“生真面目なボンド”の代償
話題のソフトを“Wooo"で観る − 第21回『007/慰めの報酬』(Blu-ray)
今回の「慰めの報酬」はオリジナル脚本で、ボリビアに軍事政権を誕生させ権益を得ようとする国際犯罪組織との戦いがテーマだが、ヴェスパーの死の痛手というもう一つのボンドの戦いを描いている。
ダニエル・クレイグ演じるボンドは、女に真剣でヤニさがったりしない。こうした生真面目なボンド像が映画全体を支配していて、ショーン・コネリー時代から映画版007のアイデンティティーだった、アヒルを頭に乗せて池を渡るなどのユーモアや明るさ、洒落っ気は代わりにすっかり影を潜めてしまった。今回、ドラマを得意とするフォースターを起用したことで、さらにその傾向が強まった。見終わった後の後味もどうもすっきりしない。もっと言うと、ダニエル・クレイグと悪役を演じるマチュー・アマルリックは「ミュンヘン」での共演コンビだし、ボンド・ガールのオルガ・キュリレンコ扮するカミーユの復讐のエピソードは、「キル・ビル」のルーシー・リュー演じるオーレン・イシイの少女時代のエピソードにソックリ。ボリビアの村のシーンは映像も音楽も「バベル」に似ている。何だか「どこかで見たなあ」感が付きまとっているのである。
007シリーズはワン・アンド・オンリーな映画シリーズだったはず。「慰めの報酬」全編を2回見て、映画としての出来栄えは充実しているしアクションも見応えがある。何でも欧米ではシリーズ最高の興行収入を記録したという。しかし、映画シリーズとしての007を考えた時に、これからこの路線で大丈夫なのかい? と心配になるのも事実。
まあ野暮を言うのは止めて、私たちはいよいよエンジンの掛かってきた新ボンドの活躍を家庭で楽しみましょう。というわけで、今月の「Woooで見る最新高画質ソフト」は、「007/慰めの報酬」である。
映画のストーリーはごく簡単に留めておく。前作で自ら死を選んだボンドの恋人、ヴェスパーの背後関係を追求するボンドとMI6は、世界に暗躍する犯罪組織の存在と新たな動きを知る。ボリビアで政権転覆の動きがあり、エコの慈善団体を装った組織がクーデターの資金を調達しようとしているのだ。CIAはこれを黙認、主要各国の要人にも根回しが行われている。ボンドは組織の根城のあるハイチに向かった…。
冒頭のカーチェイス、中盤のオーストリー・プレゲンツの野外劇場でオペラ「トスカ」の舞台とシンクロするアクション、後半の飛行機からの脱出、ラストの砂漠のホテルと、アクションシーンはバラエティに富み、細かなカットの積み重ねで見せていく現代的な手法。映画としての一貫した映像の特徴を挙げれば、それは「黒」の多用である。ビデオのパッケージの二人からしてそうではないか。黒はいうまでもなく、喪服の色であり、悼みの表明である。さよう、ボンドはヴェスパーの死に対して喪に服し、カミーユは惨殺された家族の記憶に対して喪に服しているのである。