HOME > レビュー > 『ココ・アヴァン・シャネル』の<黒>をWoooで引き出す

話題のソフトを“Wooo"で観る

『ココ・アヴァン・シャネル』の<黒>をWoooで引き出す

公開日 2010/03/18 11:57 ファイル・ウェブ編集部
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

■シャネルが創造した<黒>をWoooが引き出す

結論を先に言うと、「P50-XP035」で本作と出会えて、本当に幸運だった。何事によらず初見、第一印象は大事である。優れた家庭用ディスプレイだったからこそ、これから書く本作の重要な部分を見逃すことがなかった。

筆者宅のレファレンスディスプレイとして活躍中の「P50-XP035」

上映時間110分の本作の大半は作劇上、ココとフランスの貴族エティエンヌ・バルザン、英国の青年実業家ボーイ・カペルの三角関係の顛末を描いている。貧しい育ちのココが貴族の男たちと愛憎のトライアングルを形成しながらそれに食われず沈まず、時にはしたたかに利用し、恋愛の挫折で痛手をこうむってもそれをバネにしてしたたかに夢を実現していく姿を描いている。

しかし、そうして脚本で描かれるのは起業家ココ・シャネルである。シャネルはモードの芸術家である。つまり反面に過ぎない。本作は、映像表現で芸術家シャネルの誕生の秘密を無言劇として描くのである。つまり、ストーリーが分かればいいのでなく、本作の映像表現によるメッセージが画面から伝わらないと、全くバランスを欠くのである。

映画が描くシャネル成功前夜の1919年に没した、仏印象派の巨匠オーギュスト・ルノワールは「黒は色彩の女王」と表現した。本作の映像表現の鍵は<黒>であり、シャネルが生涯黒を愛しデザイナーとして礼装の畏まった禁欲的な色を日常の最もシックでセクシーな色に変えていく背景が印象的な光景の積み重ねで描かれる。だから、コントラスト比が高く、黒の美しいディスプレイが見る上で欠かせない。具体的にシーンを挙げてみよう。

まず冒頭のシーン。父親に捨てられたガブリエルと姉が孤児院にやって来る。石造りの殺風景な院内には白黒の僧衣の修道尼たちがいる。人並の幸福を失した子供の生涯忘れられない原光景である。それを見つめるガブリエルの瞳も髪も漆黒。そう、<黒>は負けず嫌いの子供である彼女の強烈な自我の色でもある。黒は単に憧れの色でなく、ココ・シャネルのアイデンティティでありプライドであり存在そのものなのだ。だから、白黒の目に沁みるような苛烈なコントラストが焼き付けられないと、ディスプレイとしてはまず失格だ。

次に、そこからちょうど一時間後、映画が最もロマンティックに盛り上がる、ココがボーイ・カペルに誘われてドゥーヴィル(フランスの風光明媚なリゾート地)で過ごすくだり。ソワレに着ていくドレスをココが仕立屋で誂えるが、それが黒のシンプルなドレス。周囲の上流階級の女たちが皆白やピンクのワンパターンでデコラティブなデコルテを纏って踊る中、彼女の黒いシンプルなドレスがすべての色彩を吸い取ったかのように一際輝く。

さらに、パリにオートクチュールで開店したココの下に金持ち娘と結婚したカペルが訪れ逢瀬を楽しむが、夜更けのシャンゼリゼをココが運転する自動車でドライブするシーンでも、艶やかな黒が背景となっている。他にもカペルとの情事のシーンなど、映画の基調色としてココの偏愛したこの「究極の色」(彼女自身の言葉)が彼女の人生を底光りさせ積み重なり、シャネルモードの象徴色として形成されていくプロセスが描かれる。極めつけはラストのオートクチュール・シャネルの盛大なコレクションシーン。モデルたちが纏って次々に現れるドレスの大半が黒を中心にモノトーン。自己実現を遂げた彼女の凱歌の色である。

一般に映画館のスクリーン上のコントラストは、1,500~2,000対1程度である。しかも、映画館自体が真っ暗でないためにうっすらボトムの黒が浮いている。最早映画館の映像を神聖視する時代ではない。

それに対して、「P50-XP035」は黒輝度を低減してピーク輝度を高めたダイナミックブラックパネルを搭載、ダイナミックコントラストは40,000対1に達している。映画館以上のパフォーマンスで映像本来の企みを緻密に引き出すことのできるディスプレイである。

数字上これを上回るテレビは存在するが、実際に本作の映像を鑑賞する上で「P50-XP035」以上のコントラストは必要ない。むしろ黒の質感が重要であり、黒を深く艶やかに時には柔らかく、時には冷たく描き分けられるかが肝心なのである。

その点、「P50-XP035」は自発光のプラズマ方式らしい落ち着いたニュアンス豊かな目を吸いつけるようなしなやかな黒を描く。一般に液晶方式は近年躍進を遂げ、数値上のコントラストは高まり黒もかつてのように浮き上がることはないが、質感が硬く、ノイズの存在を感じさせることも多い。

「P50-XP035」の黒にはベルベットの「肌触り」がある。『ココ・アヴァン・シャネル』との出会いにこれほどふさわしいディスプレイはない。「P50-XP035で見たからこそ、本作の全貌を知り、芸術家シャネルの誕生を映像で目撃することが出来たのである。

さて、シャーリー・マクレーンが老境のシャネルを演じたもう一作『ココ・シャネル』も遠からずブルーレイディスクで発売される。私は劇場で見たこちらも、「P50-XP035」で見直したいと思った。なぜなら、こちらはシャネルが長い雌伏から復活を遂げるオートクチュールのシーンでフィナーレになるのだが、対照的に緑、ピンク、水色、後年の柔らかで明るい中間色の目にも絢なドレスが次々に登場する。これを色再現範囲が広い「P50-XP035」がどう見せてくれるか、楽しみでならないのである。

『ココ・アヴァン・シャネル』視聴時の最終映像設定
映像モード シネマティック
明るさ ±0
黒レベル -1
色の濃さ -9
色合い -3
シャープネス -15
色温度 低
ディテール 切
コントラスト リニア
黒補正 切
LTI 切
CTI 切
YNR 切
CNR 切
3次元Y/C 切
MPEGNR 切
映像クリエーション なめらかシネマ
シネマスキャン 入
色再現 リアル
DeepColor 切

大橋伸太郎 プロフィール
1956 年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数。2006年に評論家に転身。

前へ 1 2 3

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE