[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第109回】そろそろ買い時 “Bluetoothスピーカー”はココで選ぶ! 購入ポイント徹底解説
■ポイントになる要素や機能|音質編
続いては音質面でのポイントを見ていこう。
▼コーデック|aptXやAAC
いわゆる「対応コーデック」のように表記されるスペックはなかなか重要。
Bluetotohはデータ転送速度よりも使い勝手や省電力に重きを置いているワイヤレス方式。なのでワイヤレスで音声を伝送する際も、非圧縮で最高音質のデータをそのまま送受信してはいない。何らかの圧縮方式=コーデックで圧縮し、データ量を減らした状態で送受信しているのだ。
で、音声圧縮には音質損失がつきもの。それに対してより高性能高効率な圧縮方式を使い、またできるだけ圧縮率を下げることで音質を上げるというか損失を減らすというのは、実に真っ当なアプローチだ。
その「より高性能高効率な圧縮方式」というのが「aptX」「AAC」というわけだ。ちなみにそれらに対してBluetooth標準の方式は「SBC」。特に断り(売り文句)がない製品は普通にこちらを利用していると考えてよい。ただしSBCのままでも、いろいろと調整してよりよい音質を実現している製品もある。
基本的にはaptXが、音質と遅延の少なさ(画面の映像と音のズレの小ささ)の両方で高い評価を得ている。これに対応している製品がベストだ。
ただしこれらのコーデックが有効になるのは送信側と受信側、例えばスマートフォンとスピーカーの両方がそのコーデックに対応している場合のみ。その場合は何の設定もなく自動的にそのコーデックが利用される。問題なのはiPhoneシリーズがaptXに対応しておらず、AACのみの対応ということ。同シリーズのユーザーの場合はaptXのみ対応のスピーカーを選んでしまうと、その部分については宝の持ち腐れになってしまう。
なお「iPhoneにAAC形式で音楽を入れてあり、Bluetoothの伝送コーデックがAACなら、再変換なしでAACからAACのまま伝送でき、音質面で有利」という話を見かけることもある。しかし実際には、この点はどうも曖昧なようだ。
例えばあるBluetooth製品のウェブの製品情報には「ワイヤレスでも高音質、AACに対応。iOS 4.3.1以降のiPhoneなど、AACでエンコードした音楽も高音質で再生します」との記載がある。これを普通に解釈すれば前述の「AACファイルは再圧縮なしでそのAACのまま伝送」だと思うのが当然だろう。またさらに確定的に「AAC」コーデックに対応、Apple社iPhoneなどのiTunes標準コーデックであるAAC音楽信号は、再圧縮せずワイヤレス伝送することが可能」と記載の製品もあったりする。そのように明記しているそれらの製品の場合は、もちろんそれを実現しているはずだ。
しかしBluetoothによるオーディオ伝送の基本的な動作として、音楽ファイルがAACだろうが伝送コーデックがAACだろうがどんな組み合わせだろうが、「音楽ファイルはいったん圧縮を解いてから伝送時にBluetooth用のコーデックでもう一度圧縮し直す」のが普通のようである。その点はどうも、製品によって実際の動作が異なるという話も見かける。そこを期待するなら事前に、各製品個別の情報をしっかり確認する必要があるだろう。
さて、コーデックは重要な要素だが、総合的な音質をこれのみが決定付けることはない。
例えば想像してみてほしい。100円ショップで売っていそうなほどに貧弱な作りのスピーカーをaptX対応に改造でもしたとする。一方で1万円のスピーカーがSBCのみの対応だったとする。どちらの方がよりよい音質になるだろうか? 以下の数字は便宜上のものなのでそこは軽く受け取ってほしいのだが…。
仮に元の音楽ファイルの音質を100として、aptXだとそれを90で伝送でき、SBCだと80にまで下がってしまうとする。しかしそれを受け取るスピーカーの再生能力の上限が、前者のaptX対応のものは50で、後者のSBCのものは80だとする。すると伝送されてくる音声データの情報量に関係なしに、前者の最終的な音質は最大50で頭打ち。対して後者の最終的な音質は最大80でそれを上回る。
これはさすがに単純化の過ぎる机上の空論ではある。しかし概要としてはそういうことだ。コーデックに限らずだが、ひとつの要素だけに捉われず総合的に判断しなくてはならない。その上でこそ、各要素やコーデックそれぞれの重要性もまた再確認できる。
次ページその他、Bluetoothスピーカーの音質を決める要素について