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アーティストへの利益還元問題も

Apple参入で競争激化? 元洋楽ディレクターが世界のストリーミング音楽配信を総まとめ

公開日 2015/06/04 11:52 本間孝男
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■メジャーレーベルが「転換点を迎えた」ことを自ら認めた

5月11日、米ワーナー・ミュージックのステファン・クーパーCEOは、デジタル販売において、ワーナーがメジャーとして初めてダウンロードからストリーミングへの転換点を迎えたことを明らかにした。2015年4月ー6月の第二四半期でストリーミングの売上は33%アップ。これに対してiTunesなどのダウンロード収入は前年同期を下回った。ステファンCEOは「今回の成長で、今後数年間において大多数の人が音楽を聴く方法はストリーミングになることが明らかになった」と語った。

ワーナーグループには、前述のエド・シーランが在籍している。彼はSpotifyの2014年ベストアーティストおよび最多ストリーム・アルバムを獲得した。また、人気映画シリーズ『ワイルド・スピード SKY MISSION』の主題歌「See You Again」(故ポール・ウォーカーに捧げられた曲)が爆発的なヒットとなったウィズ・カリファの活躍も大きい。両アーティスト共に数十億回を超すストリーミング再生を記録している。

エド・シーラン『X』は2014年においてSpotifyで最も再生されたアルバムだ

ウィズ・カリファ「See You Again」もSpotify上で爆発的ヒットとなった

■ストリーミングもアップルが優位?

それでもアップルが優位と言われるのは、その膨大なインストールベースだ。Spotifyは最近、ユーザー数6000万人、有料メンバー1500万人を突破したが、アップルは自社の新しい音楽サービスを、億単位のiPhone、iPad、Macユーザーに広めることが可能なのである。iTunesとApple Storeのおかげで、8億枚のクレジットカードがすでに登録済み。ユーザーにアップルの有料ストリーミングサービスを開始させるためには、ほんの数クリックさせるだけでよい(iOSにはさらにApple Payもある)。

さらにアップルは、業界の「スーパーコネクター」と呼ばれるジミー・アイオヴァイン(元UMG傘下のインタースコープ会長)が指揮を執り、エクスクルーシブ・アーティスト(自社が排他的に独占配信できるアーティスト)の確保に動いている。Spotifyから撤退したテイラー・スウィフトもその候補だ。新サービスでファンの好きなアーティストたちを囲い込むために必要な現金を、あり余るほど持っている。ビートルズのような正真正銘のビッグアーティストをストリーミングにおいても独占契約すれば、アップルの一人勝ちが確定してしまう可能性だってある。

ダウンロードで楽曲を販売するiTunes Music。音楽プレーヤー/転送ソフト「iTunes」と共に世界中で億単位のユーザーを抱えている。この莫大なインストールベースでストリーミングサービスを展開すれば・・・

■テイラー・スウィフトの作品引き上げの余波

テイラー・スウィフトが「音楽は無料であるべきだという考え方を助長するようなことにどうしても同意できない」としてSpotifyから全てのカタログを引き上げたことは、ここにきて再び論議を呼んでいる。論議のポイントは

<1>フリーミアム(Freemium。無料+有料モデル)の是非
<2>アーティストや作詞作曲者及び制作者への適正な支払

の2点である。<1>のフリーミアムについては後で詳細を紹介する。テイラー・スウィフトは、最新作を発売(2014年10月)から間もなくSpotifyから引き上げ、結果として2014年最大の売上を上げた。この事例から、多くのトップアーティストが、CDやダウンロードの売上が一段落するまで、作品をストリーミングに出さないようにする可能性がある。多くのストリーミングサービス(Spotifyを始めとするフリーミアムを取り入れているサービスは特に)は、この動きが広まることに危機を感じている。

<2>のアーティストや製作サイドへの支払いについての論議は、「どのくらいの稼ぎがあれば、ミュージシャンはストリーミングだけでで生き残れるのか」にまで及んでいる。ちなみに米国の最低賃金は月額1,260ドル。これをクリアするには・・・。

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