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連載<第四回>

藤岡誠のオーディオワンショット - MCカートリッジのバランス伝送・昇圧方式への誘い<その1>

公開日 2014/10/31 16:33 藤岡誠
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藤岡誠が、自身の推薦するオーディオ機器、関連アクセサリー、あるいはコンポーネントの組合せ。またある時は新技術や様々な話題など、毎回自由なテーマで原稿を進めていく連載「藤岡誠のオーディオ・ワンショット」。第4回目は、MCカートリッジ出力のバランス伝送を紹介する。

カートリッジを自由に選べる魅力と、そのために払われた犠牲

本連載の前回では、価格が6,800,000円、3,300,000円、2,800,000円(いずれも税抜)という途方もなく高価な内外のターンテーブル、アナログプレーヤーの存在に簡単に触れながら、ラックスマンのアームレス・ターンテーブル「PD-171AL」にスポットライトを当てて紹介した。紹介の主たる意図は、団塊の世代とそれ以前の世代の方々が温存していると思われるトーンアームの名器たちをこれに取り付けて、“青春時代のアナログオーディオ”を再び楽しんでいただこうということであった。

前回の連載でも言及されたラックスマンのアナログプレーヤー。こちらはアーム付きモデル「PD-171A」だ

あの頃のオーディオファイルたちのアナログプレーヤーの多くは、各自が好みに合わせてターンテーブル、アーム、キャビネットをカスタマイズしてシステム化を果たしていた。彼らにとって既製のプレーヤーは当たり前過ぎてそれだけでは飽き足らず、とにかく既製品を凌駕する性能、クオリティーを目指す情熱があったからだ。現在と違ってアーム、ターンテーブルシートなどの部材が豊富で入手が容易だったから、高音質化のニーズに幅広く確実に対応できた。アナログプレーヤーのそうしたカスタマイズは、まさにアナログ全盛期の主役的存在だった。カートリッジはオルトフォンやデンオン(デノン)といったMC型が多かったが、シュアやエラックなどのMM型を好みとする人も少なくなかった。

特に1本のトーンアーム(ユニバーサル型)でMC型、MM型、VM型、IM型などといった各種各様な発電方式のカートリッジが簡単に交換可能という機能は、聴く楽曲や音楽ジャンルに合わせて好みのカートリッジを任意に選択して使えるという点で完全に消費者のニーズに沿い、利便性と汎用性の視点でいえば文句なしだ。その結果、プレーヤーシステム自体は、いわば自己完結型のコンポーネントとして極めて充実した性能・機能を得ることに成功し、デジタルオーディオの今日にあっても一定のポジションを確立しているわけだ。しかし一方で、前述のように各種カートリッジを自由自在に交換できるという利便性と汎用性は、MCカートリッジに関しては同型が基本的に持つ独自の能力を犠牲にしてきたことを否めない。

アンバランスのフォノ入力/フォノEQの一般化

具体的にいえば、様々な発電方式のカートリッジを1本のアームで簡単に交換可能にするには、カートリッジ出力の片側をアース(グランド)に接続したアンバランス伝送が便利で有利で簡単。加えてイコライザーの初段もアンバランス入力方式・回路がシンプルで生産コストも抑えられる。これらが相乗効果として大きく働き、過去から現在に至るまでアンバランス伝送と、これに対応したアンバランスのフォノ入力/フォノEQが普及し続けてきたのだ。

先日、オーディオテクニカが発表したシバタ針を搭載したMC型カートリッジ「AT33Sa」

さらにいえば、カートリッジはこれまで「針先形状がどうだ」「カンチレバーの素材や形状がどうだ」「コンプライアンスの高/低」「ボディの材質や構造」、MC型では「発電コイルの素材や巻き数」「コイルの巻き枠やインピーダンス」「磁気回路のマグネットの種類」などに関心が集中。見つめる視点がカートリッジ単体と使用素材などに向けられ続けてきた。もちろん、これらの項目はすべてのカートリッジにおいて重要な項目であることはいうまでもないが、これがMC型にとっては“不幸の始まり”だったのだ。

何故なら、前記したように「1本のアームで各種各様のカートリッジを簡単に交換して楽しめる」という利便性と汎用性を重視・優先したために、MC型の発電コイルの片側をアースに接続せざるを得なかったからである。

例えは良くないかもしれないが、天才を凡才と同じ教室で学ばせることに似ている。それでなくとも出力電圧がMM型の十分の一程度に過ぎずインピーダンスも低いMC型は、SN比を確保するのが困難だし、アースラインやアームケーブルへ混入する各種ノイズが一番の敵。まさに大敵だ。ほとんどの人たちはこれらにそれに気がつかないまま、あるいは知らされないまま、長い年月を過ごしてきてしまったのである。優れたMCカートリッジには出力端子以降の、それなりの英才教育が必要だ。

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