ビクターの独自技術と商品戦略に迫る
JVCの3Dモニター「GD-463D10」視聴レポート − 3Dはいま“芸術表現”の領域に到達した
日本ビクターが4月13日に発表した3D液晶モニター「GD-463D10」(関連ニュース)は、ハリウッドを中心に盛り上がっている3D映画の制作市場に対してアプローチする業務用の液晶モニターだ。今回は日本ビクターで製品の企画・開発を手がける八子氏、塩田氏から、製品の詳細と3Dモニターにおける同社の取り組みについて、お話しを伺うことができた。
2009年のAVシーンとして「3D」は非常に重要なキーワードのひとつだ。現在の3Dを取り巻く環境を、簡単に振り返っておこう。
“3D”と言えばかつては「アナグリフタイプ」と呼ばれる赤&青色のメガネをかけて視聴するタイプの技術が主流で、テーマパークのアトラクションの出し物などに多く採用されていた。今年1月に開催された2009 International CESにおけるハードウェアメーカー各社の展示では、3Dディスプレイの新しい技術展示も多くみられたほか(関連ニュース)、また今年劇場で公開される作品の中にも『モンスターVSエイリアン』(2009年7月11日公開予定)、『ボルト』(2009年8月1日公開予定)が3Dで公開されるほか、ディズニー、ドリームワークスなどのアニメーションCGスタジオも3Dコンテンツの制作に本腰を入れ始めている。
また劇場関連での最新動向としては、シネマコンプレックス「109シネマズ」川崎・菖蒲・箕面の3館に、6月19日からIMAX 3D対応の上映館「IMAX デジタルシアター」がオープンしたほか(関連ニュース)、全米では今年中に4,000以上のスクリーンが3D対応を実現する見込みであるという。国内でも今年末までには約150スクリーンが急ピッチで3D対応を進めてくるとみられている。
まさに、映画業界全体で3Dコンテンツの拡大に力を入れていると言える。このような環境にあって、ビクターが商品化を実現した業務用3Dモニター「GD-463D10」は、アニメーションを中心として、映画のパラダイムシフトを背景に「ハリウッドを中心に盛り上がっている3Dコンテンツ業界に対して、特に製作市場に対してアプローチを図ることをメインに開発された製品」(八子氏)であるという。
ビクター独自開発の“3D映像システム”による高画質を実現
「GD-463D10」のスペックを簡単におさらいしておこう。画面サイズは3D対応の薄型大画面液晶としては最大サイズとなる46V型で、1920×1080ドットのフルHDパネルを搭載。パネルコントラスト比は2,000対1で、ダイナミックコントラスト比が10,000対1という性能を実現している。また、パネルの最薄部が39mmと薄型化を果たしたほか、家庭用の液晶テレビと変わらないスタイリッシュな外観で、従来の3Dモニターとは一線を画すデザインの魅力も打ち出している。
3D映像の信号は、3Dコンテンツの制作現場で一般的に採用されている「Line-by-Line方式」のほか、テレビ放送などで広く採用されている「Side-by-Side方式」も合わせて対応する。実際の3D表示用の映像は、左右の目それぞれに独立した2枚の画を表示し、メガネを通して視聴することで3D映像として結像する方式としている。最近の3D映像の制作現場では、フルHDのコンテンツのほかにも、デジタルシネマ用に4K解像度のコンテンツも製作されているが、3D映像に出力する段では、各3D方式に変換するユニットを介して行うため、製作現場では方式を気にすることなくコンテンツをつくることが可能になる。
モニター側には(株)有沢製作所の開発による“Xpol”偏光フィルター方式を採用している。テレビ前面に逆特性の偏光フィルターを貼り付けたマイクロポール方式により、フィルターに対応する右目・左目の映像を表示し、これを専用の3Dメガネを使って視聴する仕組みだ。なお、専用メガネは映画館ではREAL-D方式(日本ではワーナーマイカル系列で導入)で使われているものと同じく、シンプルで軽量なタイプのメガネが使用可能。本方式に用いられる円偏光方式のフィルターは、左右の映像が同時に表示できるため、フリッカーがないというメリットがある。
「GD-463D10の場合、“Xpol”偏光フィルター方式を採用しただけでなく、独自に開発した3D映像専用のエンハンス回路を搭載したことにより、高画質な3D映像表示を実現しています。通常のテレビに採用するような2D用のエンハンス回路を3D映像にも適用してしまうと、実際に3Dの映像を表示しようとした際、映像に影が見えてしまうのですが、GD-463D10ではこのような弱点を克服して、独自に高画質表示を実現する回路を搭載しています。」(塩田氏)
実際に3Dメガネをかけて本機の映像を視聴してみた。昨年来デモソースとして何度も視聴する機会のあった3D映画『ボルト』では、自然な立体感と奥行き感は、映画の世界により一層引き込まれる感覚があり、思わず手を伸ばしたくなるようなリアルな立体感が味わえる。映像の精細感も豊かで、力強い色再現性と階調性まで確認することができた。本機のように実際に商品化を実現した3Dモニターはまだ数が少ないが、これほどに精細な3D映像が劇場だけでなく、家庭の薄型大画面テレビでも楽しめるようになれば、映像の進化に今後も大いに期待が持てそうだ。なお、本機の場合3D表示に対応するため、パネル表面に偏光フィルターが貼られているが、これは見た目では気になることはなく、通常の液晶モニターとして2D映像の表示も高画質にこなす実力を備えている。
3D映像文化の火付け役を期待できそうなモデル
業務用3Dモニターのニーズは、国内はもちろんハリウッドの製作現場でも急速に高まりつつあるようだ。
「これまでは単純に飛び出てくる映像のような3Dコンテンツが主流でしたが、クリエーションの技術が進化し、3D映像のクオリティが高まってくるとともに、3Dは芸術表現のレベルにまで到達してきました。製作現場ではいま、3D映像の“画質”を評価できるモニターへのニーズが高まりつつあります。ビクターも企画・技術のメンバーがハリウッドの各製作現場に足を運び、プロトタイプの製品を視聴していただく機会を得てきましたが、様々なクリエイターの方々から製品に高い評価をいただきました。おかげさまで現在ハリウッドのコンテンツクリエイター10社以上で、JVCの業務用3Dモニターを採用いただいており、中にはNFLの中継イベントで実際にJVCのモニターを採用いただいた実績もあります。」(八子氏)
現時点では業務用としての商品化が先行して実現したかたちだが、今後ビクターでは「コンシューマー向けの商品投入も検討していきたい」という。これほどまでに高画質なモニターと3Dコンテンツの魅力は、とにかく多くの一般ユーザーにも体験する機会があって欲しいと思う。例えば映画館のロビーなどに本機を展示して、気軽に3Dコンテンツの魅力を体感できるスペースが設けられたら面白いのではないだろうか?今後、3Dコンテンツを収録したBDタイトル登場への期待も込めて、3Dがより身近になっていくことは間違いないと実感した。その際には、ビクターから「GD-463D10」の技術を活かしたコンシューマーモデルが登場する事も大いに期待したいと思う。
レポート:折原一也
埼玉県出身。コンピューター系出版社編集職を経た後、フリーライターとして雑誌・ムック等に寄稿し、現在はデジタル家電をはじめとするAVに活動フィールドを移す。PCテクノロジーをベースとしたデジタル機器に精通し、AV/PCを問わず実用性を追求しながら両者を使い分ける実践派。
2009年のAVシーンとして「3D」は非常に重要なキーワードのひとつだ。現在の3Dを取り巻く環境を、簡単に振り返っておこう。
“3D”と言えばかつては「アナグリフタイプ」と呼ばれる赤&青色のメガネをかけて視聴するタイプの技術が主流で、テーマパークのアトラクションの出し物などに多く採用されていた。今年1月に開催された2009 International CESにおけるハードウェアメーカー各社の展示では、3Dディスプレイの新しい技術展示も多くみられたほか(関連ニュース)、また今年劇場で公開される作品の中にも『モンスターVSエイリアン』(2009年7月11日公開予定)、『ボルト』(2009年8月1日公開予定)が3Dで公開されるほか、ディズニー、ドリームワークスなどのアニメーションCGスタジオも3Dコンテンツの制作に本腰を入れ始めている。
また劇場関連での最新動向としては、シネマコンプレックス「109シネマズ」川崎・菖蒲・箕面の3館に、6月19日からIMAX 3D対応の上映館「IMAX デジタルシアター」がオープンしたほか(関連ニュース)、全米では今年中に4,000以上のスクリーンが3D対応を実現する見込みであるという。国内でも今年末までには約150スクリーンが急ピッチで3D対応を進めてくるとみられている。
まさに、映画業界全体で3Dコンテンツの拡大に力を入れていると言える。このような環境にあって、ビクターが商品化を実現した業務用3Dモニター「GD-463D10」は、アニメーションを中心として、映画のパラダイムシフトを背景に「ハリウッドを中心に盛り上がっている3Dコンテンツ業界に対して、特に製作市場に対してアプローチを図ることをメインに開発された製品」(八子氏)であるという。
ビクター独自開発の“3D映像システム”による高画質を実現
「GD-463D10」のスペックを簡単におさらいしておこう。画面サイズは3D対応の薄型大画面液晶としては最大サイズとなる46V型で、1920×1080ドットのフルHDパネルを搭載。パネルコントラスト比は2,000対1で、ダイナミックコントラスト比が10,000対1という性能を実現している。また、パネルの最薄部が39mmと薄型化を果たしたほか、家庭用の液晶テレビと変わらないスタイリッシュな外観で、従来の3Dモニターとは一線を画すデザインの魅力も打ち出している。
3D映像の信号は、3Dコンテンツの制作現場で一般的に採用されている「Line-by-Line方式」のほか、テレビ放送などで広く採用されている「Side-by-Side方式」も合わせて対応する。実際の3D表示用の映像は、左右の目それぞれに独立した2枚の画を表示し、メガネを通して視聴することで3D映像として結像する方式としている。最近の3D映像の制作現場では、フルHDのコンテンツのほかにも、デジタルシネマ用に4K解像度のコンテンツも製作されているが、3D映像に出力する段では、各3D方式に変換するユニットを介して行うため、製作現場では方式を気にすることなくコンテンツをつくることが可能になる。
モニター側には(株)有沢製作所の開発による“Xpol”偏光フィルター方式を採用している。テレビ前面に逆特性の偏光フィルターを貼り付けたマイクロポール方式により、フィルターに対応する右目・左目の映像を表示し、これを専用の3Dメガネを使って視聴する仕組みだ。なお、専用メガネは映画館ではREAL-D方式(日本ではワーナーマイカル系列で導入)で使われているものと同じく、シンプルで軽量なタイプのメガネが使用可能。本方式に用いられる円偏光方式のフィルターは、左右の映像が同時に表示できるため、フリッカーがないというメリットがある。
「GD-463D10の場合、“Xpol”偏光フィルター方式を採用しただけでなく、独自に開発した3D映像専用のエンハンス回路を搭載したことにより、高画質な3D映像表示を実現しています。通常のテレビに採用するような2D用のエンハンス回路を3D映像にも適用してしまうと、実際に3Dの映像を表示しようとした際、映像に影が見えてしまうのですが、GD-463D10ではこのような弱点を克服して、独自に高画質表示を実現する回路を搭載しています。」(塩田氏)
実際に3Dメガネをかけて本機の映像を視聴してみた。昨年来デモソースとして何度も視聴する機会のあった3D映画『ボルト』では、自然な立体感と奥行き感は、映画の世界により一層引き込まれる感覚があり、思わず手を伸ばしたくなるようなリアルな立体感が味わえる。映像の精細感も豊かで、力強い色再現性と階調性まで確認することができた。本機のように実際に商品化を実現した3Dモニターはまだ数が少ないが、これほどに精細な3D映像が劇場だけでなく、家庭の薄型大画面テレビでも楽しめるようになれば、映像の進化に今後も大いに期待が持てそうだ。なお、本機の場合3D表示に対応するため、パネル表面に偏光フィルターが貼られているが、これは見た目では気になることはなく、通常の液晶モニターとして2D映像の表示も高画質にこなす実力を備えている。
3D映像文化の火付け役を期待できそうなモデル
業務用3Dモニターのニーズは、国内はもちろんハリウッドの製作現場でも急速に高まりつつあるようだ。
「これまでは単純に飛び出てくる映像のような3Dコンテンツが主流でしたが、クリエーションの技術が進化し、3D映像のクオリティが高まってくるとともに、3Dは芸術表現のレベルにまで到達してきました。製作現場ではいま、3D映像の“画質”を評価できるモニターへのニーズが高まりつつあります。ビクターも企画・技術のメンバーがハリウッドの各製作現場に足を運び、プロトタイプの製品を視聴していただく機会を得てきましたが、様々なクリエイターの方々から製品に高い評価をいただきました。おかげさまで現在ハリウッドのコンテンツクリエイター10社以上で、JVCの業務用3Dモニターを採用いただいており、中にはNFLの中継イベントで実際にJVCのモニターを採用いただいた実績もあります。」(八子氏)
現時点では業務用としての商品化が先行して実現したかたちだが、今後ビクターでは「コンシューマー向けの商品投入も検討していきたい」という。これほどまでに高画質なモニターと3Dコンテンツの魅力は、とにかく多くの一般ユーザーにも体験する機会があって欲しいと思う。例えば映画館のロビーなどに本機を展示して、気軽に3Dコンテンツの魅力を体感できるスペースが設けられたら面白いのではないだろうか?今後、3Dコンテンツを収録したBDタイトル登場への期待も込めて、3Dがより身近になっていくことは間違いないと実感した。その際には、ビクターから「GD-463D10」の技術を活かしたコンシューマーモデルが登場する事も大いに期待したいと思う。
レポート:折原一也
埼玉県出身。コンピューター系出版社編集職を経た後、フリーライターとして雑誌・ムック等に寄稿し、現在はデジタル家電をはじめとするAVに活動フィールドを移す。PCテクノロジーをベースとしたデジタル機器に精通し、AV/PCを問わず実用性を追求しながら両者を使い分ける実践派。