HOME > レビュー > “ソニー史上最高の音再現力“のモニターヘッドホン/イヤホン「MDR-Z1000/EX1000」登場

3名の評論家がその実力へ徹底的に迫る

“ソニー史上最高の音再現力“のモニターヘッドホン/イヤホン「MDR-Z1000/EX1000」登場

公開日 2010/12/06 12:00
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE


文 / 岩井 喬(プロフィール


■モニタータイプにありがちな硬いピーキーさは全く感じない

国内の録音スタジオを中心に、今や音楽制作者の標準的ツールとなっているヘッドホン「MDR-CD900ST」のベースとなったCD900シリーズ。その後継として1992年に登場した「MDR-Z900」もモニターヘッドホン直系のサウンドと携帯性の良さからロングセラーを続け、2006年にはHDドライバーを搭載してリニューアルした「MDR-Z900HD」へと900シリーズの系譜は受け継がれた。

この「MDR-Z1000」もそうしたモニター系のサウンドを継承する高級モデルとして開発段階から関連会社であるソニーミュージックの協力を得てサウンドチューニングを行っているという。筆者が初めて購入したオーバーヘッド型ヘッドホンが「MDR-Z900」であったことや、スタジオ勤務時代にお世話になった「MDR-CD900ST」のサウンドが自身の試聴における基準のベースになっていることもあり、「MDR-Z1000」のサウンドや完成度には高い関心を持っていた。

この「MDR-Z1000」のサウンドは、モニターならではのドライな質感描写と、ヘッドホンながらも適度に広い空間再現性、そして音の重なりにおける分解能の高さを実感できるものである。

スピーカーで聴く場合と比較し、大きな違いが起こらないようなサウンドイメージの整合性も大事な要素としているようであり、音像の移動における位相感の正確さ、アタック・リリースにおけるスムーズな反応力は至近距離でモニタースピーカーを聴いているかのようだ。なにより従来機よりも圧倒的に軽くなり、短めの着脱式ケーブルによって携帯性も飛躍的に向上している点が好ましい。

着脱式ケーブルによって携帯性も飛躍的に向上

恐らくモニターされる音楽ジャンルとして主流となるであろうロック、そして今やオリコンの上位にも食い込み、“クールジャパン”と呼ばれ、世界的に注目される一つの文化・音楽ジャンルとして目覚しい発展を遂げているアニメソングを中心に試聴を進めていこうと思う。

まずはロックに関してはSHM-SACDでのリリースで注目を集めたスティーリー・ダンの『彩(エイジャ)』と、世界初SACD化となったエイジアのファーストアルバム『詠時感〜時へのロマン〜』をプレーヤー経由で確認した。

スティーリー・ダンの「ペグ」では、アナログらしい太さのある音像で、ボーカルも伸びやかに感じられる。音と音の隙間もくっきりと際立ち、見通しも充分だ。ギターのピッキングも粒立ち細かく、的確にニュアンスを伝えている。ふっくらとしたベースを中心にした低域の安定感も厚みがあり、モニタータイプにありがちな硬いピーキーさは全く感じない。

エイジアの「ヒート・オブ・ザ・モーメント」では、アナログシンセの音の厚みと透明感ある高域の伸びがより音場を広く感じさせる。ボーカルの質感は滑らかで僅かな潤いも逃さずに描写。リヴァーブもグラデーションが細かく、ニュアンス豊かだ。ギターフレーズの粒は細かく、アンプトーンも感じられるほど解像度も高い。

試聴の様子

一方アニメソングであるが、初音ミクの楽曲で人気に火がついたsupercellのシングルから「星が瞬くこんな夜に」を聴いてみた。各々の楽器の分離度は高く、ボーカルは鮮度良く前方に張り出し、音ヌケも充分である。キーボードは煌き、ギターも刻みをキレ良く描く。リリースを引き締めており、音場の見通しは深く感じられた。ドラムやベースの質感はソフトな厚みも伴うが、制動良く引き締めている。

続いてはDAP環境にMDR-Z1000を接続しての試聴だ。録音・ミックスが素晴らしく、普段から試聴盤に用いている、深夜アニメ『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』のOP曲として用いられていたカラフィナの「光の旋律」では、ボーカルの口元が瑞々しく際立ち、音の芯をくっきりと浮き立たせている。ベースはクリアな描写で、ドラムもソリッドなアタックを見せる。ギターの爪弾きは階調細やかで、コーラスのハリも鮮やかだ。有機的な滑らかさを感じつつも前後感の的確な描写能力にモニターらしさが窺える。

■前フラグシップ機に比べ圧倒的に聴きやすさが向上したEX1000

そしてインナーイヤー型最上位機となるMDR-EX1000であるが、マグネシウム筐体やバーチカル・イン・ザ・イヤー方式を採用した先駆けである旧フラグシップ機MDR-EX700SLに比べ、低域のゆとりある伸びやかさ、ピーク感が抑えられた高域のスムースな音運びにおいて、圧倒的に聴きやすさが向上している。モニターの血統を引き継ぐ鮮明な音像定位感と、インナーイヤー型では珍しく、奥行き感も音の繋がりよく表現している。大口径のダイナミック型ドライバーならではの余裕あるトーンからか、サイズ感を超える重心の落ちた音像のリアルな佇まいを実感できる。

まずは今年の単独来日も記憶に新しい、ベテランロックバンド、シカゴが1991年に発表した『21』(最新リマスターSHM-CD)から「ハートに伝えて」を聴いてみる。ボーカルは口元のディティールが細やかで、リヴァーブの伸びも良い。僅かなエフェクト感やブレスの加減も見通せるほど、解像感も高く、音ヌケも充分である。ピアノはクリアに浮き立ち、ドラムやベースはソリッドで、ギターフレーズもエッジを際立たせて透明感高い音場を形成している。

続いてはややマイナーな存在であるが、確かな演奏力を持ち、クリアで音ヌケの良い高録音盤であるパンゲアの最新アルバムを試聴した。彼らはデンマークの出身で、98年メジャーデビューというバンドであるが、80年代のアメリカ西海岸を彷彿とさせるカラッとヌケの良いサウンドが特徴で、北欧ならではの哀愁感も持った聴きやすいメロディアス・ハードロックである。

「2AM」ではクリアなギターのディティールを克明に描き、リアルな厚みがある音像の分離良い浮き上がりを実感する。アンプトーンも含めて一音一音的確にトレースをしているかのようで、分解能の高いギターワークが堪能できた。ドラムやベースはダイレクトなサウンドで、エッジも鋭く、引き締まったソリッドな質感だ。鮮やかなボーカルも含め非常に若々しいテンション感に満ちる。

EX1000を試聴する岩井氏

そしてMDR-EX1000で聴くアニメソングであるが、確かな歌唱力で多くのファンを持っている女性アーティストLiaの最新シングルであるアニメ『FORTUNE ARTERIAL』のOP曲、「絆-kizunairo-色」を聴いてみた。

厚みのあるボーカルは存在感豊かで、音像は伸びやかに表現される。発音の一つ一つは滑らかで、繋がりの良いアナログライクな質感を感じた。ギターやシンセのサウンドは整理されており、コーラスも粒立ち良く、リアルに音が分離する。キックドラムのアタックは柔らかく、耳馴染み良い伸びやかなトーンである。

DAP環境では、関連商品も含め大ヒットしている『けいおん!!』の最新劇中歌アルバムから「U & I」を試聴した。ボーカルの口元はクリアに浮かび、キックやベースといったリズム隊の旋律は引き締まり、ギターのフレーズが粒立ち良く、分解能が高く感じられる。コーラスもすっきりとまとまり階調細やかな音場に溶け込む。ニュアンスも豊かに伝えるが、適度な硬さとふくよかな押し出しもあり、聴きやすいサウンドだ。

MDR-Z1000、MDR-EX1000ともにスタジオライクな、モニター調の真面目さを感じるが、そうした几帳面な描写をしながらも、長時間でも聴きやすい音の厚みを持った音質傾向であり、バンドサウンドには相性の良いものだと感じる。

とはいえ、そのモニター能力の高さが故に、アニメソングに限らず再生ソースの録音クオリティの良し悪しに意識が集中してしまうほどストイックな点も持ち合わせている。そのため、リスニングユースの場合はすべてにおいて万能というわけではない。そういった意味では「音源に込められた音に迫りたい」という欲求を持つ音楽ファンにこそ応えてくれる製品と言えるだろう。

次ページ最上位機の思想を受け継ぐラインナップ機も豊富に用意

前へ 1 2 3 4 5 6 7 次へ

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE