ピュアな音を楽しめるハイエンドモデル
ロングセラーモデル、ゼンハイザー「IE 60」の“いまの実力”とは? 最新ハイレゾ音源で検証
IE 60のサウンドを詳しくチェックしていこう。まずはスマホによる音楽再生から、Xperia Z5 Premiumに直接つないで音楽配信サービスのコンテンツを聴いた。
マドンナのアルバム「Rebel Heart」の『Bitch I'm Madonna』から聴き始める。音の数・種類ともに多く、豪華で複雑なアレンジのサウンドを忠実に再現する解像感の高さを実感。帯域のバランスもニュートラルなので、明るくメロディアスなボーカルとコーラス、リズミカルなラップ、深く沈むダイナミックな低域のビートとのコントラスト感が非常に鮮烈に感じられる。トリッキーなシンセサイザーのアクセントも効果がフルに引き出される。音場も広く立体的だ。
シャラマーのベストアルバムから『A Night to Remember』では、IE 60の歯切れよいリズムの再現力を確かめられた。低域の透明度が高くスピーディーなので、ダンスミュージックの躍動が心地よく体を振るわせる。ボーカルの声にもむやみな色づけがなく鮮度が高い。エレキギターのカッティングは粒立ちがよく軽やか。シンセサイザーやコーラスのハーモニーも濃厚で、伸びやかな余韻がすっきりとした後味を残す。特定の帯域だけを強調しない本機の自然なバランス感覚が、ボーカルや生楽器が本来持つ音の味わいを引き立てる。70〜80年代の、歌唱力と楽器の腕前で勝負するダンスミュージックの醍醐味が存分に味わえるイヤホンだ。
ジャズボーカルはジュリア・フォーダムのアルバム「China Blue」からタイトル曲『China Blue』でチェックした。混じりけのないシルキーな歌声のテクスチャーを楽しませてくれる。ピュアなボーカルのメロディラインに凛としたピアノが寄り添い、地に足を付けたウッドベースの深々と響くグルーブがうなりを上げる。ギターソロのウェットで甘やかなサウンドに包み込まれるような幸福感もゆっくりと噛みしめた。
続いて、Astell&KernのAK Jrにつないでハイレゾ再生を試した。渡辺美里のアルバム「eyes」から『GROWIN'UP』では、弾けるほどエネルギッシュなボーカルを暴れさせることなく上手にコントロールしながら、作品が録音された当時の空気をそのまま運んできたようなフレッシュなサウンドを再現してみせた。シンセサイザーやエレキギターの張りのあるトーンが耳の奥をガツンと突いてくる。やみくもに音をお化粧してしまうことがなく、ナチュラルな声と楽器の音がすうっと心地よく響く。アップテンポで密度の高い音づくりのJ-POP系サウンドにも相性の良さを発揮してくれそうだ。
エアロスミスの「Parmanent Vacation」から『Dude(Looks Like A Lady)』では、エレキギターのハイトーンや、底抜けに煌びやかなホーンセクションの高域が派手にギラつくことがなく、伸びやかな音色がまるで喉の渇きを潤してくれる冷たい水のように耳の奥に染み渡り、生き生きとしたベースやドラムスの張りのあるリズムが束になってぶつかってくる。ゴージャスなバンドサウンドのぶ厚さが損なわれることなく、それでいて各々の楽器の音色もしっかりと味わえる透明度の高さが、この曲にとてもよくマッチした。
ダフト・パンクの「Random Acces Memories」から『Doin' It Right』では、低域の厚みがやや控えめに感じられたものの、全体に聴き疲れしないバランスの良さがこのイヤホンの持ち味だ。ボーカルの音像をクリアに描き、ハイトーンがきれいに突き抜ける。低域再生は特にアタックの立ち上がりや減衰が鋭く、ディティールの粒立ちも細かい。広々とした空間に張り詰める緊張感までもつかまえてしまう。
最後に、ノートPCと2種類のヘッドホンアンプによる組み合わせでハイレゾ音源を聴いてみた。Meridian Audioのスティック型のポタアン「Explorer 2」ではMQAの音源を試聴。曲は2Lで配信中のトロンハイム・ソロイスツ楽団とニーダロス大聖堂少女合唱団による「MAGNIFICAT/Et misericordia」(キム・アンドレ・アルネセン作曲)を選んだ。ソプラノのふくよかで暖かい声と、冷たい空気の静寂感とのコントラストを明瞭に描き分ける。楽器とコーラスの残響がきれいに溶け合う。奥行き方向の見通しも深く、オルガンの音色が広大な大聖堂の空間に隅々まで浸透していく情景が目に浮かぶ。
ポタアンをオーディテクニカの「AT-PHA100」に変えてDSD再生をチェックする。ホリー・コールのアルバム「Girl Talk」からタイトル曲の『Girl Talk』では、ボーカルの繊細な表情をわかりやすく明快に描き分ける。声の輪郭は彫りが深く、質感もきめ細かい。生き生きとした声の生命力もしっかりと伝わってきた。豪快なウッドベースの低音は、歪まずにしなやかなリズムを刻む。ピアノの余韻が淡く煌めく。指先が鍵盤の上で軽やかに踊る様子が浮かび上がってくるようだ。
本機の上位モデルであるハイエンドイヤーモニター「IE 80」は、リケーブルや低音調整機能によりユーザーが好みのサウンドに追い込めることからも、発売以来長くイヤホンファンに愛され続ける名機だ。IE 60とともに、ハイレゾへの注目が高まる前段階から、忠実な原音再生を真摯に追求してきたゼンハイザーならではの、迫真の音質チューニングを最大の武器としている。ハイレゾ全盛の今になってもその魅力は変わることなく、色あせてもいないということを、今回のリスニングで改めて思い知らされた。