注目D-ILAプロジェクターの画質を語る
6人の識者の眼 − VGP2011・批評家大賞モデル ビクター「DLA-X7」を評価する
他との比較ではない独創的な映像美の探求が感じられた
批評家大賞を推挙するにあたり、一切の迷いなくDLA-X7が頭に浮かんだ。他の製品群の出来が悪かったという意味でなく、優秀な製品群の中でも飛び抜けた提案性と完成度の高さを評価した結果だ。今やデジタル化されたAV機器は成熟し、画音質はかなり高い水準に達している。従来の技術や思想を延長しただけでは、新旧の違いも分かりにくいし、面白みに欠ける。その中でもX7では、他との比較ではない独創的な映像美の探求が見て取れた。また、そのこだわりを実現する独自の発想と技術力には敬意を表したい。
評価のポイントを具体的に示す。まず感心したのは「スクリーン補正」機能である。実は、スクリーンは単に白ければ良いというものでなく、分光特性(音で言うところのf特)がフラットでなくてはならないのだが、そうでない製品が多い。つまり、プロジェクターが正確にRGBの光を投射しても、スクリーン上では変化するのだ。従来、この現象はプロジェクターとスクリーンの相性などと片付けられてしまったり、あるいは、専門家がプロジェクター側で調整(補正)を行う必要があったのだが、ビクターは、市販されている多くのスクリーンの特性を実際に測定して補正データを蓄積しており、2桁の番号で簡単に呼び出せるように改良した。その効用も見事で、スクリーン選びに自由度が持てるほか、ユーザーは複雑な映像調整無しに制作者の意図した映像を正確に受け取る事が出来るようになった点が素晴らしい。
さらに、映像美の探求においては、フィルム描写へのこだわりは圧巻で、キセノンランプの風合いを再現する映像モードや、コダックあるいはフジといった、映写フィルムの表現特性を再現する映像モードを設けている。これらは、単にギミックでなく、実際のフィルムを使って丹念に測定を行った成果である。精密なシミュレーションと呼べるこだわりは見事で、最終的な投影映像の完成度の高さにも現れている。もちろん、基礎画質性能の飛躍的な進化も高く評価した。
鴻池賢三プロフィール THXISF認定ホームシアターデザイナー。ISF認定映像エンジニア。AV機器メーカー勤務を経て独立。現在、AV機器メーカーおよび関連サービスの企画コンサルタント業を軸に、AV専門誌、WEB、テレビ、新聞などのメディアを通じてアドバイザーして活躍中。 |
「3つ目のブレイクスルー」となる本機購入を具体的に検討
私が導入したビクタープロジェクターは初代のDLA-HD1、第2世代となるDLA-HD750の2モデルだ。HD1改良機DLA-HD100と、HD750の改良機DLA-HD950はそれぞれ見送り、次なる新作待ちという状況だった。そして3Dレディ機「DLA-X7」が登場した。本機は第3世代光学エンジンを搭載。筐体をHD1スタイルのセンターレンズに戻し余裕のある設計とした。3D映像に関しては、120Hz駆動ながらデジタル駆動の特長を活かし、一括面書き込み処理をすることによりクロストークの少ない3D映像を楽しませてくれた。疲労感の少ない自然な3D感が好ましい。
だがDLA-X7の真価は3Dよりも2Dにあるとみた。魅力は数知れないが、一つ挙げるなら比類のない色階調の芳醇さだろう。色はビクターが一貫して追求してきたテーマだが、今回はネイティブコントラストの向上と併せ、DCIの色空間を目指したシネマモードが注目だ。劇場リバーサルフィルムを手本としたフィルムモード(コダック/フジ)などのカラープロファイルを導入している。360度ある色軸を1度ずつ暗から明までコントロールするという手のこんだ手法。これは色制御用新LSIの開発が大きいが、加えてフィルムに焼いた色の分析データをベースとして様々な映像作品で検証し、感性の画作りを実らせるものである。
『きみに読む物語』『オペラ座の怪人』なども観たが、フィルム本来の緻密な発色に近づき、日ざしの質感のリアルさや暗いシーンに微妙な色の濃淡が存在することも実感できた。歴代のモデルからドラスティックに進化し、アナログ的なじっくりとした色の連続変化が得られるようになった。開発陣の狙い通り、高効率な水銀ランプを用いながら、キセノン光源のもつ暖かな画のたたずまいを実現できたといえるだろう。その完成度は推挙に値する。私が本機の購入を決意したのは言うまでもないが、気になるのが上位モデルDLA-X9の存在だ。悩ましい選択となりそうである。
林 正儀プロフィール 工学院大学で電子工学を専攻。その後、電機メーカー勤務を経て、技術 系高校の教師というキャリアを持つ。教鞭をとっている経験から、初心者向けに難しい話題 をやさしく説明するテクニックには特に定評がある。 |
【DLA-X7 SPECIFICATION】●表示デバイス:0.7型D-ILAデバイス×3 ●レンズ:電動2倍ズーム・フォーカスレンズ、f=21.4mm〜42.8mm、F=3.2〜4 ●解像度:1920×1080 ●光源:220W超高圧水銀ランプ ●投写サイズ:60型〜200型 ●ネイティブコントラスト比:70,000対1 ●輝度:1,300ルーメン ●HDMI入力端子:2系統(ver1.4a 3D DeepColor、CEC対応) ●消費電力:350W(待機時0.9W) ●外形寸法:455W×179H×472Dmm ●質量:15.1kg ●問い合わせ先:ビクターお客様ご相談センター TEL/0120-2828-17