米サンディエゴで発表会が開催
スマートスピーカーにもAVアンプにも使える、クアルコム多機能SoC「QCS40x」詳報
話題をQCS40xシリーズのオーディオ性能の紹介に移そう。音声出力はシングルチップで最大32チャンネルまでの信号処理に対応する。Hi-FiオーディオはDSD512、384kHz/32bitのリニアPCMのネイティブ再生が可能。オブジェクトオーディオについてはラインナップの中にドルビーアトモス、DTS:Xのデコーダーを搭載するICも揃う。また北米に欧州、韓国では放送用の音声フォーマットとして採用が広がるMPEG-Hにも対応する。
デジタル接続はSPDIFの送受信、6×4レーンのI2S、USB3.0/USB2.0、PCIeなど幅広い拡張性を持たせている。HDMIはTX(送信機/トランスミッタ−)も統合しているので、外付けのICチップを用意しなくてもHDMI ARC/eARC機能を搭載するサウンドバーなどのコンポーネントを容易に設計できる。
■最先端の高速Wi-Fi。BluetoothはaptX Adaptiveに標準対応
QCS40xのスペックはマルチルーム再生に対応するオーディオコンポーネントも意識した内容になっている。無線通信はWi-Fiが11acの2×2 MIMOや11a/b/g/nをサポート。北米で2019年の8月に策定が見込まれる次世代規格「Wi-Fi 6/11ax」への対応準備も図った。Ethernet接続の拡張性はオプションとして用意されている。
Wi-Fiメッシュネットワークはクアルコム独自の技術である「Wi-Fi SON」にも対応。スマートスピーカーやサウンドバーがWi-Fiメッシュネットワークの中継器として、ホームネットワークの通信を自律的に最適化。安定したセキュアな通信環境が構築できる。ほかにもIoTデバイスに採用が広がる近距離無線通信規格のZigBeeにも対応する。
ハイレゾに対応するクアルコム独自のワイヤレスオーディオのためのストリーミング技術「AllPlay」もミドルウェアでサポートした。ただしAllPlayのエコシステムに加わっていないメーカーも、LINUXベースのSDKを独自に書き換えることによってAirPlay 2などそれぞれが対応するWi-Fiネットワークサービスを実装できる。
Bluetoothは次世代規格のver 5.1も視野に入れた仕様としたほか、昨年発表された可変ビットレート伝送に対応するaptX Adaptiveの送受信に標準対応する。
クアルコムではアプリケーションプロセッサのICとSDKに加えて、アコースティックを調整した開発キット(ADK:Audio Development Kit)も製品カテゴリごとに用意して、開発者向けに同社のWebを通じて販売する。今回のイベントではスマートスピーカーや5.1.2chのオブジェクトオーディオ再生に対応するサウンドバーのリファレンスデザインも紹介された。Mittal氏は「QCS40xシリーズを採用するメーカーはより低コストでスピーディーな開発環境が実現できるため、それぞれの差別化要素の開発に集中できる」と強調した。
■スマートオーディオに新たな進化への道を切り拓く
クアルコムではオーディオコンポーネントの開発に必要な様々なソリューションをシングルチップに集約したQCS40xシリーズが、今後オブジェクトオーディオに対応するAVアンプやサウンドバーなどにも広がることを期待しているようだ。特にQCS40xシリーズは300ドル(約3.3万円)以下のサウンドバーを手がけるメーカーに優れた音質と開発面におけるコストメリットを提供できるSoCであると、同社のスタッフがアピールしていた。
記者会見にはゲストスピーカーとしてドルビーラボラトリーズのエンハンスド・オーディオ・デバイス部門のバイスプレジデントであるMahesh Balakrishnan氏が参加。「ドルビーアトモスが得意とするイマーシブなオーディオ体験を、クリエーターの意図を正確に再現しながらユーザーに届けられるコンシューマー機器が昨今増えている。クアルコムのQCS40xシリーズがさらにその勢いを加速させるものと確信している」と語った。
記者会見後にはQCS405にドルビーアトモスとDTS:Xのデコーダーを加えて、DDFAの最新チップであるCSRA6640をパワーステージに組み合わせた5.1.2ch対応のサウンドバーのリファレンスデザインによる体験デモンストレーションも行われた。
米XperiでDTSのテクノロジーを担当するホームオーディオ部門プロダクトマネージャーのNathan Brown氏は「クアルコムのエンジニアチームと協調しながら、最新のQCS40xシリーズに私たちの最上位のイマーシブオーディオフォーマットであるDTS:Xのデコーダーを対応できたことにとても満足している。今回のコラボレーションをきっかけにして、次世代のAVアンプやサウンドバーにDTS:Xによるサラウンド体験が広がるはず」と期待を寄せた。
AVアンプについては従来は内蔵するCPU/DSPの物量に依存していた部分がクアルコムのQCS40xシリーズによってまかなえるようになるため、開発者にとっては設計の簡略化を図りながらパフォーマンスの強化とカスタマイズ機能を作り込む道筋がさらに広がる。それがAVアンプという製品カテゴリーのイメージにマッチするかはさておき、今後は「スリムでコンパクト、発熱が少なく壁掛け設置もできるマルチチャンネルアンプ」のような製品の誕生を後押しすることになるかもしれない。
QCS40xシリーズをスマートスピーカーに実装する場合は駆動に必要な消費電力を低く抑えられるため、バッテリー内蔵タイプのスマートスピーカーの拡大にも弾みを付けるだろう。ウェアラブルタイプを含むスマートオーディオデバイスの進化にも、QCS40xシリーズが一石を投じるのではないだろうか。今後の展開がとても楽しみだ。
(山本敦)