まさに“リファレンス”の実力
【連続企画第2回】ティアック「HA-P90SD」のアンプ駆動力を人気ヘッドホンと組み合わせテスト!
■躍動な音を届けるオーディオテクニカ「ATH-CKR10」との組み合わせ
ATH-CKR10は市販イヤホンとしては他にはないDUAL PHASE PUSH-PULL DRIVERSによって、ダイナミック型ならではの音の厚みだけでなく、BA型のような歪み感のない高解像度な澄んだ高域感も獲得した、ハイレゾ時代にふさわしいハイC/Pモデルだ。本機をHA-P90SDで鳴らすと、クラシックでは澄み切った音場へ抑揚良く瑞々しいオーケストラが展開。一つ一つのパートもキレ良くシャープに描き、制動力のある低域によって弾みの良い透明感溢れる旋律を聴かせてくれる。
ジャズにおいては低域方向まで伸び良い響きを持つクリアなピアノと、弦のプレイニュアンスを丁寧に拾い上げるウッドベースの豊かな胴鳴り、スネアの太さも感じられる自然なブラシのタッチ感がバランス良く融合。音像の密度も高く充実した演奏だ。ロックにおいてはザクザクと小気味よいエレキギターのリフと、どっしりと響くリズム隊の低域の押し出しがリッチに感じられる。ボーカルはボディが厚く口元の動きも自然に描く。パワフルかつ押し出し良いサウンドだ。
DSD音源をHA-P90SDで再生すると一気に音離れが良くなり、ギターやウッドベースの弦のアタックはスパーンとヌケ良くはじける。ボーカルは肉付き良く、ニュートラルなバランスで、口元は倍音の輪郭感をほのかに感じさせるが、動きも克明でリアルな密度感を持つ。5.6MHz音源では個々のパートの密度感がより高まり、生々しい存在感溢れる音像が浮き上がる。余韻の階調も豊かで、音場の臨場感もより高まった、躍動的でアナログ感溢れるサウンドだ。
■“リファレンス”というにふさわしい“個性を引き出す能力”を備える
このHA-P90SDのヘッドホンアンプ部の能力は、T1をはじめとするハイインピーダンス機が問題なく駆動できる点で大きな安心感を持つことができたが、いずれのヘッドホン/イヤホンの持つ個性もストレートに引き出してくれた。それは純粋に色付けの少ないニュートラルなサウンド性を裏付ける結果でもある。
それと同時に各々のヘッドホンの音色を改めて細かく確認でき、“こういう良い一面もあったのか”と各モデルの持つメリットやサウンド性を再確認することもできた。
リケーブルも含め、ヘッドホンの周辺では様々な音質改善のアイテムも増えているが、音質は変化してもそれが本当に良い音になったのか分からなくなることも少なくないだろう。そうしたときのフラットなバランスを持つ指標としてHA-P90SDのようなニュートラルなサウンドを持つヘッドホンアンプが役に立つのではないか。
やはり本機はポータブルヘッドホンアンプとしても“リファレンス”という言葉が似合う、絶妙なバランス感覚を獲得したモデルといえそうである。
■試聴ソース
○クラシック
▼イ・ソリスティ・ディ・ペルージャ『ヴィヴァルディ:四季』〜“春”(192kHz/24bit)
▼飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート2013『プロコフィエフ:古典交響曲』〜“第一楽章”(96kHz/24bit)。
○ジャズ
▼オスカー・ピーターソン・トリオ『プリーズ・リクエスト』〜“ユー・ルック・グッド・トゥ・ミー”(CDリッピング:44.1kHz/16bit)
○ロック
▼デイヴ・メニケッティ『メニケッティ』〜“メッシン・ウィズ・ミスター・ビッグ”(CDリッピング:44.1kHz/16bit)。
○DSD音源
▼長谷川友二『音展2009・ライブレコーディング』〜“レディマドンナ”(タスカムDV-RA1000HDにて筆者自身が2.8MHz・DSD収録)
▼Suara『Suara at 求道会館』〜“トモシビ”(5.6MHz・DSD)
(岩井喬)