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アーティストへの利益還元問題も

Apple参入で競争激化? 元洋楽ディレクターが世界のストリーミング音楽配信を総まとめ

公開日 2015/06/04 11:52 本間孝男
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■ストリーミングサービスを左右する「ビッグデータの処理」

3月25日、米国のウェブメディア「TechCrunch」は、アップルが「Foundation DB」を買収したと報道した。アップルはウェブやインフラにおいて、グーグルやフェイスブックなど、膨大なデータを必要とする企業に太刀打ちしなければならない。

「FoundationDB」はビックデータの解析にも強い「NoSQL(Not only SQL)」機能も持つ。40人の技術者スタッフもアップルに移籍する。iOS機器やApple Watchなどの躍進により負担が大きくなったサービス提供部分の裏方を強化しようという狙いだろう。ちなみにアップルはこれまでも音楽データ解析企業「Semetric」、さらには「Acunu」といったデータ解析企業を買収している。

5月19日、ユーザー数では世界最大規模を誇るラジオ型のストリーミングサービス「Pandora」は、音楽解析を手がけるNext Big Soundを買収することを発表した。同社は2010年より音楽業界誌ビルボードにソーシャルデータの提供を開始。「Social 50」チャートや、「Artist 100」チャートの基盤となるデータを提供している。SNSやストリーミングにおけるアーティストや楽曲データを解析するサービスの草分けだ。

Spotifyも昨年5月、音楽ビッグデータ大手のEcho Nestを買収している。

iTunes Matchによって、iCloud上に置いた自分のローカルファイルとiTunesでストリーミングされる音楽がプレイリスト上でシームレスに融合する機能を持てば、iTunesは無敵のストリーミング・サービスになるかもしれない。こうした処理の要となるのがビッグデータの解析だ。ビックデータの処理で先行しているGoogleもあなどれない。どのようにしてリスナーを獲得するか、どうのように音楽を届けるか。ベストなタイミングで音楽ファンの行動を予測するテクノロジーはストリーミング・サービスに欠かせないものになっている。

■オーディオクオリティを持つストリーミングサービス

5月14日から17日までミュンヘンで開催された欧州最大のオーディオイベント「HIGH END」では、TIDALやQobuzといったロスレスストリーミングサービスが大きく取り上げられた。CDと同様の1411kbpsでストリーミングされるので、原理的にはCDリッピングと同等の音質で再生できる(もちろん回線速度などの条件はあるのだが)。その点に注目して、これらサービスへの対応を謳ったオーディオブランドも多かった。

独「HIGH END」にて大々的にブースを展開したTIDAL

例えばTIDALについては、メーカーによって対応規模は異なるが、LINN、OPPO、MERIDIAN、Aurender、AURALiC、Mcintosh、WADIA、ELECTROCOMPANIETなどが対応を表明している。特にLINNやAurenderなどは、ローカルサーバーにユーザー自身が保存したCDリッピング音源やハイレゾ音源と、ストリーミングでTIDALが提供する音源を同一プレイリスト上で再生できる機能を提供。あたかも自宅のNASに2,600万曲が保存されているかのような使い勝手を実現している。

さらにQobuzは、今回のHIGH ENDにおいて近日中にハイレゾ・ストリーミングのサービスを提供することも明言した(関連ニュース)。同社はロスレスストリーミングサービスを契約すると、同社が配信するハイレゾ音源を割り引きでダウンロード購入できるセットプランの提供も開始している。一方でTIDALは、MERIDIANのロスレスフォーマット技術「MQA」を用いたハイレゾ・ストリーミングを視野に入れていることを公言している(関連ニュース)。

Qobuzはハイレゾ・ストリーミングサービスの開始を明言した

TIDALにしてもQobuzにしても、日本はいまだサービス未提供で、サービス導入を検討しているという声さえ聞こえてこないという現実はあるのだが、ストリーミングが着々と高音質化を実現し、ピュアオーディオのソースのひとつになりつつある点には注目すべきだ。

■国内のストリーミング・サービスの状況

最後に、日本国内のストリーミングサービスの現状について触れておこう。スマートフォンの普及が始まった2009年(前年にiPhone 3Gが日本初発売される)。この年、我が国で音楽配信の主力だった「着うた」の総崩れがはじまった。以来、日本ではCDと音楽配信、両方がマイナス成長を続けた。有料音楽配信売上は2009年から2013年でマイナス54%、それは世界でも希有な事態であった。

しかし昨年2014年、日本のデジタル売上は4年ぶりの上昇した。その推進力となったのは定額制配信、サブスクリプション型サービスの売上の急成長だ。前年同期比205%(1月〜9月期)の増収となり、マイナス3.3%だったダウンロード販売の減収を消し込んだ。この急成長はレコチョク Best(同系サービス含む)の健闘が大きいと見られる。ダウンロード販売と定額制配信の合計額は、前年同期比12.5%のアップにもなった(着メロ等を除く)。

5月よりサービスが開始された「AWA」。日本も本格的なストリーミング時代に突入するのだろうか

同時期のCD売上はマイナス7%。CDの減少、ダウンロード販売の微減、ストリーミング配信の急成長。さらに5月末からはavexとCyber Agentによる定額制音楽ストリーミング「AWA」がサービス開始され(関連ニュース)、LINE MUSICの近日中のサービス開始もアナウンスされた。ここへ来て、日本はようやく世界の潮流と同じ流れに乗り始めた。


本間孝男
Takao Homma
【Profile】1971年、日本コロムビアに入社。40年以上にわたり音楽業界に関わる。76年から洋楽ディレクターとしてのキャリアをスタート。翌年の77年にはセックス・ピストルズを担当し、歴史的名盤『勝手にしやがれ!』の邦題を名づける。また、80年代はコロムビアの洋楽ポピュラーの部門をひとりで担い、ニュー・オーダーやPiL、ピクシーズなど数々の伝説的アーティストを担当した。定年退職を迎えて以降は、ライターとして活動している。

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