振動が原理的に発生しにくくなっている。
一方で静電型にもデメリットはある。ステーターと振動膜の距離は1mm以下で、設計および製造は非常に難しい。振動膜の可動幅が小さいため、低音はダイナミック型より出しにくい構造だ。
ダン・クラーク氏自身は、これまで手がけてきたプラナー型と静電型は、それぞれ一長一短であると語る。それでも、やはり静電型ヘッドホンでしか実現できないサウンドがあると述べた。
「クラリティの高い澄み渡った音、そして解像度という点では、静電型ヘッドホンが最高だと考えています。私は音楽を聴く際にボーカルの帯域がいかにクリアに聴こえるかを重視しますが、今回の静電型ETHERでも、その点を大きな目標としました」(クラーク氏)。
■静電型ながら優れた低域再生を実現する
MrSpeakersはプラナー型ヘッドホンにおいても、V-Planar振動板の開発をはじめ独創的な技術を採用してきた。静電型ETHERにおいても、やはり同社の独自技術が用いられたのだろうか。
静電型ETHERと既存の静電型ヘッドホンとの違いについて話が向くと、クラーク氏は特許出願中の独自技術が多数用いられていることを示唆し、その詳細については多くを語らなかった。このあたりはやはり「企業秘密」という。
プレス向けの発表会では、ダン・クラーク氏のプレゼンテーションに先立って試聴が行われたが、静電型ヘッドホンらしからぬ豊かな低音にも驚かされた。クラークも、これまでの静電型ヘッドホンとは一線を画す低域再現を目指したと説明していた。実際、-3dB 50Hzという低域の減衰特性を実現したという。
このような低域再現が可能になった技術背景は具体的には明かされなかったが、同氏は「これまで他社メーカーの静電型ヘッドホンは低音にそれほど注目してこなかったようで、それだけにこの点には苦労しました。様々な形のダイヤフラムや電極の試作を繰り返し、失敗も重ねることで、ここまでたどり着いたのです」と開発の苦労を語った。
ダイヤフラムなど心臓部の詳細はほぼ明かされなかったが、「ダイヤフラムの薄さには注目している」とのこと。静電型ヘッドホンの振動膜にはPETフィルムを使うのが一般的だが、デュポンのマイラー素材なども試したという。最終的に採用した素材はもちろん企業秘密だが、100ミクロン程度の振動膜を用いるモデルがあるなかで、静電型ETHERは10ミクロン以下の厚さの振動膜を採用しているとのことだった。
静電型ETHERの特徴として「快適な装着感」も挙げられた。本機は本体質量が300gと、静電型ヘッドホンとしては非常に軽い部類となる。なおイヤーパッドについてはETHER Cのものも試作機では用いられたが、これは装着感や音質を考慮した結果のようだ。
現在開発を進めている段階で、特に品質面の追い込みは徹底して行っているとのこと。静電型ヘッドホンはその性質上、湿度に対してデリケートである。MrSpeakersスピーカーでは、日本を含むアジアの高温多湿地域への展開も考慮して、高湿度を保てる検査室で試験を繰り返して行い、故障率の低さも実現したという。
■複数メーカーが本機とのマッチングを考慮した静電型用アンプを開発中
静電型ヘッドホンには、専用アンプが必ず必要になる。発表会では、ダン・クラーク氏が静電型ETHERの開発にも使った静電型用ヘッドホンアンプと組み合わせてデモが行われていた。用意されたのはcavalli audioの「Liquid Lightning」と、Headampの「Blue Hawaii」という2つのモデルで、いずれも価格は5,000ドルという高価格帯モデルだ。今回は静電型ETHERのポテンシャルを確認してほしいと、クラーク氏自身がその音を認めるアンプが持ち込まれた。
実際にMrSpeakersから静電型ETHERが発売されたとき、どのようなヘッドホンアンプとの組み合わせが想定されるのだろうか。MrSpeakersは現時点で、静電型用ヘッドホンアンプを開発する予定はないという。だが「より多くの方に静電型ヘッドホンを届けたい」というクラーク氏の思想に賛同するメーカーが複数あり、静電型ETHERの登場とタイミングを同じくして、音質的にも価格的にもマッチングする静電型用ヘッドホンアンプが登場してくる予定とのこと。
これら静電型用ヘッドホンアンプについては、STAX方式の5ピン端子とは異なる端子方式を現在検討しているという。「STAX方式の5ピン端子は入手が難しく、結果的に製品価格が高くなってしまいます。それに5ピン端子だと形状も大きく、製品の形状も大きくなってしまうので、できることならより小さく、より薄い端子を開発したいと考えています」(クラーク氏)。
また、これら静電型ヘッドホンアンプについても、「Electrostatic for Everyone」という言葉を裏切らない価格で提供することを目指しているという。
■Head-Fiの創始者Jude Mansilla氏がMrSpeakersの世界的評価を解説
発表会では、米国のヘッドホン・ユーザー向けコミュニティーサイト「Head-Fi」の創始者であるJude Mansilla氏が登場。MrSpeakersの世界的な評価について言及した。
Jude Mansilla氏は、MrSpeakersを「パーソナル/ポータブルオーディオに特化したユニークなブランド」と紹介。同様のブランドの代表例として、AudezeやHIFIMAN、Astell&Kernを挙げ、「MrSpeakersもこれらブランドの仲間入りをしている」と称えた。
また、MrSpeakersが既存モデルを改造するモディファイからスタートしたことにも言及しつつ、「モディファイという文化から始まったが、今ではドライバーはもちろん、シャーシやネジに至るまで自社開発している」と紹介。同カテゴリーにおける高いコストパフォーマンスも魅力で、Head-Fiの読者の注目度も高いとコメントしていた。
発表会には、MrSpeakersの創始者でありエンジニアであるダン・クラーク氏が登場。自ら開発中の静電型ヘッドホンについて語った。また、前日28日にはプレス向けに事前説明会も開催。こちらの内容も踏まえて、その詳細を紹介していく。
同社はこれまで平面磁界駆動型(プラナー型)ヘッドホンを手がけてきたが、静電型ヘッドホンを手がけるのは初めて。今回出展された静電型ヘッドホンのプロトタイプは「ETHER Electrostatic」(本項では「静電型ETHER」と記す)と仮称されていたが、現時点で正式名称は未定。価格および発売時期についても未定とのこと。ダン・クラーク氏は価格について、「ETHERよりは高くなるが、静電型だからといってものすごく高価なものにはならないことを目指している」とコメントした。発売時期については「2016年内の出荷を目指している」とのことだった。
静電型ETHERのプロトタイプは、外見はカラーをのぞけば通常版ETHERとまったく同様で、実際にハウジングやヘッドバンドは同様のものを用いている。会場には3つの個体が持ち込まれたが、試験的にそれぞれ異なる音作りを行っているという。披露されたプロトタイプは、STAX方式を改造したケーブルを用いて、STAX方式の5pin端子を搭載した静電型用ヘッドホンアンプに接続して駆動されていた。なお静電型ETHERのバイアス電流については、STAXと同様とのことだ。
発表会ではダン・クラーク氏が、その詳細や開発過程などについて詳しく説明してくれた。なお、MrSpeakersのこれまでの歴史とダン・クラーク氏の経歴はこちらの記事で詳しく説明しているのでご参照いただきたい。
■開発テーマは「静電型ヘッドホンの魅力をより身近なものにしたい」
静電型ETHERは、「Electrostatic for Everyone(すべての方に静電型ヘッドホンを)」というテーマで開発が行われたという。クラーク氏は何より静電型ヘッドホンの“音”が好きだったが、一方で静電型の敷居の高いイメージや価格の高さには疑問を感じていたという。
また、静電型ヘッドホンの音は好んでいたものの、従来モデルに対しては低音の不足や、音の透明度が突き詰めきれていないことに不満があった。そこで、これまで手がけてきたETHERやETHER Cのサウンドの長所と、静電型ヘッドホンならではの透明感や解像度の高さをミックスした製品を作りたいと思い、今回の静電型ETHERの開発着手に至ったとのことだ。
ダン・クラーク氏はまず最初に、静電型ヘッドホンと、平面磁界駆動型を含むダイナミック型ヘッドホンの違いについて説明した。
プラナー型を含めたダイナミック型ヘッドホンは、ごく単純化すれば、マグネットの磁界の中に配置したボイスコイルを電流によって駆動させ、ボイスコイルに直結した振動板(ダイアフラム)も動かし、音声を発生させるというものだ。
一方で、一般的な静電型ヘッドホンは、1組のステーターと呼ばれる金属プレート(電極)の間にごく薄い振動膜(ダイアフラム)を配置。ステーターに電流を流すことで、静電力の変化が発生し、これによって振動獏が振動して音がでるという仕組みだ。
静電型の、ダイナミック型に対する優位性とは何だろうか。まずダイアフラム自体自体が金属ではなくPETなどによる膜でできており、この膜全面が静電力によって均一に振動して音が出る。ボイスコイルの動きでダイアフラムが駆動するダイナミック型と異なり、分割振動が原理的に発生しにくくなっている。
一方で静電型にもデメリットはある。ステーターと振動膜の距離は1mm以下で、設計および製造は非常に難しい。振動膜の可動幅が小さいため、低音はダイナミック型より出しにくい構造だ。
ダン・クラーク氏自身は、これまで手がけてきたプラナー型と静電型は、それぞれ一長一短であると語る。それでも、やはり静電型ヘッドホンでしか実現できないサウンドがあると述べた。
「クラリティの高い澄み渡った音、そして解像度という点では、静電型ヘッドホンが最高だと考えています。私は音楽を聴く際にボーカルの帯域がいかにクリアに聴こえるかを重視しますが、今回の静電型ETHERでも、その点を大きな目標としました」(クラーク氏)。
■静電型ながら優れた低域再生を実現する
MrSpeakersはプラナー型ヘッドホンにおいても、V-Planar振動板の開発をはじめ独創的な技術を採用してきた。静電型ETHERにおいても、やはり同社の独自技術が用いられたのだろうか。
静電型ETHERと既存の静電型ヘッドホンとの違いについて話が向くと、クラーク氏は特許出願中の独自技術が多数用いられていることを示唆し、その詳細については多くを語らなかった。このあたりはやはり「企業秘密」という。
プレス向けの発表会では、ダン・クラーク氏のプレゼンテーションに先立って試聴が行われたが、静電型ヘッドホンらしからぬ豊かな低音にも驚かされた。クラークも、これまでの静電型ヘッドホンとは一線を画す低域再現を目指したと説明していた。実際、-3dB 50Hzという低域の減衰特性を実現したという。
このような低域再現が可能になった技術背景は具体的には明かされなかったが、同氏は「これまで他社メーカーの静電型ヘッドホンは低音にそれほど注目してこなかったようで、それだけにこの点には苦労しました。様々な形のダイヤフラムや電極の試作を繰り返し、失敗も重ねることで、ここまでたどり着いたのです」と開発の苦労を語った。
ダイヤフラムなど心臓部の詳細はほぼ明かされなかったが、「ダイヤフラムの薄さには注目している」とのこと。静電型ヘッドホンの振動膜にはPETフィルムを使うのが一般的だが、デュポンのマイラー素材なども試したという。最終的に採用した素材はもちろん企業秘密だが、100ミクロン程度の振動膜を用いるモデルがあるなかで、静電型ETHERは10ミクロン以下の厚さの振動膜を採用しているとのことだった。
静電型ETHERの特徴として「快適な装着感」も挙げられた。本機は本体質量が300gと、静電型ヘッドホンとしては非常に軽い部類となる。なおイヤーパッドについてはETHER Cのものも試作機では用いられたが、これは装着感や音質を考慮した結果のようだ。
現在開発を進めている段階で、特に品質面の追い込みは徹底して行っているとのこと。静電型ヘッドホンはその性質上、湿度に対してデリケートである。MrSpeakersスピーカーでは、日本を含むアジアの高温多湿地域への展開も考慮して、高湿度を保てる検査室で試験を繰り返して行い、故障率の低さも実現したという。
■複数メーカーが本機とのマッチングを考慮した静電型用アンプを開発中
静電型ヘッドホンには、専用アンプが必ず必要になる。発表会では、ダン・クラーク氏が静電型ETHERの開発にも使った静電型用ヘッドホンアンプと組み合わせてデモが行われていた。用意されたのはcavalli audioの「Liquid Lightning」と、Headampの「Blue Hawaii」という2つのモデルで、いずれも価格は5,000ドルという高価格帯モデルだ。今回は静電型ETHERのポテンシャルを確認してほしいと、クラーク氏自身がその音を認めるアンプが持ち込まれた。
実際にMrSpeakersから静電型ETHERが発売されたとき、どのようなヘッドホンアンプとの組み合わせが想定されるのだろうか。MrSpeakersは現時点で、静電型用ヘッドホンアンプを開発する予定はないという。だが「より多くの方に静電型ヘッドホンを届けたい」というクラーク氏の思想に賛同するメーカーが複数あり、静電型ETHERの登場とタイミングを同じくして、音質的にも価格的にもマッチングする静電型用ヘッドホンアンプが登場してくる予定とのこと。
これら静電型用ヘッドホンアンプについては、STAX方式の5ピン端子とは異なる端子方式を現在検討しているという。「STAX方式の5ピン端子は入手が難しく、結果的に製品価格が高くなってしまいます。それに5ピン端子だと形状も大きく、製品の形状も大きくなってしまうので、できることならより小さく、より薄い端子を開発したいと考えています」(クラーク氏)。
また、これら静電型ヘッドホンアンプについても、「Electrostatic for Everyone」という言葉を裏切らない価格で提供することを目指しているという。
■Head-Fiの創始者Jude Mansilla氏がMrSpeakersの世界的評価を解説
発表会では、米国のヘッドホン・ユーザー向けコミュニティーサイト「Head-Fi」の創始者であるJude Mansilla氏が登場。MrSpeakersの世界的な評価について言及した。
Jude Mansilla氏は、MrSpeakersを「パーソナル/ポータブルオーディオに特化したユニークなブランド」と紹介。同様のブランドの代表例として、AudezeやHIFIMAN、Astell&Kernを挙げ、「MrSpeakersもこれらブランドの仲間入りをしている」と称えた。
また、MrSpeakersが既存モデルを改造するモディファイからスタートしたことにも言及しつつ、「モディファイという文化から始まったが、今ではドライバーはもちろん、シャーシやネジに至るまで自社開発している」と紹介。同カテゴリーにおける高いコストパフォーマンスも魅力で、Head-Fiの読者の注目度も高いとコメントしていた。