<山本敦のAV進化論 第107回>
【レビュー】ウォークマン史上最高ハイエンド「WM1Z」「WM1A」をじっくり聴いた!
オーケストラの奥行き感が一段と深みを増した。ミロシュのギターも、弦を弾く指の動作がさらに軽やかに躍動する。弱音の柔らかく透明な再現力にもはっとさせられる。まるで素肌のきれいな美女に相対してその姿を眺めながら至福の時間を過ごしているみたいだ。
WM1シリーズでは、バランス接続時に最大11.2MHzまでのDSDネイティブ再生が可能になった。二人のギタリストによるThe DUOのアルバム「Nullset」から、『Coco Rojo』では立体的な空間に包まれる。
同じ曲をバランス接続でWM1AとWM1Zで再生して聴き比べてみると、しっとりとした質感を豊かに描くZの特徴、切れ味とスピード感に富むAの特徴がそれぞれはっきりと表れてくる。音の芯をしっかりと捉えた、色付けのないリアリスティックなサウンドだ。それでいて音楽性にも富んでいる。
どちらのモデルも低音再生は腰が落ち着いて、さらに引き締まる。サッカー選手、リオネル・メッシの巧みなドリブルは「まるでボールが脚に吸い付いているみたいだ」と形容されることも多いが、WM1シリーズの安定感あふれる低域の制動力がもたらす音楽との一体感からは、まさにそんな印象を受けた。音を正確かつ緻密に描き込める底力もすごい。だからリズムの躍動感が一段と軽やかにホップしてくる。aikoのボーカルには何とも魅力的な艶が乗ってきた。
ベイヤーダイナミックの「T1 2nd」をつないで再生してみた。インピーダンスが600Ωと非常に高いヘッドホンだが、上手く鳴らし切れれば他のヘッドホンからは得られないクリアで伸びやかなサウンドが楽しめる。
並大抵のポータブルオーディオプレーヤーではパワー不足ゆえ、ヘッドホンアンプなしでは十分にその実力が引き出せない。WM1シリーズの場合、2段階でスイッチできるゲイン設定をメニューの「ハイゲイン出力」に設けているので、これにチェックを入れておけば、余裕をもって頑固者のT1 2ndを見方に引きこめる。aikoのシルキーな歌声を本気で再現できる舞台がこれで整った。
USBオーディオ再生はWM-PortからUSB-A(メス)端子への変換ケーブル「WMC-NWH10」を準備して、iFi Audioの「nano iDSD」につないでからベイヤーのT1 2ndで聴いた。セルフパワーで駆動できるポタアンであれば、ウォークマンのポータビリティを損なうことなく、アンプの個性も活かしながらアウトドアで楽しむハイレゾ再生の視野を広げられるだろう。USBオーディオ再生時にもDSD 11.2MHzのネイティブ出力ができるので、アンプもこれを活かせるモデルを選びたい。
■「WM1ZとWM1Aではキャラクターの違いが明確に出る」
最後に「ソースダイレクト」モードをオフにして、イコライジング機能も遊んでみた。新設された「DCフェーズリニアライザー」は、アナログ方式のパワーアンプと同じ位相特性をDSPの演算処理によりエミュレートするというユニークな機能だ。WM1シリーズは音質の違いを「タイプA/B」の2種類と、それぞれに「HIGH/STANDARD/LOW」の3段階で持たせた合計6種類から選べるようになっている。
ダフト・パンクの楽曲で違いを聴き比べてみたところ、低域のスピード感、音場の立体感に違いが表れるようだ。聴く音楽の種類によって好みの味付けを加えてみると面白い。
ハイレゾ相当の音質へのアップコンバート機能である「DSEE HX」も、CDからリッピングした音源の再生時には抜群の効果が表れる。特に中高域の解像感と音の鮮度がびっくりするほどアップする。曇っていた視界がスッキリと晴れて、打ち込み系のロックを聴くとこんな効果音が入っていたのかと、耳からウロコが落ちた。
サウンドのキャラクターを「スタンダード/女性ボーカル/男性ボーカル/パーカッション/ストリングス」の5つから選べる。男性ボーカルで試したら、声に引き締め効果が表れたように感じた。音のフォーカスを整えるのに好適だ。
今回、あらためてWM1シリーズをゆっくりと手元で試聴してみて、見事な完成度に到達したハイレゾ対応のポータブルオーディオプレーヤーであることを確認した次第だ。音質だけでなく、バランス接続やDSD対応など、従来のZXシリーズから機能面で進化した点も数多い。
そしてWM1ZとWM1Aでは確かにキャラクターの違いが明確に出る。どちらを選ぶかは好みに任せてもいいと思う。4.4mmの新しいバランスコネクターもJEITAで規格化されているフォーマットなので、今後は徐々に対応するケーブルや周辺機器も増えるはず。
正直、WM1Zは高くて手が出しづらいプレーヤーでもあるが、ずっと長く使えるであろうリファレンスを手に入れるため、この機会に清水の舞台から飛び降りんとする熱心なファンの意気込みには、心からの拍手を贈りたいと思う。