[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第121回】「JH Audio三姉妹」どれと付き合う? 新キャラ “Layla&Angie” を聴く
■Layla&Angieの音質
では試聴レビューに入ろう。まずはAstell&Kern「AK120II」でのシングルエンド(非バランス駆動)から。「Variable bass output」は特に記載がない部分では0dB(増強なし)。ご参考までに、以前に掲載した「Roxanne」の音質レビューも貼っておく。
長女「Layla」でまず印象的なのは「Roxanne」でも際立っていた空間性だ。空間の広がりの幅にも余裕を感じるし、その幅を広く使っての配置によって音の余計な重なりがなくなるので、とにかく見晴らしがよい。ロックやポップスのスタジオ録音の緻密な空間設計はもちろん、アコースティックなジャズの空気感やクラシックのホール録音の華やかな響きの表現も、イヤホンとして最上級だ。
その余裕余白とも関係するだろうが、中低域の抜けっぷりの自然さ素直さも特筆に値する。ドラムスの太鼓やベースを硬く締め込むことなく、ナチュラルな太さや弾力、響きの空気感のままに、ポンッと軽やかに抜けさせてくるのだ。
帯域バランスは普通にとても整っている。前述のように「Variable bass output」はフラット設定を基本に試聴しているが、室内で聴きこむのであればその状態を基準に考えるのがよさそうだ。この点については製品ページに掲載されているジェリー・ハービー氏の言葉通り(以下、一部抜粋)。
「レイラは、私がスタジオ・マスタリングのリファレンス用として設計した、初めてのIEM(インイヤモニター)です。これまで設計してきた多くのIEMは、ロックミュージシャン用のステージ・モニター用として設計している為、低域と中低域を若干強調した音作りとなっています。正確でありながら暖かみのある傾向の音です。それに対しLaylaは、まるでレコ―ディングスタジオのミックス・ポジションで聴いているかの様に、スタジオエンジニアやプロデューサー、そしてミュージシャンがリスナーに聴かせたいサウンドを、正確に届けてくれます」*この点は「妹分」の「Angie」も同様とのこと
そしてその正確なフラットバランスを土台とした上で「Variable bass output」も用意されている。これがまた実に優れものだ。フラット設定で聴いているときは「これがベストだな」と感じていたはずが、「Variable bass output」を思い切ってマックスにしても、30秒ほど聴いていると「…いやこれもありだな」と耳に馴染んでくる。コントロールする帯域(60Hz)や幅、最大+13dBという加減が絶妙なのだろう。屋内外などのリスニング環境に合わせて適時調整するのがよさそうだ。外出先でも調整するには小型マイナスドライバーを常時携帯する必要はあるが。
音調としては、質感のドライさや荒さの表現にも優れるというのがポイントに思える。しかしそれでいてウォームとも感じるのが不思議なところ。ロックのお土地柄に喩えるならロンドンでもベルリンでもなくカリフォルニアな雰囲気だ。このあたりも「Roxanne」と重なる。シンバルの金属のざらつきやボーカルの手触りの微かなささくれ。そういったところを甘くせずに引き出した上で、嫌なシャープさにはせずに心地よく届けてくれる。
この点はBA型イヤモニとしては最高レベルに伸びている高域特性のおかげかもしれない。BA型は高域を伸ばすことが難しいそうで、本機の23kHzまで伸びたスペックは際立つ。高域に4基のドライバーを配するのはそれを実現するためだという。個々のドライバーへの負担を減らすことで実現されているのだろう。そのスペックの上限の高さでその下の帯域にまで余裕を持たせ、高域の歪みや詰まりを低減させているわけだ。たぶん。