[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第89回】「リスニングハイエンド」という新語を授けよう! Ultimate Ears「UE900s」レビュー
一転していまどきサウンドであるPerfume「Enter the Sphere」を聴くと、こちらで印象的なのはバキバキのエレクトロサウンドであるこれをいくら聴いていても、聴き疲れる気配が全くないこと。それでいて物足りない感じでもない。エッジは少し弱めるが、歪みの粒の粗さなどで「暴れ」も十分に叩き出してくれている。この「聴きやすいけれど物足りなくない」感じこそ、リスニング向けにチューニングされたイヤホンの本領発揮かもしれない。
ギターはUnkie「blink」で追加確認。僕が「いまストラトから最もヤバい音色を叩き出しているギタリストの一人」と認識している青木裕氏がストラトを軋ませまくる様と、このイヤホンの適度なざっくり感や粒の粗さの表現は実に相性が良い。ギリッ!ギャリッ!というヤバい感触が強く伝わってくる。また先ほどは僕の好みとはちょっとちがうといった「湿り気よりも抜け」の部分も、この演奏この録音とは相性ばっちり。ちなみにこの作品(アルバム「too many secrets」)の録音はスティーブ・アルビニ氏。
ボーカルは相対性理論のやくしまるえつこさんと、あと坂本真綾さん「30minutes night flight」、宇多田ヒカルさん「First Love」でチェック。薄刃のシャープさ、それによって表現される声の切なさといった要素は控えめ。良くも悪くもかもしれないが、聴いていて落ち着かない気分なる瞬間はあまりない。やはりずっと聴いていてもずっと心地よい感じだ。
…というわけで今回は、Ultimate Ears UE900sを紹介させていただいた。音を確認してから改めてその他の特徴を考えてみると、このイヤホンはイヤーモニターの要素をいいとこ取りしたリスニングハイエンドと言えるかもしれない。
例えばIE 800やK3003はその優美でコンパクトなデザインの代わりにケーブルが固定式だが、こちらは汎用性の高いMMCX端子でリケーブル対応。装着方法も耳の上に回すスタイルを採用してタッチノイズを抑えている。耳にフィットするカーブを描いた樹脂筐体とイヤーピースの充実で遮音性も、Shureにはさすがに及ばないものの、文句なしのイヤモニ級だ。
イヤーモニターのトップブランドだからこそ作れたリスニングハイエンド。イヤーピース強制選択の件も含めて、オーソドックなようでいて面白い提案性もあるイヤホンだ。
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。 |
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