新フラグシップの実力徹底検証!
オプトマ「HD92」レビュー<前編>貝山知弘が“OS推奨値”で『アラビアのロレンス』を観る
■HD92の画質チェック!“OS推奨の画質設定値”で『アラビアのロレンス』を観る
HD92の画質チェックは音元出版の視聴室で行なった。使用したスクリーンは100インチのOS「STP-100HM-MRK2-WF302」。BDレコーダーはパナソニック「DMR-BZT9600」である。私が視聴時のリファレンスとして使っているBDの中から選んだ映画は『アラビアのロレンス』(Mastered in 4K版2枚組)。これは半世紀前(1962年)に公開された作品だが、65mmフィルムで撮影され、70mmフィルムで上映された鮮明な映像が堪能できる。特にこのMastered in 4K版は緻密に修復された高解像度の映像なので、ビデオ機器の画質チェックには欠かすことのできぬソースだ。
私事だが、この映画は封切り時に30回以上、2回にわたる修復版も全て見ているので、どんな映像の細部までも記憶しており、原型と異なった映像があればたちまち違和感が生じてしまう。
プロジェクターでは、映像表現の多様性が増すに従って多彩な画質調整機能が必要となる。一般的に使用されるのは、輝度(画面の明るさ)、シャープネス、コントラスト、色の濃さ、色の傾向などだが、さらに細かい調整を行なうにはガンマのカーブタイプ、色温度、色域の選択、赤、緑、青、シアン、マゼンタ、黄、白の調整値が必要となる。HD92ではこれら投写映像のOSによる推奨値を公開している。この推奨値は、BD/DVDで映画を見る時を想定したものと思っていいだろう。
<HD92:OS推奨の画質設定値>
OSDメニュー | |||
ディスプレイモード | USER | ||
コントラスト(白レベル) | -26 | ||
輝度(明るさ 黒レベル) | 4 | ||
色の濃さ | -6 | ||
色あい | 0 | ||
シャープネス | 10 | ||
ガンマ | Film | ||
Pure Engine 「Ultra datail」 | 30% | ||
Pure Engine 「Pure Color」 | 1 | ||
Pure Engine 「Pure Motion」 | オフ | ||
LED動作輝度 | DinamicBlack 1 | ||
ガンマ → フィルム | カーブタイプ | 2.4 | オフセット+2 |
色温度 | D-65 | ||
色域 | DLP-C | ||
CMS 赤 | X0 | Y0 | 輝度 0 |
CMS 緑 | X14 | Y19 | 輝度 0 |
CMS 青 | X-3 | Y-11 | 輝度 0 |
CMS 青緑(シアン) | X-32 | Y4 | 輝度 0 |
CMS マゼンタ | X-8 | Y-17 | 輝度 0 |
CMS 黄 | X23 | Y22 | 輝度 0 |
CMS 白 | X-3 | Y-3 | 輝度 0 |
今回はまずこの推奨値に合わせた調整を行い、『アラビアのロレンス』を観たが、その結果に驚いた。全体的に階調(コントラスト)と色調のバランスが取れた自然な映像で、違和感を感じた部分が全くなかったのだ。もし私が推奨値なしの状態からスタートしてここまでの調整を行ったとしたら、少なくとも数時間はかかったと思う。アラビアの砂漠が主な舞台となっているこの作品は、全て実在の砂漠で撮影されており、その情景からは砂漠の美しさと恐ろしさが如実に伝わってくる。もし映像に違和感があると、その美しさも恐ろしさも消えてしまうが、そんな映像は一つとしてなかった。私は心の中で「パーフェクト」と叫んだ。
どのように好ましかったのか詳細を書いておこう。この映画の主人公であるイギリス軍将校ロレンスがアラブの長ファイサル王子に合うため、アラブ人の案内人とともに、ラクダに乗って砂漠を横断していく最初のロングショットでは、カメラが引ききった視点で捉えた映像の中で、ラクダに乗る2人の姿が遠くにあり、さらに遠方に連なる岩山までの距離が見事に描きだされている。このリアルな距離感はBGの映像では絶対に得られぬものだ。これはフルハイビジョンの映像として、最も高解像度の映像といっていい。
こうしたパースペクティブな映像を表出するためのポイントは、〈シャープネス〉とエッジを強調する〈ウルトラディティール〉の調整値を適度に止めることである。強調しすぎると、鮮明度は増しても距離感が出なくなるからだ。表に示された推奨値はシャープネスが10、ウルトラディティールが30だが、これは標準値(40)より少ない値となっている。
色調が整っていることにも感心した。白人であるロレンスの肌色、アラブ人の案内役の陽に焼けた顔色の対比も非常にリアルだ。映画の進行と共にロレンスの肌もだんだんと陽に焼けていくが、その肌色の推移も非常に自然だ。このために必要なのは〈色の濃さ〉を適度に抑えることだ。推奨値は-6と適度な濃さに止めている。色域の選択はDLP-C、色温度の数値はD-65という設定だ。
コントラストと明るさの調整で最も難しいシーンは、ロレンスと案内人が夜の砂漠で語り合うシーンだ。満天の星の光とたき火の光しかない暗い状況での会話だけに、2人の顔の表情はうっすらとしか見えない。推奨値の調整ではこのぎりぎりの状況を不自然さを感じさせずに表出している。反対に最も明るい画面は砂漠に照りつける太陽光。アラブ軍兵士の一人ガシムがラクダから落ち、一人砂漠に取り残された時に照りつける太陽光の映像。ガシムはその光を受けて倒れるが、白く輝く太陽の映像はこの映画で最も明るい1ショットだ。推奨値はコントラスト(白レベル)-26、明るさ(黒レベル)4である。
主人公のロレンスは周囲の者から「砂漠が好きな変わり者のイギリス人」と思われている。しかし、若い時から砂漠に憧れ、大学時代にアラブ諸国を歴訪していた彼にとって、砂漠は心休まるハイダウエイ(隠れ家)だった。彼は記者からなぜ砂漠が好きなのかという問いに「クリーンだから」と答える。この映画で観られる砂漠の情景からは、その感触が伝わってくるが、これも表記されたすべての調整値が適切であったからだ。
■OS推奨値を基準にして、個々の映画に合わせた画質調整をしよう
しかし、この推奨値がすべての映画に通用するわけではない。人間と同じに、個々の作品にはそれぞれの顔とルックがあるからだ。私が薦めるのは、この推奨値を基準に個々の映画に合わせた調整を行なうことである。それぞれの作品のエッセンスを満喫するにはそうした細かい作業が必要なのだ。
HD92の実力を知った私は、その後、数本の作品の調整を行なってみた。すべての映画の感触が調整一つでころころ変わる現実を体験し、改めて画質調整の必要と楽しさを知った。拙文を読まれた諸氏も面倒とは思わず挑戦してみてほしい。作品ごとの画質調整は実に楽しい作業となるはずだ。映画作品ごとによる私の調整結果は、改めて近々発表するつもりだ。
(貝山知弘)