【特別企画】「HDRリマスター」も含めた画質の進化をチェック
山之内正が見たソニーの新旗艦ブラビア「Z9D」。4K HDR時代に登場した革新的技術「Backlight Master Drive」の効果とは?
さらに、数を増やすと言ってもLEDのサイズを考えれば配置の密度には物理的限界があり、画素単位で明滅する自発光デバイスにはかなうはずもない。エリアのさらなる細分化が進まなかった背景に、そんな意識がはたらいていたことも否定できないだろう。
普通に考えればそう結論付けても不思議ではないだろう。しかし、理論的にはそれとは別の結論が導き出されている。
点光源の数を一定の密度まで高めると、人間の視覚の特性上、画素ごとに光らせる自発光デバイスとの違いを識別できないほどのコントラストと解像度を実現できるのだという。
眼球内での乱反射などの要因で空間解像度が低下するため、光源の数を増やしたうえで一定の視距離を確保すれば、透過型デバイスと自発光デバイスの差が無視できるほど小さくなるということだ。
高密度に配置された大量のLEDを映像信号に連動して高速で駆動するためには、これまでのエリア駆動方式を大きく上回る演算能力が要求される。さらに、バックライト マスタードライブがもたらす細部のコントラスト改善効果をフルに引き出すためには、信号と高精度に識別してノイズを抑える性能も必須となる。
また、SDR(スタンダードダイナミックレンジ)映像のコントラストを改善してHDR相当の立体的な描写を実現するなど、HDRディスプレイの性能を活かした映像表現を狙うためにも、信号処理能力には十分な余裕が欲しい。Z9Dシリーズには、それらの要求を満たすために新たに開発された新世代の4K高画質プロセッサー「X1 Extreme」が搭載されている。
■画質の進化の大きさは歴代モデルで最大と言って良いほど顕著
バックライト マスタードライブがもたらす画質のメリットは細部と全体の両方に及んでいて、その進化の大きさは歴代モデルで最大と言って良いほど顕著なものである。
直下型バックライトとエリア駆動の組み合わせはこれまでもコントラスト改善に大きな効果を発揮してきたが、それはいわばマクロ的な視点での改善にとどまっていて、明暗差が鋭く変化する部分での漏れ光によるにじみや輝度ムラなど、映像の細部に目を向けるとさまざまな副作用が残っていた。映像信号のディテールが肝心なのに、それよりもバックライトの挙動が見えてしまうという印象を拭い去るのが難しかったのだ。