独ゼンハイザー本社訪問記(3)
ゼンハイザー開発主任が語る、初の密閉型ハイエンド「HD 630VB」が登場した理由
ゼンハイザーは今年のIFAでも数多くの新製品を発表した。中でも「次世代のオーディオファイル」を意識して開発されたという、同社初の密閉型ハイエンドヘッドホン「HD 630VB」には大きな注目が集まった。今年5月のヘッドホン祭で、ゼンハイザーのブースに試作機が展示された本機が、いよいよ完成版として今秋にも日本市場に投入されることになりそうだ。本機の開発を担当した、ゼンハイザーのHigh End Product ManagerであるAxel Grell氏に新製品の開発背景をうかがった。
■初の密閉型ハイエンドヘッドホン「HD 630VB」開発意図とは
まずはじめに「HD 630VB」という製品の特徴を簡単におさらいしておこう。ゼンハイザーのハイエンドヘッドホンといえば、2009年に発売され、今も色あせないリファレンスとして君臨する「HD 800」があまりにも有名だが、本機に続く弟分の「HD 700」「HD 650」はいずれも開放型のヘッドホンだ。意外にも密閉型のハイエンドヘッドホンはゼンハイザーのラインナップにおいて空席のままだったのだ。
「ゼンハイザーはこれまで、オーディオファイル向けのヘッドホンは開放型にこだわってきた」という点についてはGrell氏も認めるところ。ではなぜ、いまになって密閉型のモデルを出す必要があるのだろうか。その背景にはラインナップの中で欠けているワンピースを補いたいという短絡的な思惑にとどまらない、新しいヘッドホンファンを開拓しようとするゼンハイザーの強い意気込みがあった。
「スマートフォンやポータブルオーディオ機器を中心に音楽を聴くユーザーが増え、カルチャーが一般に広がるとともに、密閉型ヘッドホンのニーズが高まっています。喧噪の中でも周りの騒音に悩まされることがなく、また自分が聴いている音楽が音漏れする心配もないところが、密閉型がポータブルリスニング向きとして注目されている大きな理由です。アウトドアを中心に音楽を楽しむ『Next Generation of Audio-phile(次世代のオーディオファイル)』に最高の音質を届けることが最新モデルのミッションです」
■様々な環境で快適な音楽再生を実現する低音調整機能
最も気になる本機の「音づくり」についてGrell氏にコンセプトを訊ねた。
ゼンハイザーの開発チームは、密閉型のセオリーをベースに、より開放型に近いパフォーマンスを実現することを目標に置いた。ゼンハイザーにとってメインの開発拠点の一つであるアイルランドで、本機のためにチューニングされた38mm口径のドライバーを搭載。ローインピーダンスのボイスコイルを用いて能率も高めた。
開発の途中段階では、Grell氏をはじめスタッフが何度もフィールドテストを重ねてきた。例えば地下鉄の車内のようにノイズが多い場所でも快適に音楽を聴くためには、特に低域のノイズが音楽情報をマスキングしてしまう課題を解決しながら、最適なバランスで音楽を再生できなければならない。そこで考案された機能が低域の調整機能だった。
「HD 630VB」の本体右側のイヤーカップにはダイヤルが搭載されており、これを回転させることにより、音楽を再生しながら低域のバランスがチューニングできる。
「最初はアクティブ・ノイズキャンセリング機能を搭載した方がより効果的ではないかという意見もありましたが、ハイエンドクラスのヘッドホンとしてノイズキャンセリング機能がリスニング感に与える影響も考慮して、本機では低域のバランス調整を搭載することにしました」というGrell氏。さらに説明は続く。
「本機の低域調整機能は単なるベースブーストを目的にしたものではないということを強調しておきたいと思います。もちろんその用途に使うこともできますが、反対に例えば低域がブーミーに聴こえる録音であれば、低域の出方を弱くすることでフラットなバランスに整えることもできます」
ヘッドホンを装着した時にイヤーパッドと頭との間にわずかな隙間ができてしまうことが、音楽の低域をマスキングしてしまうノイズの混入につながる。このことに着目したゼンハイザーの開発陣は、イヤーパッドやヘッドバンドの形状がリスニング中ユーザーの頭部にぴたりとフィットするよう最適化を図ったという。
本機のサウンドは音の抜けがよく中高域がとてもクリアだ。大編成のオーケストラなどの音源を聴いても明瞭なセパレーションを確保した点が特に印象に残る。確かに密閉型なのに、開放型のヘッドホンに近い音のイメージを感じる。でも密閉型ヘッドホンならでは、外部ノイズからの高いアイソレーション効果も兼ね備えている。チューニングを追い込む段階では、ドイツ、アイルランド、シンガポールの各拠点に散るゼンハイザーの開発スタッフの意見を集約した。「世界各国のアクティブなマーケットニーズを把握しながら、ファンの期待に応えることができるのもゼンハイザーの強み」とGrell氏は語る。
低域調整用のダイアルのほか、本体右側のハウジングには、音楽再生やハンズフリー通話のコントロールパネルを搭載。ケーブルにつないだiOS/Android機器の音楽再生やスマートフォンの場合は通話操作がヘッドホンを身に着けたまま行えるようになっているところも「次世代のオーディオファイル」のニーズを強く意識した仕様だ。さらに本体は折り畳み構造とし、アウトドアリスニング時のポータビリティも高めている。
正円形のハウジングを採用する特徴的なデザインは、かつて1976年にゼンハイザーが発売した「HDI434」というヘッドホンからインスパイアされたものであるという。本機もハウジングの外側にボリュームコントローラーを設けていた。新しい「HD 630V」はハウジングにアルミニウム、ヘッドバンドにはステンレススチールを採用し、本体の剛性も高めた。明るいシルバーに、ヘッドバンドやイヤーパッドのダークグレーによる落ち着いたコンビ。イヤーカップ内側に配色されたレッドがワンポイントとして映える。
「HD 630VB」は今秋に日本でも発売される予定だ。本機を開発した時に、ぜひ東京の地下鉄に乗って試してみたいと思ったというGrell氏。日本のゼンハイザー・ファンにも、初の密閉型ハイエンドヘッドホンの実力をぜひ様々な場所で体験して欲しいと呼びかけた。
■初の密閉型ハイエンドヘッドホン「HD 630VB」開発意図とは
まずはじめに「HD 630VB」という製品の特徴を簡単におさらいしておこう。ゼンハイザーのハイエンドヘッドホンといえば、2009年に発売され、今も色あせないリファレンスとして君臨する「HD 800」があまりにも有名だが、本機に続く弟分の「HD 700」「HD 650」はいずれも開放型のヘッドホンだ。意外にも密閉型のハイエンドヘッドホンはゼンハイザーのラインナップにおいて空席のままだったのだ。
「ゼンハイザーはこれまで、オーディオファイル向けのヘッドホンは開放型にこだわってきた」という点についてはGrell氏も認めるところ。ではなぜ、いまになって密閉型のモデルを出す必要があるのだろうか。その背景にはラインナップの中で欠けているワンピースを補いたいという短絡的な思惑にとどまらない、新しいヘッドホンファンを開拓しようとするゼンハイザーの強い意気込みがあった。
「スマートフォンやポータブルオーディオ機器を中心に音楽を聴くユーザーが増え、カルチャーが一般に広がるとともに、密閉型ヘッドホンのニーズが高まっています。喧噪の中でも周りの騒音に悩まされることがなく、また自分が聴いている音楽が音漏れする心配もないところが、密閉型がポータブルリスニング向きとして注目されている大きな理由です。アウトドアを中心に音楽を楽しむ『Next Generation of Audio-phile(次世代のオーディオファイル)』に最高の音質を届けることが最新モデルのミッションです」
■様々な環境で快適な音楽再生を実現する低音調整機能
最も気になる本機の「音づくり」についてGrell氏にコンセプトを訊ねた。
ゼンハイザーの開発チームは、密閉型のセオリーをベースに、より開放型に近いパフォーマンスを実現することを目標に置いた。ゼンハイザーにとってメインの開発拠点の一つであるアイルランドで、本機のためにチューニングされた38mm口径のドライバーを搭載。ローインピーダンスのボイスコイルを用いて能率も高めた。
開発の途中段階では、Grell氏をはじめスタッフが何度もフィールドテストを重ねてきた。例えば地下鉄の車内のようにノイズが多い場所でも快適に音楽を聴くためには、特に低域のノイズが音楽情報をマスキングしてしまう課題を解決しながら、最適なバランスで音楽を再生できなければならない。そこで考案された機能が低域の調整機能だった。
「HD 630VB」の本体右側のイヤーカップにはダイヤルが搭載されており、これを回転させることにより、音楽を再生しながら低域のバランスがチューニングできる。
「最初はアクティブ・ノイズキャンセリング機能を搭載した方がより効果的ではないかという意見もありましたが、ハイエンドクラスのヘッドホンとしてノイズキャンセリング機能がリスニング感に与える影響も考慮して、本機では低域のバランス調整を搭載することにしました」というGrell氏。さらに説明は続く。
「本機の低域調整機能は単なるベースブーストを目的にしたものではないということを強調しておきたいと思います。もちろんその用途に使うこともできますが、反対に例えば低域がブーミーに聴こえる録音であれば、低域の出方を弱くすることでフラットなバランスに整えることもできます」
ヘッドホンを装着した時にイヤーパッドと頭との間にわずかな隙間ができてしまうことが、音楽の低域をマスキングしてしまうノイズの混入につながる。このことに着目したゼンハイザーの開発陣は、イヤーパッドやヘッドバンドの形状がリスニング中ユーザーの頭部にぴたりとフィットするよう最適化を図ったという。
本機のサウンドは音の抜けがよく中高域がとてもクリアだ。大編成のオーケストラなどの音源を聴いても明瞭なセパレーションを確保した点が特に印象に残る。確かに密閉型なのに、開放型のヘッドホンに近い音のイメージを感じる。でも密閉型ヘッドホンならでは、外部ノイズからの高いアイソレーション効果も兼ね備えている。チューニングを追い込む段階では、ドイツ、アイルランド、シンガポールの各拠点に散るゼンハイザーの開発スタッフの意見を集約した。「世界各国のアクティブなマーケットニーズを把握しながら、ファンの期待に応えることができるのもゼンハイザーの強み」とGrell氏は語る。
低域調整用のダイアルのほか、本体右側のハウジングには、音楽再生やハンズフリー通話のコントロールパネルを搭載。ケーブルにつないだiOS/Android機器の音楽再生やスマートフォンの場合は通話操作がヘッドホンを身に着けたまま行えるようになっているところも「次世代のオーディオファイル」のニーズを強く意識した仕様だ。さらに本体は折り畳み構造とし、アウトドアリスニング時のポータビリティも高めている。
正円形のハウジングを採用する特徴的なデザインは、かつて1976年にゼンハイザーが発売した「HDI434」というヘッドホンからインスパイアされたものであるという。本機もハウジングの外側にボリュームコントローラーを設けていた。新しい「HD 630V」はハウジングにアルミニウム、ヘッドバンドにはステンレススチールを採用し、本体の剛性も高めた。明るいシルバーに、ヘッドバンドやイヤーパッドのダークグレーによる落ち着いたコンビ。イヤーカップ内側に配色されたレッドがワンポイントとして映える。
「HD 630VB」は今秋に日本でも発売される予定だ。本機を開発した時に、ぜひ東京の地下鉄に乗って試してみたいと思ったというGrell氏。日本のゼンハイザー・ファンにも、初の密閉型ハイエンドヘッドホンの実力をぜひ様々な場所で体験して欲しいと呼びかけた。