開発者に訊く“音づくりのコンセプト”
テーマは「Hi-Fiサウンドへの回帰」 − 音に磨きをかけたデノンのAVアンプ「AVR-3313」
これまでの同クラスのAVアンプとは一線を画す「HiFi的な素性を持ったサウンド」
まずはアナログ2chソースで本機の基本性能を確認した。プレーヤーはアナログ出力には十二分の実力を持つ、同社のフラッグシップモデルである「DCD-SX」使用。ディスクは筆者がリファレンスとするケイコ・リーのCDアルバム「Beautiful Love」より、「Don’t Let Me Be Lonely Tonight」を選択した。ヴォーカルとギターのシンプルな構成で、音質において誤魔化しの効かない曲である。聴き所であるヴォーカルやギターの余韻は、DCD-SXで拾われた溢れんばかりの情報が欠落する事なくアンプ側で増幅され、再生音から空間の広さを感じ取る事ができる。これまでのミドルクラスのAVアンプとは一線を画す、Hi-Fi的な素性を持ったサウンドである。
次に、プレーヤーを「DBT-1713UD」に変更してSACDマルチを試す。曲は「THE DON FRIEDMAN VIP TRIO」のアルバム「TIMEMELESS」より、「Alone Together」。ベースやドラムがSACDならではの厚みで収録されていて、柔なシステムでは鳴らしきれないソースだ。本機では、期待通りマルチでも低域の力感を保ち、ベースとドラムが音量を上げても崩れる事なく、ピアノの音色を汚す事もなく分離が良いのが印象的だ。エネルギーロスを許さないという発想は、低域の力感だけでなく、全域に渡ってドッシリとした安定感を生み出している。
そして最後にサラウンドソースとして映画「トロン:レガシー」のBDを視聴した。一聴して感じたのが、その定位の良さである。グリッドでライトサイクルがバトルを繰り広げるシーンでは、複数のライトサイクルが縦横無尽に駆け巡るのだが、その1台1台の動きがここまでリアルに、手に取る様に見えてきたのは、筆者にとっても初めての体験だった。前方の遠くに右側へ移動する1台、目の前を左側に移動する1台、後方も同様にと、広い音場に位置情報が正確に刻まれていく様は、3D映像以上の情報量に感じられた。これが、全チャンネル同一で作り込まれた、マルチチャンネルサラウンドの音づくりの神髄だと合点が行った。
こだわり抜かれたオーディオクオリティと、マルチサラウンドで求められるチャンネル間の均質性、そこから生まれる広大なサラウンド空間。“HiFiサウンド”への回帰を達成していることが、実感できる本機の仕上がりを大いに実感できた。
◆鴻池賢三 プロフィール
THX ISF認定ホームシアターデザイナー。ISF認定映像エンジニア。AV機器メーカー勤務を経て独立。現在、AV機器メーカーおよび関連サービスの企画コンサルタント業を軸に、AV専門誌、WEB、テレビ、新聞などのメディアを通じてアドバイザーして活躍中。2009年より(社)日本オーディオ協会「デジタルホームシアター普及委員会」委員/映像環境WG主査。