ECLIPSE TD 10周年特別企画
ネットオーディオ時代にひときわ輝く“原音再生” − 「ECLIPSE TDシリーズ」これまでの10年、これからの10年
■「ECLIPES TD」10年の軌跡
21世紀が到来してから10年が過ぎ、音とオーディオの世界に大きな転換が訪れている。言うまでもなくPC&ネットワークオーディオである。
ハイサンプリング音源をハイレゾリューションで再生する。新しい酒は新しい革袋に盛るべし、ということで新しいオーディオ機器の技術様式が今盛んに論議されているが、世紀をまたいだばかりの2001年に、既にそれを体現したオーディオ機器が姿を現していた。富士通テン ECLIPSE TDシリーズスピーカーの初号機「512」である。今年はECLIPSE TDシリーズが誕生してから10年という記念すべき年なのだ(記念サイトはこちら)。
ECLIPSE TDは由井啓之氏が提唱するタイムドメイン理論をバックボーンに生まれた。
そのコンセプトを一言で分かりやすく要約すると、従来のスピーカーシステムは周波数特性(低域から高域までの波形)を重視して作られているが、ECLIPSE TDは空気の波動をいかに正確に再現するかという人間の聴覚メカニズムに基づいて作られている。
■「ECLIPES TD」を支える「タイムドメイン理論」とは
まず、タイムドメイン理論についてもう少し踏み込んでみよう。
電気式蓄音器やラジオの出現を契機に発展が始まったオーディオは、周波数帯域の拡張に主眼を置いてきた。多種多様な楽器が発する幅広い音域を再現できれば、音楽演奏の再現に近づけるからである。
電気信号からの最終変換器であるスピーカーシステムは、低音から高音までいかにフラットに歪みなく再生するかという命題に応えるべく、ウーファー、スコーカー、トゥイーターとドライバーの数を増やし、振動板の材質の吟味が行われてきた。最低共振周波数を下げるためにエンクロージャーを大型化したり、形式と構造を変えてみたり、様々な工夫が行われ、進化を繰り返してきたのはご承知の通りだ。
その結果スピーカーシステムは、それ自体が一つの固有の音色を持つ<擬似楽器>のような存在になり、長きに渡り音作りとして論評の対象としてきたのである。
この考え方に一石を投じたのがタイムドメイン理論である。その着想の核心は、周波数領域より時間領域(タイムドメイン)に着目し、楽器などの音源が生み出す空気の波動(波形)を徹底してオリジナルのまま再現することにある。
具体的には入力信号(インパルス・原波形)と出力信号(インパルス応答)を可能な限り同じにするというのが、タイムドメイン理論の考え方だ。この状態に近づけるには、スピーカーシステム内で音の遅れを生み出さないことが肝要だ。
入力波形と出力波形が近似なほど再生音は原音に正確になり、完全に一致した時、変換器であるスピーカーシステムの存在は消え、そこに音楽だけが現れる。これがタイムドメイン理論の骨子である。
さて、入力後の波形を歪める最大の要因がインパルス収束後の余波、つまり残響成分で、これにはエンクロージャー(スピーカーシステムのキャビネット)固有の響きが大半を占める。その原因となる不要振動や回析効果、共振をことごとく取り去ることを目標に、ECLIPSE TDシリーズは生まれたのである。
ここには、オーディオのパラダイムシフトがある。それまでのオーディオの醍醐味であった、スピーカーシステムの音の個性(表現性)を否定してしまったのだから。しかし、この手法の有効性は、音楽とオーディオを愛する人たちにとっては、とっくに分かっていたことである。ECLIPSE TDシリーズの出現までは、それを実現する技術の手段が揃わなかったのだ。
■「ECLIPES TD」を完成させた6つの技術
富士通テンが最初の製品「512」を完成させるその鍵となった技術は大きく6つある。
第1に、応答速度が高く内部損失の大きい専用設計のスピーカー振動板を開発する。第2に、マグネットを強化しボイスコイルを最適化し、両者をショートギャップ化し磁束密度を強化した磁気回路を開発する。第3に、スピーカーユニットが素早く動いて止まるための足場となる機構として円錐形の錨(グランド・アンカー)を考案、スピーカーユニット後部に接続した。
第4が、スピーカーユニットの振動がエンクロージャーに伝わらないように機械的にインシュレートする構造で、ディフュージョン・ステー(仮想フローティング構造)を考案し採用した。第5に、各パーツの接点毎に振動を排除するために特殊素材を使用、これはエンクロージャー内の気密確保にも効果を発揮するものである。
最後がECLIPSE TDシリーズの大きな特徴である卵型のエンクロージャーであった。一般的なレクタンギュラー(箱型)の場合、内部対向面で定在波が発生しやすく、外側の前面バッフルの角で回折効果(音は光と異なり、反射し位相を反転させて複雑に回り込む)が発生し、位相を乱す要因となる。
卵型の「エッグシェル・コンストラクション」は、剛性に優れるだけでなく、同一半径面が存在しないために定在波を極限まで排除できる。
2001年3月に「512」と「508」が発売されて一大センセーションを起こしてから、すでに十年が経過し、数世代のモデルチェンジがあったが、これらの技術のコンセプトは、いささかも揺るぎがないことに注目したい。真に創造的な製品は、どれだけ時間が経過しても、技術の本質が古びることはないのである。
21世紀が到来してから10年が過ぎ、音とオーディオの世界に大きな転換が訪れている。言うまでもなくPC&ネットワークオーディオである。
ハイサンプリング音源をハイレゾリューションで再生する。新しい酒は新しい革袋に盛るべし、ということで新しいオーディオ機器の技術様式が今盛んに論議されているが、世紀をまたいだばかりの2001年に、既にそれを体現したオーディオ機器が姿を現していた。富士通テン ECLIPSE TDシリーズスピーカーの初号機「512」である。今年はECLIPSE TDシリーズが誕生してから10年という記念すべき年なのだ(記念サイトはこちら)。
ECLIPSE TDは由井啓之氏が提唱するタイムドメイン理論をバックボーンに生まれた。
そのコンセプトを一言で分かりやすく要約すると、従来のスピーカーシステムは周波数特性(低域から高域までの波形)を重視して作られているが、ECLIPSE TDは空気の波動をいかに正確に再現するかという人間の聴覚メカニズムに基づいて作られている。
■「ECLIPES TD」を支える「タイムドメイン理論」とは
まず、タイムドメイン理論についてもう少し踏み込んでみよう。
電気式蓄音器やラジオの出現を契機に発展が始まったオーディオは、周波数帯域の拡張に主眼を置いてきた。多種多様な楽器が発する幅広い音域を再現できれば、音楽演奏の再現に近づけるからである。
電気信号からの最終変換器であるスピーカーシステムは、低音から高音までいかにフラットに歪みなく再生するかという命題に応えるべく、ウーファー、スコーカー、トゥイーターとドライバーの数を増やし、振動板の材質の吟味が行われてきた。最低共振周波数を下げるためにエンクロージャーを大型化したり、形式と構造を変えてみたり、様々な工夫が行われ、進化を繰り返してきたのはご承知の通りだ。
その結果スピーカーシステムは、それ自体が一つの固有の音色を持つ<擬似楽器>のような存在になり、長きに渡り音作りとして論評の対象としてきたのである。
この考え方に一石を投じたのがタイムドメイン理論である。その着想の核心は、周波数領域より時間領域(タイムドメイン)に着目し、楽器などの音源が生み出す空気の波動(波形)を徹底してオリジナルのまま再現することにある。
具体的には入力信号(インパルス・原波形)と出力信号(インパルス応答)を可能な限り同じにするというのが、タイムドメイン理論の考え方だ。この状態に近づけるには、スピーカーシステム内で音の遅れを生み出さないことが肝要だ。
入力波形と出力波形が近似なほど再生音は原音に正確になり、完全に一致した時、変換器であるスピーカーシステムの存在は消え、そこに音楽だけが現れる。これがタイムドメイン理論の骨子である。
さて、入力後の波形を歪める最大の要因がインパルス収束後の余波、つまり残響成分で、これにはエンクロージャー(スピーカーシステムのキャビネット)固有の響きが大半を占める。その原因となる不要振動や回析効果、共振をことごとく取り去ることを目標に、ECLIPSE TDシリーズは生まれたのである。
ここには、オーディオのパラダイムシフトがある。それまでのオーディオの醍醐味であった、スピーカーシステムの音の個性(表現性)を否定してしまったのだから。しかし、この手法の有効性は、音楽とオーディオを愛する人たちにとっては、とっくに分かっていたことである。ECLIPSE TDシリーズの出現までは、それを実現する技術の手段が揃わなかったのだ。
■「ECLIPES TD」を完成させた6つの技術
富士通テンが最初の製品「512」を完成させるその鍵となった技術は大きく6つある。
第1に、応答速度が高く内部損失の大きい専用設計のスピーカー振動板を開発する。第2に、マグネットを強化しボイスコイルを最適化し、両者をショートギャップ化し磁束密度を強化した磁気回路を開発する。第3に、スピーカーユニットが素早く動いて止まるための足場となる機構として円錐形の錨(グランド・アンカー)を考案、スピーカーユニット後部に接続した。
第4が、スピーカーユニットの振動がエンクロージャーに伝わらないように機械的にインシュレートする構造で、ディフュージョン・ステー(仮想フローティング構造)を考案し採用した。第5に、各パーツの接点毎に振動を排除するために特殊素材を使用、これはエンクロージャー内の気密確保にも効果を発揮するものである。
最後がECLIPSE TDシリーズの大きな特徴である卵型のエンクロージャーであった。一般的なレクタンギュラー(箱型)の場合、内部対向面で定在波が発生しやすく、外側の前面バッフルの角で回折効果(音は光と異なり、反射し位相を反転させて複雑に回り込む)が発生し、位相を乱す要因となる。
卵型の「エッグシェル・コンストラクション」は、剛性に優れるだけでなく、同一半径面が存在しないために定在波を極限まで排除できる。
2001年3月に「512」と「508」が発売されて一大センセーションを起こしてから、すでに十年が経過し、数世代のモデルチェンジがあったが、これらの技術のコンセプトは、いささかも揺るぎがないことに注目したい。真に創造的な製品は、どれだけ時間が経過しても、技術の本質が古びることはないのである。