[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第50回】にわかに熱いニュージャンル、“USBスティック型ヘッドホンアンプ”3機種聴き比べ
■M2TECH「hiFace DAC」:最大384kHz/32bit対応/hiFaceシリーズのUSB-DAC
M2TECH hiFace DACは実売3万4,800円。ちょっとお高くなるが、それだけの価値がある製品だ。USB-DACとしてのスペックは何と384kHz/32bit! 現状ではオーバースペック(384kHz/32bitの音源が皆無)なのだが、性能に余裕があるにこしたことはない。
hiFaceシリーズはパソコンのUSB端子からオーディオ用の同軸デジタル出力を取り出すUSB-DCC分野で高い評価を得ているシリーズ。今回のhiFace DACはそのUSB-DAC版だ。この製品は主な役割としてはライン出力用のDACなのだが「ハイインピーダンスヘッドフォンも高音質にドライブできる設計となっています」ということなので、今回はヘッドホンアンプとして紹介する。
では音質チェックだ!
まず印象をまとめると、他の2モデルと比べてこれがいちばんポップな見た目なのに、これがいちばん大人っぽい音だ。どういうことかというと、低音も解像感も何も特に主張することはなく地味めの音調なのだが、じっと耳を傾けてみるとそれらも含めて様々な要素がハイレベルに充実している。
上原ひろみさんのアグレッシブでプログレッシブなピアノトリオ作品「MOVE」は192kHz/24bit音源。このhiFade DACは192kHzをそのまま再生できる。
まず感心させられたのは柔らかな響きがすっと広がる空気感。これは他の2モデルではここまのレベルでは味わえなかった感触だ。これが192kHz音源の実力か!?響きの細かな成分までの描写、その背景のS/Nの良さ(静かさ)がこれを生み出しているのだろう。ドラマーがハイハットシンバルの一打ごとに与えている繊細なニュアンスも、全体に耳を向けているときは目立たないのだが、そこに耳を傾けると実に描き込まれていることがわかる。描写にうるささというか押し付けがましさがなく、こちらが意識しない限りは解像感やシャープネスを主張してこない。
ベースはしなやかで、良い具合に力が抜けている=必要十分な力のみが入っている。ドラムスもぽこんとした優しい音色だ。迫力という点ではちょっと弱いが、これはこれで魅力的だ。この好印象は192kHz音源をそのまま再生できることの強みかと思いきや、他の音源でも印象は同様だった。
ポップユニット相対性理論のアルバム「シンクロニシティーン」は48kHz/24bit。
全体にもたつきがなく、軽快なスピード感がある。ベースはゴツゴツさせずにしなやか。低音をしっかり出して太さもあるが、それを重く引きずることがなく、すすっと軽やかな推進力がある。ドラムスはバシバシと荒っぽい迫力は控えられるが、スパパンとキレがよくてこちらも好印象。やくしまるえつこさんのボーカルはかなりよい!倍音感のシャープさを出しつつもそれが耳に刺さらようにはせず、耳元でそよぐような心地よさ。全体にとにかく聴きやすいのとじっくり聴き込んでも物足りなさはないという、なかなか得難い音が実現されている。
エリカ・バドゥさんのライブ盤「LIVE」は44.1kHz/16bit音源。
このベースは、ゴツゴツとした重量感は出さないが、しっかりとした張りのある音色だ。それでいて輪郭は明瞭。スラップの弾け方も強調しすぎずおとなしくしすぎず素直で気持ちよい。強靭でゴツいファンクネスこそ弱まるものの、ほどよくウォームなグルーブ感はなかなか悪くない。
なおhiFace DACは、他の2モデルと比べると最大音量が控えめ。僕の感覚としては十分な音量は確保されているし、耳の健康を考えても過度な最大音量は必要ないとも思う。しかしドカンと大きな音で聴くのが好きな方には物足りないかもしれないので、留意しておいてほしい。