「人の幸福から離れて生き残る会社はありません」
パナソニックは「くらしアップデート業」を営み、共創する。津賀社長が創業100周年記念講演で語った決意
■“くらしアップデート業” 事例その3「スマートレストラン(海底労)」
津賀社長は、実例として挙げられたパートナーとの「共創」にくわえて、もうひとつの大切なポイントがあるとして、次のように語った。
次の事例も中国企業をパートナーにした取り組みになります。火鍋の専門店を363店舗展開している『海底労(かいていろう)』という、従業員を5万人ほど抱えた企業です。日本では “なぜ火鍋?” と感じる方もいらっしゃると思いますが、中国の外食産業のなかの11%が火鍋市場で。6兆円を超える市場規模になります。
中国は見事なマーケット成長の裏で、まだ様々な問題を抱えているのが現実です。海底労は、食の安全性についての課題をクリアしながら、これまでにない新しい顧客体験を生み出したいと考えていました。海底労とは今年の3月にジョイントベンチャーを立ち上げ、いわゆるロボット化を促進化した「スマートレストラン構想」を一緒に手掛けています。
ロボット化によって、必要な人員を半分にすることができますが、それ以上の価値になっているのが、食品の安全性の確保になります。
現在は厨房で食品を切ったり、盛り付けたりをしていますが、それだとどうしても安全面でのリスクが出てきます。そこでパナソニックでおかず機を開発しました。もともとは工業用のロボットアームをベースに改良して、おかず機に転用しました。
メニューが60種類あり、食材の台車にRFIDを付け、セントラルキッチンと紐づかせることで、トレーサビリティを可能にして、安全に安定したサービスの提供を可能にしたシステムです。
こうした安全性は、お客様からは見えないウラ側の価値です。オモテ側で提供している価値は、いつでもどこでも自分だけの好みの味が楽しめるのです。海底労ではお客様はタブレットで注文しますが、中国では3,000万人ほどが会員になられていて、会員はこれまでの利用履歴を見ながら、スープを自分好みの味にカスタマイズしていくことができます。前回と同じ味でもいいですし、その日の気分によって調整することもできます。
さらにこうした食事を、プロジェクターを使って、ときには雪山、ときには熱帯雨林など映し出しながら、記憶に残る体験に仕立てています。このスマートレストラン化した店舗は、まだ一号店を開店したばかりですが、これからの構想はすでに動き始めています。
ここで蓄積したノウハウを基に、他の飲食店にスマートレストラン化のソリューションを提供していくことも視野に入れています。この事例でお伝えしたいもう一つのポイントは、「兎にも角にもはじめてみる」ということです。
■“あえての未完成品” で、今日の好みにアップデートする
生活者をマスと捉えて、アップグレードを基本としていた時代は、その細部に至るまでを完ぺきともいえるレベルまで企業側で仕上げてから、世の中に提供しておりました。ただし、その環境、その人、その時によって、求められるものをアップデートしていくべき時代は、安全面などをクリアできてさえいれば、 “あえての未完成品” ともいえる段階で、世の中に出していくべきだと考えています。
不良品ではなく “あえての未完成品” です。もっと正確に言いますと、使ってくれる人の手に渡ってからも、その人向けに成長する余白を持たせた状態のものです。
海底労では、会員になれば、好みの味をデータとして残しておくことができます。お客様とつながっていることで、あとから一歩ずつ、そのときのお客様のベストな味にカスタマイズしていくことができます。完成品に仕上げるのは企業ではなくお客様です。秘伝のたれを海底労が押し付けるのではなく、お客様のたれをお客様が完成させるのです。これがひとりひとりと向き合った、そのときどきにフィットさせたサービスを提供するポイントです。昨日食べたかった味と、今日食べたい味とが異なっていても、今日の好みにちゃんとアップデートできるようにします。
■“くらしアップデート” のベースとなる「HOME X」
パートナーと共創しながら、ひとりひとりにフィットした “くらしアップデート” を実現する、このような考え方に基づいて、これまでパナソニックがずっと向き合ってきた、家という空間をベースに新たに打ち出そうとしているサービスとして、津賀社長により「HOME X」(ホームエックス)が次のように紹介された。
HOME Xとは、住む人に寄り添って、暮らしに24時間365日、常時接続することによって、その方がいま何を求めているのかを理解するための情報基盤です。季節や、天候、気分によって変わる、その人が求めているものに柔軟にフィットさせ続け、また新たな提案をしつづけるための情報を導き出します。
ただしHOME Xだけでは何の意味もありません。HOME Xは様々な “くらしアップデート” のベースになる情報基盤にすぎないからです。何を求めているかという情報を元に、その時の気分に合わせた音楽が流れてきたり、寒い日にカラダがポカポカになる鍋のレシピが紹介されたり、そのときにピッタリのサービスが提供されることで、はじめて生活者にとっての価値になります。
生き物のように変化し続ける情報と、それに基づいて機器やサービスも生き物のように変化しつづけることが、これからの時代には求められるようになります。せっかく最新の家電を手にしても、新製品が出たとたんにその家電が古くなる、そんな時代は終えなければなりません。
家電はそれを使っている人に合わせるように進化していく時代になります。サービスもそれを活用している人にあわせて更新されつづけるようになります。だから、 “あえての未完成品” でなければいけないのです。完成品に仕立て上げるのは、その時点でそれを使っている人でなければなりません。
くらしに常時接続していることで、その人の気持ちや嗜好性とそのタイミングとを掛け合わせることができ、結果的としてこれまでにない新たな体験価値を提供することができるようになります。
■「人の幸福から離れて生き残る会社はありません」
HOME Xへのチャレンジに象徴されているように、これからのパナソニックは、パナソニックがいいと判断したモノやサービスを提供するだけでなく、実際にそのモノやサービスを使われる方に合わせてカスタムされつづけ、更新されつづけることを前提としたモノやサービスの開発を手掛けていきます。
願わくば、この世の中に生きるすべての人の、すべての時間にフィットさせられるだけのサービスを提供できるようにしたいと思います。当然のことながら、パナソニックの力だけでは足りません。皆様方ともっともっとご一緒したいと考えています。
(基調講演の)冒頭に映像を見ていただきましたが、その中にこんな一文を入れています。
「人の幸福から離れて生き残る会社はありません」
私たちパナソニックもそうです。ここにいらっしゃる皆様の会社も漏れることなくそうだと思います。私たちは人の幸福を作るために存在しているのです。私たちは人の幸福を作るための同志であり、仲間です。ともに理想を語り合い、ともに壁の乗り越え方を議論しあい、たとえ小さくとも、そこに生きる人のくらしをより良くするための企てをもっともっとご一緒したいと切に願っております。
本日皆様にお約束します。皆さまとご一緒できるときに、皆さまを失望させることがないように、パナソニックはつねに前進していきます。パナソニックという会社もたいへん微力ではありますが、皆さまに何かしらの価値をご提供できる会社であると我ながら感じております。さきほどご紹介さし上げた、中国企業家倶楽部といったパナソニックならではのネットワークもそのひとつかもしれません。私たちなりに日々テクノロジーを進化させていますので、そうした技術が使えることもあるでしょう。私はもっともっとたくさんの会社と未来について語り合い、切磋琢磨していきたいと考えています。
100周年というこの契機において、私から皆さまに直接お伝えしたかったことは、パナソニックのこの新たな決意、そして、皆様とご一緒していきたいという強い想いになります。
人々のくらしを、そして人々が暮らす社会を皆でよりよくしていきましょう。本日は誠にありがとうございました。