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『英国王のスピーチ』で味わうプラズマテレビの“感性領域”

公開日 2011/08/29 15:37 大橋伸太郎
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■画質調整すると期待を越える高画質が現れる

P50-XP07で本作を再生した第一印象は映像が非常に明るく、逆に暗部が浮いていることだった。出画時の映像設定が「シアタープロ標準」で、デフォルト(工場出荷プリセット)で明るさが+31とほとんどMAXに設定されていた。

コントラスト、黒レベルその他を調整しローコントラストで階調重視の方向へ舵を切ると、みるみる黒の厚味が増し、しなやかな暗部階調が現れていく。実に味わいと風格のある堂々とした映像だ。Woooを買ったら機械任せにせず、積極的にソフト毎のチューニングを心がけたい。必ず期待をはるかに超えたバランスのいい映像になる。

家庭の情景を描いた西欧の絵画ジャンルを“Conversation Piece"と呼ぶが、二つの家庭とその<家族の肖像>をP50-XP07は実に温かく穏やか品格豊かに描き出す。本作は6500度より若干低めの色温度で再生するとフィルムの佇まいにさらに近付く。XP07の場合、RGBドライブ/カットオフの詳細調整があるのでそれを利用するといい。

コリン・ファースやヘレナ=ボナム・カーターの肌の色は元来穏やかなマゼンタ寄りに設定されているが、日立のプラズマテレビの傾向(持ち味)としてヒュー(色合い)がややマゼンタ寄りなので、若干グリーン寄りに修正した。

こうして現れる映像テクスチャーの、よい意味での油彩画的な<濁り感>と俳優の穏やかでヒューマンな実在感は、バックライトシステムの存在感がどこかにつきまといカラーフィルターで色彩を得る液晶方式ではなかなか得られないものだ。薄型テレビの数量の上では液晶方式が主流であり、日立Woooにも液晶方式の優れた製品が存在するが、大画面高画質という次元でテレビを見た場合、よく出来たプラズマ方式でだけ味わえる“感性領域”が存在するのだ。

日立Woooの特長の一つに、本格的な超解像技術を搭載することがある。オーソドックスなフィルムバランスの本作でこれが有効かどうかは気になる方も多いだろうが、結局オートで最後まで見た。先に書いた上映館での不満に対する一つの回答を期待したからである。

こうして得られた映像バランスは、製作者が狙ったフィルム上映をベースとした家庭劇、人間ドラマの姿と、市中映画館の必ずしもベストバランスといえない上映コンディションでは甘くなりがちなディテール情報を両立させた素晴らしいものであった。

最後に、P50-XP07に限らずWoooはサウンドもよく練られており、音響イコライジング技術「CONEQ」のf特(低音から高音までの音の再生特性、カーブ)のイコライジングを変え、中低域の量感の厚い安定した映画視聴には格好のバランスに変わった。

『英国王のスピーチ』全編のクライマックスは、ジョージ六世に即位したアルバートが初の国民(植民地含めて)に向けた戦時下演説を成功させるシーンだが、このくだり(かなり長い)は非常に丁寧なサウンドデザインがなされている。

バッキンガム宮殿内の狭いスタジオでの生の声、宮殿の控えの間に流れるモニター音声、富裕層の家庭のラジオから流れる放送音声、街頭スピーカーから庶民に響きわたる声が、センターチャンネルだけだったり、フロントLRにこぼしたり、サラウンドに回したりして、彼の訥々とした演説が次第に国民の心をつかんでいく様子が見事に音響で描かれる。

P50-XP07はこのサウンド面での迫真のクライマックスで音の響きをカタマリにせず、よくほぐして変化を的確に反映、感興を損なわない。映像の実力だけでない。P50-XP07は映画作品のパフォーマンスと魅力をそっくり再現する<一体型ホームシアター>といっていい。

大橋伸太郎 プロフィール
1956 年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数。2006年に評論家に転身。

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