[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第154回】iPhoneのイヤホン端子がなくなったらどうなる? エレコムの中の人と語ってきた
■Appleの「高音質」戦略はどうなる?
さて、aptX HDの「48kHz/24bit」までの対応というところから話を転がしてみよう。前述のように、RIAA(アメリカレコード協会)等がハイレゾロゴの要件としているのは「ロスレスで48kHz/20bit以上」だ。また実体験として「96kHz」よりも「24bit」の方で大きな向上を感じるという方も少なくないのではないかと思う。
ならばAppleが、48kHz/24bitを新たな「高音質フォーマット」として推してくる可能性もあるのではないだろうか?AACのビットレートを256kbpsに引き上げて「iTunes Plus」としたときのように。それにApple Music等がAAC/256kbpsで提供されている現在、それとの差別化のため、ダウンロード購入のiTunes Storeにより高音質な選択肢を提供するというのはおかしな話ではない。
遠藤氏「エレコムとしてではなく個人的な予測ですが、私もAppleが48kHz/24bitをハイディフィニション、高解像度音源としてプロモーションしてくる可能性はあると考えています。新しいことを始めるときAppleは、iPhoneやMacのOSさえアップデートすれば数世代前の製品でもそれに対応できるという形にする場合が多いですよね。それにもハマりますし。例えば48kHz/24bitのAppleロスレスというフォーマットなら、現行製品でもiTunesからiPhoneに転送して再生できるわけですから」
筆者としてはさらに、BluetoothにおいてLDACやaptX HDがロッシー圧縮でも24bitの部分を生かせているのなら、配信でも48kHz/24bitの「AAC」等もあり得るのではとも考えている。
AppleはすでにMacよりもiPhoneとiPadに注力している印象だ。となると定額高速の固定回線ではなくモバイル回線の料金と速度を想定するだろうし、大型ハードディスクではなく内蔵メモリーの容量を想定するだろう。となると「ハイレゾ」のデータ量、ファイルサイズは厳しい。iPhoneで「曲を購入」をクリックしてからダウンロードが完了するまでに10分単位で待たされ…というサービスは考えにくい。
ただ、AACは規格としては96kHz/24bit/576kbpsとかにまで対応しているようなのだが、iPhoneやiTunes含めて現行製品の実装は、公式のスペックとしてはそうなってはいない。例えばiPhone SEの仕様は、
「対応するオーディオフォーマット:AAC(8〜320Kbps)」
という表記だ。iPhoneに限らずオーディオ製品全般の多くでだいたいこのような感じになっている。遠藤氏が着目した「互換性」の部分には不安があるわけだ。
実は試してみたところ、576kbpsのAACファイルをiTunesに登録してiPhone SEに転送して標準のミュージックアプリや「HF Player」で再生できた。しかしそれは「その検証に使ったファイルとシステムではできた」というたったひとつのサンプルに過ぎない。実際、その同じファイルがiPhoneやMacの他の再生アプリには認識されなかったりもした。互換性という面ではやはり不安はある。
そしてもちろんロッシー圧縮だと、アメリカや日本の団体が定義する「ハイレゾ」からは外れる。オーディオファンからも「クオリティより効率を優先したロッシー圧縮音源はハイレゾと呼ぶに値しない」という声は出るだろう。またロッシーではなくロスレス、AACではなくAppleロスレスだったとしても、「48kHz?96kHzじゃないの?」という声も出るかもしれない。
しかしどちらにしても、もしもAppleがそれらをやるなら、Appleはそれを「ハイレゾ」と呼ばない可能性の方が高いと思う。「iTunes Plus」のような形の名称にして、アピールの仕方としても、
「従来のiTunesよりも高音質」
「Apple Musicよりも高音質」
「CDよりも高音質」
という比較を打ち出してくるのではないだろうか。そうなったら「それはハイレゾではない」と批判しても「はいそうですよ」という答えが返ってくるだけだ。
ただ、仮にそうなったとして、それは「ハイレゾ」にとって悪いばかりの話でもない。「音質」に関心を持ってもらうきっかけにもできるだろうし、「それよりもさらに高音質なのがハイレゾ」というアピールもできるだろう。
イヤホン端子がなくなるかどうかとはあまり関係ないところにまで話が膨らんでしまったが、Appleの動向はオーディオへの影響も大きい。考えすぎるほどに考え込まずにはいられない。
僕自身は最近iPhone SEに乗り換えたので、「次期iPhone」からすぐに直接の影響は受けなかったりするのだが…
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。 |
[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域 バックナンバーはこちら