HDR動画の記録/再生が1台のスマホで実現
<レポート>クアルコムの最新SoC「Snapdragon 845」で、モバイルAV体験はこう変わる
画像処理プロセッサーとGPU、DSPのパフォーマンス向上により、Snapdragon 845シリーズでは新たに4K/60fpsのHDR動画のキャプチャーがスムーズに行えるようになる。4K/HDRの表示までとしていた835シリーズのスペックを、ユーザー体験的には大きくブレイクスルーした格好になる。
最終的にはメーカーがつくる端末の作り込み次第ということにはなるが、今後Snapdragon 845シリーズを搭載するスマートフォンやタブレットなどのデバイスは、そのパフォーマンスを最大に活かすことでBT.2020の色域をカバーする豊かな10bitの色彩と、鮮やかで自然な明暗情報を持つ動画コンテンツの撮影、および表示を1台のスマホで実現できるようになる。
なお本稿執筆時点で、4K/HDRコンテンツのディスプレイ表示に対応したスマホは「Xperia XZ Premium」が商品として発売されているが、4K/HDR動画の撮影機能を搭載する端末はまだ存在していない。
4K/HDR以外にも、新しい画像処理プロセッサー「Spactra 280」は、理論上最大32MPの画素数を持つイメージセンサーから入力された情報を素速く正確に処理できる。このプロセッサーとGPUやDSPの組み合わせによって、被写体の深度情報をより正確にキャプチャすることも可能になる。先ごろ発売されたiPhone XやGalaxy Note 8が搭載して話題を呼んでいる顔認証システムも、さらに高いレベルのセキュリティ性が確保できるという。
クアルコムではVR(仮想現実)/AR(拡張現実)/MR(複合現実)の各技術を「XR(Extended Reality)」と総称しているが、Snapdragon 845シリーズを搭載したデバイスでは、GPU「Adreno 630」とDSP「Hexagon 685」の高い処理性能によって一段と快適なXRエンターテインメントが楽しめるようになる。
一例としては、6DoF(6自由度)対応のモーションデータ取得や、センサー情報を活かしたSLAM(空間マッピング)によるルームスケールVRが可能になることからも、コンテンツのプレーヤーはVR空間の中を自由に動き回りながらリアルな没入感が得られる。平面だけでなく、壁面も加えた精度の高い空間マッピングに対応できることも特徴だ。
クラウドのパワフルなAIプラットフォームに、エッジ側端末の「オンデバイスAI」でリアルタイムに取得した情報を掛け合わせながら、ハイグレードなモバイルAIを実現するというコンセプトは、クアルコムがいち早く提案してきたものだ。
最新のSnapdragon 845シリーズは、現行のSoCに比べて約3倍のパフォーマンス向上を図っている。主な処理を司るDSP「Hexagon 685」により、画像処理プロセッサーやXR関連のセンサーから読み取った情報を素速く認識して、スムーズなコンテンツ生成にバトンタッチする。発表会ではSnapdragonのディープラーニングのためのソフトウェア開発キット「Neural Processing Engines」が、グーグルの「TensorFlow」やFacebookの「Caffe2」などのディープラーニングのためのソフトウェアライブラリと高い親和性を確保していることが紹介された。
また、Snapdragon 845シリーズとオーディオコーデック「Qualcomm Aqstic WCD9341」の組み合わせを、スマートスピーカーのようなAIアシスタントと音声入力インターフェースを持つデバイスに搭載することにより、認識精度が高く且つ低消費電力で駆動できる製品も開発できるという。
オーディオに関連するトピックには、この他にも既報の通り「Qualcomm TrueWireless」の発表内容に、クアルコムのBluetooth接続でハイレゾ相当のワイヤレス再生を実現するオーディオコーデック「aptX HD」に対応したことや、完全ワイヤレスイヤホンの左右間、あるいはプレーヤーとイヤホン間の接続を一段と安定させる技術も含まれている。本件については明日のイベント取材をもとに、また詳しい内容をレポートする予定だ。
最後に新しいSnapdragon 845シリーズのコアを構成する、ギガビットLTE通信に対応するモデムチップ「X20 LTE modem」についても触れておこう。下り速度約1Gbpsを実現するギガビットLTEの通信サービスは、日本国内ではまだ立ち上がっていないが、今日時点で欧米豪をはじめとする23カ国・43の通信事業社で始まっている。
ギガビットLTE対応については、現行SoCの835シリーズに搭載されているモデムチップX16でもいち早く実現しているが、X20では最大1.2Gbpsの下り通信速度までスペックを引き上げた。Wi-Fiも超高速通信に対応する802.11adをサポートしたほか、5つの周波数を束ねるキャリアアグリゲーションの技術、マルチアンテナによる高速通信なども835シリーズからのステップアップに含まれる。
現地時間12月6日に行われたSnapdragonの記者発表会に続き、クアルコム テクノロジーズのMobile SVP and General Managerを務めるAlex Katouzian氏が、日本から集まったジャーナリストからの質問に対してラウンドテーブル会見で答えた。
今回発表された最新のSoCに搭載されているハイスペックな通信性能は、クアルコムの先進技術が実現した着実な正常進化であることにほかならないが、これほどまでのパフォーマンスを追求した背景には、4KやHDRなど高品位なモバイル端末向けのコンテンツ配信が世界各国で立ち上がり、ユーザーの支持を集めていることがあるとKatouzian氏が述べている。
4K動画をモバイルネットワークで視聴すると、当然ながらパケット通信の量も比例して大きくなるものだが、Katouzian氏は「北米では既にパケットが無制限に使えるサービスと通常の定額制サービスとの間で、利用価格のギャップが埋まりつつある。そのため、モバイル端末でリッチコンテンツを楽しむことに対するユーザーの抵抗感も薄まりつつある」との見解を示した。
日本は特に通勤・通学の移動中にスマホで動画を楽しむユーザーが多いと言われているが、今後ハードウェアとサービスの進化に伴い、モバイルネットワークを活用した映像・音楽コンテンツの楽しみ方も多様化していくことになるのだろうか。Snapdragon 845シリーズを搭載するデバイスの登場後は、さらに注目すべきポイントになりそうだ。