3名の評論家がその実力へ徹底的に迫る
“ソニー史上最高の音再現力“のモニターヘッドホン/イヤホン「MDR-Z1000/EX1000」登場
文 / 高橋 敦(プロフィール)
■あえてZX700を選ぶという選択肢も充分に“アリ”
それでは、いよいよサウンドをチェックしていこう。
MDR-ZX700で、まずはBill Evans Trio『Waltz For Debby』から表題曲を聴いてみた。この演奏のウッドベースはゴリッとしたアタックが強烈だが、その引き出し方が実によい。ガチガチの音色ではなく、ゴリッとしながらもしなやかなアタック。弦の張りと指先の一瞬の拮抗を感じさせ、緊迫感も備える。
ドラムスもアタックの心地よい粗さと速さが印象的。スネアは裏面のスナッピー(共鳴弦)が揺れ響く様子が目に浮かび、やや緩めに張られているのではないだろうかといった想像も膨らむ。ピアノのハードなタッチはガシッと骨太。弱音時の繊細さとの対比が鮮やかだ。
続いてはThe Jimi Hendrix Experience『Axis : Bold As Love』から「Spanish Castle Magic」。ギターの歪みの粒は粗く、豊富な倍音感をまといながらも、硬質でクリアな音色。コードの各弦の分離も良い。ヘンドリクスの演奏力と音作りの神業だが、ZX700はその神業っぷりを存分に伝えてくれる再現性を持つ。
リズム面では、「ンタタン」のような箇所での「ン」の決まり具合の良さも印象的。音の立ち上がりと減衰の速さと正確さから来るものだろう。
最後に荒井由実『ひこうき雲』から表題曲。本当にストレートな歌い方だが、聴き込むとダイナミクスに富んだ歌いっぷりであり、それを見事に捉えた録音なのだが、ZX700はそのことを如実に伝えてくる。音量の上下への追従だけでなく、声量と同時に変化する声色も微細に描き出してくれる。
なお全体を通して音場感についてだが、モニター向けの密閉型ということから、試聴前には閉塞感のようなものを少し心配していた部分もあったのだが、実際に使ってみるとそれは杞憂に終わった。意外だったがうれしいところである。
またMDR-Z1000と比べるとこちらは、音調にも多少の和らぎを持たされていると感じた。リスニング用としては、あえてこちらを選ぶという選択肢も充分に“アリ”だろう。
■EX600は音源ごとにその重要な要素を引き出してくれる
続いてはMDR-EX600。
『Waltz For Debby』のベースは、ゴリッとさせつつも、しなやかに弾む感触を強める。ドラムスも木質の太い響きが出てくる。高域方向はつるっと滑らかではなく、音色にも空気感にも心地よいざらつきを残す。この点はダイナミック型ユニットの「らしさ」と言ってよいだろう。特にスネアとシンバルの音色とその周囲の空気感に顕著だ。一方で、ピアノの音色は適度に角を落として滑らか。エヴァンスのフレージングの流麗さが際立つ。
『Axis : Bold As Love』の歪みは、芯の確かさや粒の粗さは生かしつつ、音色は、硬質な直進性よりも、豊富な倍音の柔軟性と広がりをやや強める。
ベースも同様の感触で、広がりや立体性を感じさせる音色。ドラムスも響きのタイトさは生かしたまま、同時に木質の響きの豊かさを強める。リズムの「ン」の決まり具合は、こちらも好感触だ。
『Waltz For Debby』ではざらつきの残し方を評価したが、『ひこうき雲』の歌声については、すぅっと抜けて届いてくる滑らかさを評価したい。ざらつきやひっかかりは皆無。まっすぐ心に飛び込んでくるその歌声を、まさにそのように描写してくれる。EX600は、音源ごとにその重要な要素を引き出してくれるようだ。
なお、MDR-EX1000の印象も述べておくと、あちらは中低域の手応え感がさらに増し「さすがフラグシップ」という格別感がある。
しかし実際にヘッドホン/イヤホンを外出時に利用する場合を考えてみると、使うとき以外はパッとカバンに放り込むという方が大半ではないだろうか。そうなると、6万円超というEX1000をそんなラフな使うというのは心理的に難しい。そういう意味からは普段使い用としてEX600を持っておくというのもオススメだ。
実際に見て触って聴いてみると、ラインナップの中でも、いや現在のヘッドホン/イヤホン市場全体を見回しても、ZX700とEX600のコストパフォーマンスは高く評価できる。モニター用とリスニング用の美味しいところを兼ね備えた音調も、聴けばハマる方が多いだろう。ぜひチェックしてみてほしい。