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「普通の極み」が強い個性に

ゼンハイザー「CX 5.00」レビュー。“鉄板エントリー”最新モデルの実力とは?

公開日 2015/04/17 10:00 高橋 敦
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高域をシャープに描写し、低域もしっかり

では、本機の音の印象について述べていこう。

改めて確認しておくと、「低域が強い」「高域が強い」という帯域の話としても、「鋭さが目立つ」「しなやかさが目立つ」という音調の話としても、どれかの要素が突出してしまっているところはない。見事なバランスだ。

しかし、すべての要素がただ最低限のレベルをクリアしているだけでは、たいした印象は残らない。本機はそのバランスを基本にし、ちょっとした強みというのも各所にあるからこそ、全体の印象として「普通によい」というレベルに達しているわけだ。

本機のその「ちょっとした強み」の筆頭としてまず挙げたいのは高域の「綺麗なシャープさ」だ。

例えば今回試聴したところではやくしまるえつこさんや花澤香菜さん、坂本真綾さんといった女性ボーカルの、うっかり扱うと耳に刺さるような鋭さになってしまう成分。しかし刺さらなければそれでよいかというと、ぼんやりとほぐされてしまったらそれはそれで台無しだ。

本機はそこをちゃんとシャープに描写してくれる。それでいて刺さるという感じではない。ハイエンド機ほど研ぎ澄まされた美しさではないにしても、ぼやけたり鈍ったりしない真っ当なシャープさを備えている。

もちろんボーカルの他、例えばシンバルでもその真っ当なシャープさが光る。上原ひろみさん「ALIVE」ではサイモン・フィリップスさんがシンバルの使い分けや叩き具合によって様々な音色を使い分けて豊かな表現力を見せるが、その表現がしっかりと伝わってくるのもこのイヤホンの「真っ当さ」のおかげだ。

上原ひろみ『ALIVE』

そして「バランス型」というと「低音を強調していない=低音は控えめ」と思われるかもしれないが、このモデル、実は全体のバランスを崩さない絶妙の塩梅で、低域もしっかりしている。

「ALIVE」ではアンソニー・ジャクソンさん曰くコントラバスギター、弦を追加して音域を拡大したエレクトリックベースも活躍している。通常のベースでは出せない低い音程を出せたり、通常のベースでも出せる範囲の音程にしても指使いの自由度が上がるために弾きやすくなってより自然に用いることができるといった利点のある楽器だ。反面、その楽器の特長と氏の技量によって広い音域を縦横無尽に駆け巡るため、オーディオには厳しい存在でもある。

しかし本機はこの楽曲にもしっかり対応できている。太くしっかり緩くない音色を常に確保。この「常に」がポイントだ。広い音域を縦横無尽に駆け巡るベースラインにおいても、どこかの音程でだけ音像が膨らみすぎるとか音色が薄まるといったことがない。低音域のその中でもやはりバランスがよく、特定の帯域が強まっていたりしないのだ。



CX 5.00

ここまで「高域の綺麗なシャープさ」「低域のバランスのよいしっかりさ」と述べてきたが、しかし高低が際立つドンシャリ型ではないことはもちろんだ。しつこく繰り返すが、全体のバランスはとてもよく、ミドルが抜け落ちて感じることはない。ボーカルで言えばシャープな成分だけではなく肉声的な厚みの表現にも不足は全くない。ベースの厚みというのも実際には中音域の充実によるところも大きい。

エントリーシリーズのトップエンド。特別なことはせずに基本を堅実に高めただけ。本機はそういうモデルだ。耳目を引くような売り文句は持ち合わせていない。しかしそういう位置付けのモデルだからこそ到達し得た「普通の極み」を感じられる。それはもはや特別なことなのかもしれない。

(高橋 敦)

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