[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第23回】密閉・バスレフ・自由自在! 一台で何度もおいしいbeyerdynamic「CUSTOM ONE PRO」
■まずは密閉状態で試聴
上原ひろみさんのピアノ・トリオ作品「MOVE」からはアグレッシブな曲を試聴。エレクトリックベースは芯の強い音色でぐいっと力強く、ドラムスはタイトな太さとバシンと濁点の効いた荒っぽさも持ち、全体に見た目の印象とも合う無骨さ、ガッシリ感がある。高域側ではシンバルの鈴鳴り、薄刃さが確保されており、シャープな描写。一方で優しいタッチのハイハットシンバルは、しっかりとそのように柔らかく届けてくれる。細かなシンバルワークの描き込み、精密感も十分だ。
ロック・ポップス系バンドサウンドの相対性理論「シンクロニシティーン」からの曲でも、ベースは特に好感触だ。力強く、くっきりとしており、スタッカートのキレも素晴らしい。倍音が豊かで個性的な女性ボーカルからは、その倍音がもたらす柔らかさと鋭さの両方をうまいバランスで引き出す。ぼやけすぎず尖りすぎず、良い具合だ。
バスレフを閉じた状態の音についてまとめると、音色の肉付けなどは最小限の芯の強いガッシリ系で、力強く迫力のある描写といった印象だ。
■続いてバスレフポート全開に!
さて、続いてはバスレフポートを一気に全開にしてみる。
すると予想を上回る劇的な効果!これはそこいらの重低音ヘッドホンを軽く蹴散らしかねない低音の充実っぷりだ。
上原ひろみさんの曲では低音の広がりと厚みが生まれ、音場全体の印象がすっきり系から濃厚系に変わる。低音の広がりによるマスキングで音場のクリアさ、見通しの良さは下がるものの、それにしても濃厚濃密で充実感のある音場だ。
ベースはもちろん存在感を増す。かなり増す。笑えるほど増す。重低音と言うにふさわしい、図太く厚く重みのある音色だ。ドラムスの太鼓類もぶっとく、そして響きが豊かになる。遠慮なしの低音強調だ。ちょっと音色が膨らみすぎる感はあるが、全開状態なのだからそれくらい効いてくれた方が気持ちいい。
相対性理論でもやはりベースとドラムスは強力にプッシュされる。またそれより上の帯域のギターとボーカルも厚みを増す印象だが、一方で音抜けは少し落ちる。また各楽器との距離感というかダイレクト感も変化して、バスレフを効かせるとそのあたりは少し弱まる。まあ当然ながら、バスレフを効かせると効かせないでは、互いに強いところ弱いところがあるわけだ。
で、バスレフ全開の音についてまとめると、音色にも音場にも厚みと広がりを加えたドッシリ系で、大柄で重厚な描写といった印象。
もちろん、まずは極端にバスレフを完全に閉じた状態と完全に開いた状態で試したわけだが、その中間的なセッティングにすればその中間的な音を得られることも確認できた。僕はその中間の2段階の音が好みだ。ユーザーごとにそれぞれの「おいしい音」を見つけられると思う。
じっくり音を聴いて効果を確認すると改めて、これは面白くて楽しめるヘッドホン。ガジェットとしてのワクワク感があるだけではなくオーディオとしてのチューニングも良好。まずは変わり種としてのインパクトを堪能するとして、でもその後は普通に使い勝手の良いヘッドホンとして活躍してくれそうだ。
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退。大学中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Apple Macintosh、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。 その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。 |
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