<山本敦のAV進化論 第33回>
オーディオテクニカの“フルデジタル”ヘッドホン「ATH-DN1000USB」開発者インタビュー&音質レポート
今回はATH-DN1000USBの実機を借りて試聴も行ったが、とにかく音のアタックや立ち上がり・立ち下がりのレスポンスが鋭く、低域は正確なリズムとクリアな音色が印象的だ。ワイドレンジでありながら奥行きやディティールの再現力にも優れる。特に大編成のオーケストラなどを聴くと楽器の位置関係もリアルにイメージできる。音数の多い打ち込み系の楽曲も、ひとつひとつ音の粒立ちがくっきりとして彫りが深い。
シャープで明瞭感が高いことも特徴だが、同時にオーディオテクニカのハイエンドモデルが特徴とするような、こってりと濃密な音であるとも言える。これは確かにこのヘッドホンでしか味わえないサウンドだ。
さらに面白かったのは、CDリッピングの音源を聴いた時の体験だ。最近は圧縮音源をハイレゾ相当の高品位にアプコンする技術も流行っているが、これらの効果に勝るとも劣らぬほど、CDの音がこれまでに聴いたことのないような鮮やかさで聴こえてくるのだ。
「デジタル伝送では音源のデータに元々収録されていた情報がロス無く伝わってくるメリットがあるため、CDリッピングの素材がよりいい音で聴こえるのではないかと思います。ハイレゾ再生の場合も同様ですが、アナログの信号処理ではDA変換されたデータがアナログ回路を通る段で音質が劣化し、実質19ビット前後の程度でしかパフォーマンスが発揮できていないと考えられます。その分、アナログ段で音を味付けできる楽しさもあるのですが。デジタル伝送の場合はCDに元々入っていた音をそのまま聴けるようなイメージです」(高橋氏)。
クラシックギターやバイオリンなど、特に自然な弦楽器の音には目を見張るものがある。中高域の解像感やキレ味に富むことは明らかに本機ならではの特徴だが、解像感が高く透明な低域も本機の緻密な「空気感」を再現する力に貢献しているようだ。低域の作り込みについては、特に開発陣が意識した部分なのだろうか。
「ハイレゾにおける高音質を語ると、どうしても高域再生に話題が行きがちです。私たちも最初は高域だけで評価をしていましたが、試聴を繰り返すうちに、どうやらハイレゾの本当の凄みは低域だというところに気がつきました。そこで私たちが意識したことはナチュラルな音色と、ベーシストが指で弾いているようなリアルなイメージが頭に浮かんでくるような分離感と量感を両立したサウンドを追求することでした」と高橋氏。
詳細仕様は機密事項であるため教えてもらえなかったが、振動板は新規に開発され、専用のチューニングが施されているという。またダンパーや抵抗材なども全て新規開発のものが使われている。高橋氏は「オーディオテクニカが勝負する土俵はアナログの部分ですが、そこに私たちは絶対の自信を持っています」と胸を張る。