Qualcommの新技術
Bluetoothで24bit伝送!話題の新コーデック「aptX HD」を聴いた
米クアルコムは、Bluetoothで24bitソースを伝送できる新コーデック「aptX HD」を、2016 International CESの開催に合わせて発表した(関連ニュース)。今回、クアルコムジャパンのオフィスで「aptX HD」の実力を体験する機会を得た。従来の「aptX」と聴き比べたインプレッションと共に、現時点で明らかにされているaptX HDに関する詳細をお伝えしていきたい。
■aptXの技術をベースに最大48kHz/24bitをBluetoothで伝送
aptX HDは、BluetoothのA2DPプロファイルをベースに、24bitのハイレゾリューションオーディオ信号を伝送できる新しいコーデックだ。従来のaptXでは最大16bitの対応だったので、aptX HDによってBluetoothのワイヤレス音楽再生クオリティは大きく向上する。今回はクアルコムジャパンの大島勉氏にその概要を伺い、現時点で公開可能な技術の要点についても説明いただいた。
aptX HDは、その名の通り従来のaptXをアップグレードした高音質コーデックだ。aptXは48kHz/16bitのBluetooth伝送が可能だったが、aptX HDでは現時点で最大48kHz/24bitまでに対応する。
「aptX HD」が誕生した経緯については、大島氏は次のように語っている。「国内では音楽コンテンツがパッケージやインターネットでのダウンロード配信を中心に提供されていますが、欧州や北米ではストリーミング配信が一般化しています。こうした中でワイヤレスオーディオも急速に普及しており、ハイレゾ品位の音楽をワイヤレスで楽しみたいという要望も高まってきました。Bluetoothの技術をベースにしたワイヤレス再生環境の下地も整いつつあるという手応えを得たことから、当社もaptX HDの開発を加速させてきました」(大島氏)。
aptX HDのエンコード/デコード処理とワイヤレス伝送の仕組みは、基本的にaptXの原理がそのまま継承されている。つまり、放送局などの業務用途で実績を重ねてきたADPCM系のコーデックが下地となっている。マスキング効果など心理聴覚的な手法を使わず、オーディオの全周波数を原音に対して1/4サイズに圧縮した信号をBluetoothで伝送し、レシーバー側でデコード(復元)する。aptXは、SBCやAACなどのコーデックより原音の再現性が高いことを特長として謳っており、同様の特徴がaptX HDにも継承されている。
■ハイレゾ相当の音楽信号を安定伝送。音質切り替えはあえて設けず
aptXは非常に処理の負荷が軽く、レイテンシー(遅延)も小さいコーデックである。一般的なオーディオコーデックであるSBCの場合、エンコードしたフレームデータを複数のブロック単位でまとめたパケットとして送信するので、そのパケットが満たされるまでレシーバー側でデコードが行われず、遅延の発生につながりがちだ。一方でaptXは、より小さなデータの集まりである「aptX Word」という単位でBluetoothを経由してデータを送り、パケットが満たされる前に順次デコードを始めることで遅延を少なくする独自の仕組みを採用する。これにより低遅延で安定した伝送性能が実現できる。
aptX HDの転送ビットレートは、現時点では明らかな数値が示されていないが、大島氏は「音楽を十分に“いい音”で聴くことができ、途切れも発生しないよう最適な値に調整している」と自信を見せる。24bit対応になっても、基本的には従来のaptXと変わらない安定度の高い伝送性能が確保されているということだ。
また、なるべくシンプルに高品位なワイヤレス音声を提供するため、aptX HDは伝送レートの変更で音質を切り替える仕様は設けていない。こうした点については、ソニーによるA2DPプロファイルベースの高音質Bluetoothコーデック「LDAC」が「音質優先/標準/接続優先」の3段階のメニューを設けているのとは考え方が異なっている。
オーディオ機器などのハードウェアがaptX HDに対応するためには、クアルコムから出荷が始まっているSoCプラットフォーム「CSR8675」の搭載が必要となる。このSoCは、DSPや24bit相当のDAC、Bluetooth 4.1対応のオーディオソリューションなどを統合している。クアルコムはすでに、本チップを乗せた評価ボードや、Android MarshmallowベースのaptX HD対応エンコーダーライブラリーについても、各ハードウェアベンダーに提供をスタートしているという。CESでの報道発表の反響も大きく、多くの問い合わせが寄せられているようだ。
aptXに対応する機器は、出荷の前段階で、クアルコムが台湾などに構えるテストセンターでの認証試験を通過することが義務付けられている。おそらくaptX HDについても同じルールが適用されることになり、従来のaptX対応機器がファームウェア更新などでaptX HD対応にアップデートされる見込みは低いと考えられる。ただしaptX HDは下位互換性を持つコーデックなので、今後発売されるaptX HD対応機器は、従来のaptX対応機器とも組み合わせて楽しめるという。
■aptX HDでは情報量が飛躍的に高まる。豊かな余韻も聴かせてくれる
aptX HDの試聴は、「CSR8675」チップを搭載する評価ボードを、S/PDIF経由でデノンのプリメインアンプ「PMA-50」にデジタル接続。そのヘッドホン出力を用いて行った。オーディオテクニカのヘッドホン「ATH-MSR7」をリファレンスに、同一ソースをaptX HDとaptXで切り替えながら比較試聴。ソースはデモ専用のタブレットに保存された48kHz/24bitのハイレゾ音源を用いた。
aptX HDによる再生では、原音に忠実なaptXの素性をそのまま残しながら、情報量の緻密さと正確さが飛躍的に高まっていることがわかる。クラシックの弦楽器は音の解れ感が良くなり、輪郭に滑らかさと豊かな艶が乗ってくる。高域は音の粒立ち感が向上し、各楽器のセパレーションも格段に良い。音の立ち上がりや立ち下がりの俊敏さ、音像の彫りの深さにも明確な差が感じられた。
アコースティックギターの演奏では、余韻がリッチになり、カッティングのリズムも小気味良い。伝送可能な量子化ビット数が16bitから24bitに拡大したことで、ダイナミックレンジの再現幅が従来のaptXよりも広がり、S/N向上のメリットも活きてくる。その違いはヘッドホンでも十分に分かるので、おそらくスピーカーシステムで聴き比べれば、さらに細やかな音楽の表情の違いなどが浮き彫りになるだろう。
ソニーが提案するLDACは、今のところソニーの製品にしか採用されていない。aptX HDについてはよりオープンに、現在aptXを採用するメーカーを中心に広がる可能性が高い。今回の取材では、現時点で得られた範囲で「aptX HD」の情報をお伝えしたが、さらなる詳細についても引き続き追いかけてご報告したいと思う。
(山本 敦)
■aptXの技術をベースに最大48kHz/24bitをBluetoothで伝送
aptX HDは、BluetoothのA2DPプロファイルをベースに、24bitのハイレゾリューションオーディオ信号を伝送できる新しいコーデックだ。従来のaptXでは最大16bitの対応だったので、aptX HDによってBluetoothのワイヤレス音楽再生クオリティは大きく向上する。今回はクアルコムジャパンの大島勉氏にその概要を伺い、現時点で公開可能な技術の要点についても説明いただいた。
aptX HDは、その名の通り従来のaptXをアップグレードした高音質コーデックだ。aptXは48kHz/16bitのBluetooth伝送が可能だったが、aptX HDでは現時点で最大48kHz/24bitまでに対応する。
「aptX HD」が誕生した経緯については、大島氏は次のように語っている。「国内では音楽コンテンツがパッケージやインターネットでのダウンロード配信を中心に提供されていますが、欧州や北米ではストリーミング配信が一般化しています。こうした中でワイヤレスオーディオも急速に普及しており、ハイレゾ品位の音楽をワイヤレスで楽しみたいという要望も高まってきました。Bluetoothの技術をベースにしたワイヤレス再生環境の下地も整いつつあるという手応えを得たことから、当社もaptX HDの開発を加速させてきました」(大島氏)。
aptX HDのエンコード/デコード処理とワイヤレス伝送の仕組みは、基本的にaptXの原理がそのまま継承されている。つまり、放送局などの業務用途で実績を重ねてきたADPCM系のコーデックが下地となっている。マスキング効果など心理聴覚的な手法を使わず、オーディオの全周波数を原音に対して1/4サイズに圧縮した信号をBluetoothで伝送し、レシーバー側でデコード(復元)する。aptXは、SBCやAACなどのコーデックより原音の再現性が高いことを特長として謳っており、同様の特徴がaptX HDにも継承されている。
■ハイレゾ相当の音楽信号を安定伝送。音質切り替えはあえて設けず
aptXは非常に処理の負荷が軽く、レイテンシー(遅延)も小さいコーデックである。一般的なオーディオコーデックであるSBCの場合、エンコードしたフレームデータを複数のブロック単位でまとめたパケットとして送信するので、そのパケットが満たされるまでレシーバー側でデコードが行われず、遅延の発生につながりがちだ。一方でaptXは、より小さなデータの集まりである「aptX Word」という単位でBluetoothを経由してデータを送り、パケットが満たされる前に順次デコードを始めることで遅延を少なくする独自の仕組みを採用する。これにより低遅延で安定した伝送性能が実現できる。
aptX HDの転送ビットレートは、現時点では明らかな数値が示されていないが、大島氏は「音楽を十分に“いい音”で聴くことができ、途切れも発生しないよう最適な値に調整している」と自信を見せる。24bit対応になっても、基本的には従来のaptXと変わらない安定度の高い伝送性能が確保されているということだ。
また、なるべくシンプルに高品位なワイヤレス音声を提供するため、aptX HDは伝送レートの変更で音質を切り替える仕様は設けていない。こうした点については、ソニーによるA2DPプロファイルベースの高音質Bluetoothコーデック「LDAC」が「音質優先/標準/接続優先」の3段階のメニューを設けているのとは考え方が異なっている。
オーディオ機器などのハードウェアがaptX HDに対応するためには、クアルコムから出荷が始まっているSoCプラットフォーム「CSR8675」の搭載が必要となる。このSoCは、DSPや24bit相当のDAC、Bluetooth 4.1対応のオーディオソリューションなどを統合している。クアルコムはすでに、本チップを乗せた評価ボードや、Android MarshmallowベースのaptX HD対応エンコーダーライブラリーについても、各ハードウェアベンダーに提供をスタートしているという。CESでの報道発表の反響も大きく、多くの問い合わせが寄せられているようだ。
aptXに対応する機器は、出荷の前段階で、クアルコムが台湾などに構えるテストセンターでの認証試験を通過することが義務付けられている。おそらくaptX HDについても同じルールが適用されることになり、従来のaptX対応機器がファームウェア更新などでaptX HD対応にアップデートされる見込みは低いと考えられる。ただしaptX HDは下位互換性を持つコーデックなので、今後発売されるaptX HD対応機器は、従来のaptX対応機器とも組み合わせて楽しめるという。
■aptX HDでは情報量が飛躍的に高まる。豊かな余韻も聴かせてくれる
aptX HDの試聴は、「CSR8675」チップを搭載する評価ボードを、S/PDIF経由でデノンのプリメインアンプ「PMA-50」にデジタル接続。そのヘッドホン出力を用いて行った。オーディオテクニカのヘッドホン「ATH-MSR7」をリファレンスに、同一ソースをaptX HDとaptXで切り替えながら比較試聴。ソースはデモ専用のタブレットに保存された48kHz/24bitのハイレゾ音源を用いた。
aptX HDによる再生では、原音に忠実なaptXの素性をそのまま残しながら、情報量の緻密さと正確さが飛躍的に高まっていることがわかる。クラシックの弦楽器は音の解れ感が良くなり、輪郭に滑らかさと豊かな艶が乗ってくる。高域は音の粒立ち感が向上し、各楽器のセパレーションも格段に良い。音の立ち上がりや立ち下がりの俊敏さ、音像の彫りの深さにも明確な差が感じられた。
アコースティックギターの演奏では、余韻がリッチになり、カッティングのリズムも小気味良い。伝送可能な量子化ビット数が16bitから24bitに拡大したことで、ダイナミックレンジの再現幅が従来のaptXよりも広がり、S/N向上のメリットも活きてくる。その違いはヘッドホンでも十分に分かるので、おそらくスピーカーシステムで聴き比べれば、さらに細やかな音楽の表情の違いなどが浮き彫りになるだろう。
ソニーが提案するLDACは、今のところソニーの製品にしか採用されていない。aptX HDについてはよりオープンに、現在aptXを採用するメーカーを中心に広がる可能性が高い。今回の取材では、現時点で得られた範囲で「aptX HD」の情報をお伝えしたが、さらなる詳細についても引き続き追いかけてご報告したいと思う。
(山本 敦)