[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第105回】明らかに音が良くなった? “iPhone 6の音質” に今さら迫ってみる
■劇的に変化した内蔵スピーカーの音
まあでも、こちらはどう見ても筐体の形も大きさも、それに伴ってたぶんスピーカーの大きさや内部配置も、つまりアコースティックな要素はほぼ全面的に変わっているのだから音が変わらないわけがない。問題はどう変わったかだ。
ということで、まずはリファレンス曲を試聴。なおスマートフォンは置き方や置く場所によって音が激変する。今回はスマホスタンドにスピーカー側を上に向けて立ててみたが、例えば吸音効果の強そうな布団の上にポンと置いた状態などだと、印象は変わるはず。その点はあらかじめ気に留めておいてほしい(逆に、スマートフォンはコンパクトでどこにでもどうとでも置きやすいので、その手法でその場その場で音を調整することもできる)。
特に激変しているのはドラムスやベースなどの太さというか空気感というか、「鳴りっぷり」と言うのが伝わりやすだろうか。中域〜低域の感触がまるで異なる。ドラムスの違いをわかりやすく大げさに表現すると、iPhone 5だと「トンタン!トトタン!」みたいな感じだったのがiPhone 6では「ドンパン!ドドパン!」になる感じだ。ベースも5だと「上っ面が微かに聞こえる」感じだったりさえするが、6はそれよりはかなりまし。
またそのおかげでベースやドラムスなど中低音楽器の重心が低い方に行ってくれることで、ボーカル等との分離もよくなっているように感じられる。さらにはボーカル自体も明瞭さ、厚みを増しているようだ。そして共に相変わらずの底面モノラルのスピーカー配置であるが、iPhone 6の方が音の広がり感もどうも心地よい。
どうしてそのような音の違いが生まれているのか?意図的な音作りについては置いておくとして、また筐体の内容積とかについても置いておくとして、実物を手にして感じられるのは筐体の剛性だ。
僕としてはスマートフォンを尻ポケットに入れて持ち歩くことはないし、そんな使い方をすれば曲がって当然だと思うが、iPhone 6に対しては一時期そのような批判(尻ポケットに入れてたら曲がった)があった。つまり剛性不足では?というところを指摘されていたのだ。実際、スマートフォンとして剛性不足とは思わないが、iPhone 5と比べれば弱いとは確かに思える。5の方が小さくて厚く、6は大きくて薄い。6の方が剛性が低くなるのは当然だ。そして何より、実物を手にすればその「剛性感」の違いは感覚でわかる。
そして手に持ってスピーカーで音を鳴らしてみると、iPhone 6はiPhone 5と比べて「筐体が鳴っている」ことがわかる。剛性が高くないために音に合わせて筐体が響く。この要素も中低音域の鳴りや音の広がりにある程度は影響しているのではないだろうか。スピーカーキャビネットにおいて、剛性を高めて共鳴振動を可能な限り殺すのか、逆に剛性を高めすぎず共鳴振動も生かすのかというのは、その設計の出発点にも近い重要な要素だ。iPhone 6は狙ってか偶然か、後者のように鳴っているのかもしれない。…というのは全くの推測だが、何にせよ僕の好みには合致する音なので歓迎したい。
ただしどちらにしても相変わらずの底面モノラルのスピーカー配置なので、横向きモードで動画を見ると音が左右片側からしか出ない。僕はスマートフォンにスピーカーによるステレオ再生が必要とは考えていないが、モノラルかステレオかの問題ではなく音が画面のだいたい中央に定位しないのは気持ちがよくない(MacBook Airの初期モデルもそうだったのだが、フルモデルチェンジ以降は修正されていてありがたい)。またスタンドに普通の向きで縦置きするとスピーカーが下に向いて隠れてしまい、音質が変化してしまう。