[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第57回】USB-DAC/ヘッドホンアンプの基礎知識ナビ<回路/パーツ編>
<回路>
●デュアルモノラルDAC
デジタル音声信号をアナログ音声信号に変換するDACチップは、1チップに複数のDAC回路が搭載されており、ステレオの左右の信号を1チップで処理することができる。なので普通にそれを生かして左右を1チップで処理する回路構成が合理的で一般的だ。
しかしデュアルモノラルDACの回路構成では、DACチップに搭載されている複数のDAC回路を並列駆動で左/右の片側の処理に割り当て、左右の信号をそれぞれ個別のチップで処理。それによってより高精度なDA変換を実現する。
つまり、より贅沢な回路構成とパーツ投入によって、より高精度高音質なDA変換を行うのがデュアルモノラルDACなのだ。
●デュアルモノラルアンプ
…は、音声信号の増幅処理を行うアンプ回路を、ステレオの左右それぞれで完全に独立させた回路構成のこと。左右の信号のセパレーション(分離)の向上、左右それぞれの回路への物量投入を高めることでの駆動力等の向上といったことによる、総合的な音質向上を見込める。
増幅素子であるオペアンプをデュアルモノラルDACとまさに同じように左右独立で搭載するデュアルモノラルオペアンプ構成も、デュアルモノラルアンプの一形態だ。
●ディスクリート構成
先ほど少し話に出た「オペアンプ」はいわゆる「集積回路」で、つまり複数の電子部品の役割がひとつのチップに集積されている。そのためオペアンプを使えば、電気信号の増幅に必要な回路の主な部分をオペアンプひとつに任せることができ、単純に実装すれば一定の音質を省スペースかつ低コストで実現できる。
しかし「単純に実装すれば一定の音質を実現できる」というのは逆に言えば「音質を調整するために工夫できる範囲が狭い」ということでもある。
そこであえて昔ながらに、様々な特性のパーツを様々な手法で組み合わせて回路を構成することで狙った音質を実現するという手法、そういった回路構成を採用する製品も多い。そういった回路構成のことをディスクリート構成と呼ぶ。ディスクリート構成なら一概に音が良いということはないが、少なくとも安易に組み上げた製品ではない可能性は高まる。
ただ誤解しないでほしいのは、高いクオリティのオペアンプを正しく巧く使っているアンプ回路は、音質面でディスクリート構成に劣ることはない。ここは「音質向上のための手法が異なる」というだけの話だ。
なお「ディスクリート」とは「個別の」といったような意味で、機能が集積されているオペアンプ等に対して、トランジスタやコンデンサー、抵抗などの単機能の半導体素子のことだ。
●バランス駆動
一般的なヘッドホンとヘッドホンアンプでは「アンバランス駆動」が採用されている。この場合ヘッドホンのドライバーとアンプとの接続は、信号の+極の導線は左右で独立しているのだが、ー極(グラウンド)の導線は左右が1本にまとめられている。そのためクロストーク(左右の間での信号の漏れ)などの問題から逃れきることが難しい。
そこで「バランス駆動」だ。左の+極とー極を一組、左の+極とー極を一組として、左右それぞれを完全に分けてドライバーとアンプと接続する。これによってグラウンドが安定し、クロストークやノイズの低減といった効果を得られる。
またそのように接続した場合は左右のドライバーの+とーをそれぞれ個別のアンプで駆動する必要が出てくるのだが、その結果アンプの駆動力も高まり、音質面での利点がさらに生まれる。
そのようなバランス駆動に対応したアンプ回路を搭載するヘッドホンアンプは、一般化まではしていないが、増えつつはある。
またバランス駆動のためにはヘッドホン側もバランス駆動対応である必要がある。最初からバランス駆動対応というヘッドホンは少ないが、サードパーティ製のケーブルに交換することでバランス駆動に対応できるヘッドホンはけっこうあるので、チェックしてみてほしい。
次ページDACチップやオペアンプetc…続いてパーツ部の注目ポイントを紹介