IFA会場で集中試聴
ソニーの旗艦ヘッドホン/ウォークマン/HPA「WM1Z/Z1R/ZH1ES」一斉レビュー
IFAのオーディオ関連の展示を見ていると、日本をはじめとするアジアの企業がパーソナルオーディオで相変わらず強い存在感を発揮していることに気付く。コンパクトで高品質なモノ作りが得意なのはもちろんだが、そこに緻密な作り込みや繊細な感性が加わるのが、特に日本メーカーの強みだと思う。
そのことを今回最も強く印象付けたのが、ソニーのSignatureシリーズだ。ソース機器からアンプを経てトランスデューサーまで、ハイエンドの再生システムを共通のコンセプトで設計し、それを同時に提案する例はかなり珍しい。パーソナル&モバイルオーディオとしてはたしかに並外れて高価格だが、あえてそこまで踏み込んだ思い切りの良さにも感心する。実際のところ、IFAのタイミングに合わせて4製品を同時に完成させるのはかなり大変だったと聞いているし、各製品を担当する設計チームの間で完成度を競うような、良い意味での刺激の連鎖があったのかしれない。
ソース機器側から順番に音のインプレッションを紹介していこう。
■ウォークマン「WM1A」「WM1Z」比較試聴。音の志向が異なる2機種
ウォークマンのフラグシップとして登場する「NW-WM1A」と「NW-WM1Z」(関連ニュース)は、シャーシの素材と一部のパーツが異なるだけの姉妹機だが、音を聴き比べてみると、予想していたよりも大きな違いがあった。価格が倍以上違うのだから当然と思うかもしれないが、そういう上下関係よりも、音の志向がそもそも異なるという印象を受ける。好みに合わせてリスナーが選ぶことを前提に音を追い込む手法は、ホーム向けのハイエンドオーディオではよくあることで、単純な優劣で選べない奥の深さがある。
シャーシにアルミ削り出し材を使うWM1Aは、これまでのフラグシップ群のなかでも、特にZX1の鮮鋭感とダイナミックな鳴り方を引き継ぎつつ、高域をほぐして子音の硬さやパーカッションの過剰な粒立ちを抑え、上級機にふさわしい自然な方向にチューニングしている。ベースが刻むリズムは、アタックの歯切れの良さの割に豊かな量感と厚みを引き出し、強いビート感をアピール。ヴォーカルは輪郭を強めず肉声感があるが、柔らかさやぬくもり感でアナログ的な演出を加えるのではなく、録音の特徴をそのまま忠実に引き出している印象だ。
以上はバランス接続での印象だが、アンバランス接続でも音調は大きく変わらず、ディテールをていねいに描き出す繊細な表現力がそなわる。フラグシップ製品のなかでも、世代を重ねるごとに磨きがかかり、着実な進化を聴き取ることができる。
一方のWM1Zは、高音がシルキーで柔らかく、一音一音の質感が高い。ひとことで言えば、これまでソニーのポータブルオーディオから聴いたことがないような音がする。そして、その柔らかさのなかにも良い意味で芯の強さと密度感があり、演奏から思いがけず豊かな起伏と強い緊張を引き出すことが重要なポイントだ。たとえば、クラシック音楽は柔らかく穏やかな音で聴くべきという勘違いがいまだに消えていないが、生身の人間が直接引き出す楽器の音には凄まじいエネルギーが乗っていて、そのエネルギーが正確に伝わるかどうかで印象が大きく変わる。WM1Zはそこを確実に押さえているのだ。
柔らかさと芯の強さを一番強く実感した音源は、フリッツ・ライナー指揮シカゴ交響楽団の『シェエラザード』だ(176.4kHz/24bitのPCM音源)。独奏ヴァイオリンが鮮烈で生々しい音色をたたえ、まるでアナログレコードの音を上質な再生装置で聴いているような鮮度の高さが感じられる。弦楽器は同じ高さの音でも弦を変え、ポジションを変えると倍音の違いで音色が大きく変わるが、その描き分けの妙を堪能することができた。音を出す直前の「溜め」など、音と音の間の気配まで聴き取れる。
オーケストラがトゥッティで一斉に音を出した途端、大量の空気が瞬時に動く。その感触をリアルに再現するためには、電源をはじめ、物量を投じることが不可欠だ。WM1Zは内蔵アンプだけでその感触を引き出す力があり、余韻も大きく広がる。ポータブル機でなぜそこまで到達できたのか不思議に思うが、やはり一番大きいのはシャーシの素材と構造だろう。
無酸素銅から削り出したシャーシはずっしり重く、外に持ち出すのがためらわれるほどだが、これだけはっきりとした音の変化を生むのなら、エンジニアが挑戦してみたくなる気持ちは理解できる。加工や組み立ての難しさはアルミの比ではないと思うが、銅でなければ出せない音があるので、チャレンジした価値は十分にあると思う。
ちなみに本機の真価を発揮できるのはクラシックだけではない。どちらかというとヴォーカルやアコースティック楽器との相性が良いのはたしかだが、忠実度の高さは大半のジャンルで良い結果を生む。
そのことを今回最も強く印象付けたのが、ソニーのSignatureシリーズだ。ソース機器からアンプを経てトランスデューサーまで、ハイエンドの再生システムを共通のコンセプトで設計し、それを同時に提案する例はかなり珍しい。パーソナル&モバイルオーディオとしてはたしかに並外れて高価格だが、あえてそこまで踏み込んだ思い切りの良さにも感心する。実際のところ、IFAのタイミングに合わせて4製品を同時に完成させるのはかなり大変だったと聞いているし、各製品を担当する設計チームの間で完成度を競うような、良い意味での刺激の連鎖があったのかしれない。
ソース機器側から順番に音のインプレッションを紹介していこう。
■ウォークマン「WM1A」「WM1Z」比較試聴。音の志向が異なる2機種
ウォークマンのフラグシップとして登場する「NW-WM1A」と「NW-WM1Z」(関連ニュース)は、シャーシの素材と一部のパーツが異なるだけの姉妹機だが、音を聴き比べてみると、予想していたよりも大きな違いがあった。価格が倍以上違うのだから当然と思うかもしれないが、そういう上下関係よりも、音の志向がそもそも異なるという印象を受ける。好みに合わせてリスナーが選ぶことを前提に音を追い込む手法は、ホーム向けのハイエンドオーディオではよくあることで、単純な優劣で選べない奥の深さがある。
シャーシにアルミ削り出し材を使うWM1Aは、これまでのフラグシップ群のなかでも、特にZX1の鮮鋭感とダイナミックな鳴り方を引き継ぎつつ、高域をほぐして子音の硬さやパーカッションの過剰な粒立ちを抑え、上級機にふさわしい自然な方向にチューニングしている。ベースが刻むリズムは、アタックの歯切れの良さの割に豊かな量感と厚みを引き出し、強いビート感をアピール。ヴォーカルは輪郭を強めず肉声感があるが、柔らかさやぬくもり感でアナログ的な演出を加えるのではなく、録音の特徴をそのまま忠実に引き出している印象だ。
以上はバランス接続での印象だが、アンバランス接続でも音調は大きく変わらず、ディテールをていねいに描き出す繊細な表現力がそなわる。フラグシップ製品のなかでも、世代を重ねるごとに磨きがかかり、着実な進化を聴き取ることができる。
一方のWM1Zは、高音がシルキーで柔らかく、一音一音の質感が高い。ひとことで言えば、これまでソニーのポータブルオーディオから聴いたことがないような音がする。そして、その柔らかさのなかにも良い意味で芯の強さと密度感があり、演奏から思いがけず豊かな起伏と強い緊張を引き出すことが重要なポイントだ。たとえば、クラシック音楽は柔らかく穏やかな音で聴くべきという勘違いがいまだに消えていないが、生身の人間が直接引き出す楽器の音には凄まじいエネルギーが乗っていて、そのエネルギーが正確に伝わるかどうかで印象が大きく変わる。WM1Zはそこを確実に押さえているのだ。
柔らかさと芯の強さを一番強く実感した音源は、フリッツ・ライナー指揮シカゴ交響楽団の『シェエラザード』だ(176.4kHz/24bitのPCM音源)。独奏ヴァイオリンが鮮烈で生々しい音色をたたえ、まるでアナログレコードの音を上質な再生装置で聴いているような鮮度の高さが感じられる。弦楽器は同じ高さの音でも弦を変え、ポジションを変えると倍音の違いで音色が大きく変わるが、その描き分けの妙を堪能することができた。音を出す直前の「溜め」など、音と音の間の気配まで聴き取れる。
オーケストラがトゥッティで一斉に音を出した途端、大量の空気が瞬時に動く。その感触をリアルに再現するためには、電源をはじめ、物量を投じることが不可欠だ。WM1Zは内蔵アンプだけでその感触を引き出す力があり、余韻も大きく広がる。ポータブル機でなぜそこまで到達できたのか不思議に思うが、やはり一番大きいのはシャーシの素材と構造だろう。
無酸素銅から削り出したシャーシはずっしり重く、外に持ち出すのがためらわれるほどだが、これだけはっきりとした音の変化を生むのなら、エンジニアが挑戦してみたくなる気持ちは理解できる。加工や組み立ての難しさはアルミの比ではないと思うが、銅でなければ出せない音があるので、チャレンジした価値は十分にあると思う。
ちなみに本機の真価を発揮できるのはクラシックだけではない。どちらかというとヴォーカルやアコースティック楽器との相性が良いのはたしかだが、忠実度の高さは大半のジャンルで良い結果を生む。
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