[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第3回】いま「オープン」がアツい! 開放型ハイエンドヘッドホン3機種を聴き比べる
■開放型ならではの豊かな音場。モデル別に音質レポート!
開放型ならではの「自然で豊かな音場の再現」…その期待に最も応えてくれたのはHD700だ。単独で試聴した際に感じた、頭の一回り外にまで音場が広がる感覚。それは他と比べても際立つ。しかしSRH1840とMDR-MA900もそれぞれ十分に、頭内定位を超えて頭の外までの音場を感じられる。各モデルとも、開放型を採用した強みが存分に発揮されている。
続けてモデルごとに全体の特徴をレポートしていこう。試聴曲はEsperanza Spalding「Radio Music Society」。R&B的でありフュージョン的でもある、上質なジャズ・ポップスだ。
・繊細ですっきりとした描写が持ち味のHD700
HD700ではフレットレスのエレクトリックベースがしなやかに躍動。柔軟な音色であるが腰が適度に強く、スタッカートの制動もぴたっと決まっている。軽やかなスラップ奏法の音色の弾け方も、強調感も物足りなさもなく、良い具合だ。ドラムスの一打一打がタイトに抜けて、くっきり感も良い。
シンバルも期待通りに柔らかく、しかしピシッとキレのある音。それがリズムを引き締めている。音色の透明感も特徴で、擬音で言うと「ジャーン」ではなく「シャーン」と、濁点が付かない、あるいは目立たない感じだ。
全体の印象としては、音色も音場もすっきりとした描写が持ち味と感じる。例えば彼女のボーカルの少女的な爽やかさを3機種の中で最も強く引き出すのは、HD700だ。
・ストレートな高域/輪郭がはっきりするSRH1840
SRH1840では、ベースの音色は明確さを強め、輪郭や音程感がさらにはっきりとする。本機はプロフェッショナルモニター用途も想定した製品であるが、なるほど、それに対応できるサウンドだ。それと開放型ならではの音場感が合わさり、モニターヘッドホンの新たな形を鮮やかに打ち出している。
シンバルもHD700よりは少しばかり音色がシャープで強い。HD700は繊細な描写だが、SRH1840はそれよりは高域をストレートに出す印象。耳障りではない鋭さである。
ボーカルは心地よく温かなざらつき、マイクを通してこその生々しさがある。これを録音したエンジニアも、「そうそう!声のこの手触りがほしくてマイクはあの機種を使ったんだよ!」とか言うのではないか(妄想)。とにかく、そんな妄想までしてしまうような音なのだ。
・量感のある低音が豊かに響くMDR-MA900
MDR-MA900は、まず低音の響きが豊かだ。開放型ならではの広い音場に大口径振動板ならではの低音が広がる。タイト傾向のHD700やSRH1840に対して、量感もある低音が持ち味だ。
ベースは、彼女はジャズベースを使っているようだが、ニュアンスとしてはプレシジョンベースっぽさ、野太さや膨らみを増す。そのためグルーブは他の2機種よりはおおらかだ。しかし「他の2機種」が相当にきっちり系であるため、比べるとそうなるということであって、一般的に言えば本機の描写も十分に明確だ。
シンバルの音色は濁点が適度に効いており、不自然ではない程度のちょっとしたアクセントを感じる。ベースもそうだが、各楽器をほどよく音楽的に押し出して「楽しくしてくれる」印象だ。中低音の充実はボーカルの歌いっぷりも引き上げている。厚みのある声が音場に少し大柄に浮かび上がり、存在感を発揮する。
■高いレベルで個性を持つ3モデル。どれかひとつを選ぶなら…?
期待通りに、高いレベルにおいてそれぞれに個性がある。
広大な音場に精緻に描き込む、HD700。
開放型モニターという新世界を見せてくれる、SRH1840。
描写力と楽しさを合わせ持つ、MDR-MA900。
どれかひとつを選べというならば…いや、立場上の問題というわけではなく、本気でひとつには絞り込めないというのが本音だ。開放型ハイエンド新世代、恐るべしである。
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退。大学中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Apple Macintosh、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。 その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。 |
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