【特別企画】評論家・大橋伸太郎が多角的に評価
東芝“4K有機ELレグザ”「X910」の画質は? HDRから地デジまで様々な映像で徹底チェック
スペック上で有機EL方式を現在主流の液晶方式と比較した場合、優劣を一概に言えないのが事実だ。液晶方式が勝る面もあり、その一つが絶対的な輝度(明るさ)だ。液晶方式は独立した光源(LEDバックライト)を持ち明るくすることが容易で、昨年来HDR対応でいっそう高輝度化を果たし、レグザ「Z20X」では全白1,000nitsに到達した。有機ELはそこまでの明るさがなく、X910の場合、全白で約150nits、ピーク輝度約800nitsに止まる。
だが、だからといってHDRの表現力で液晶のほうが有機ELより優れるのかというと、そう単純な話ではない。有機ELのX910は無限のコントラストを持っており、これは液晶にはどうやっても到達できないポイントだ。そしてこのコントラスト比無限大という点は、HDRの圧倒的な表現力につながる。
「マルコ・ポーロ」はHDRでオーサリングされ、随所にそれを生かしたグレーディングの映像である。この日見たのは主人公が方々に篝火の焚かれた館の居室でもてなしを受けるシーンだが、明暗のコントラスト効果を非常にうまく表現。X910がHDR映像の魅力を巧みに引き出している。
VA液晶方式は、ネイティブコントラスト自体は約4,000対1程度に止まるが、液晶の開閉とバックライト制御の二重のダイナミックファクターの活用でダイナミックコントラストを得ているのに対し、自発光の有機ELはネイティブコントラストがほぼ無限大でダイナミックレンジの変化がリニアであるため、なめらかなガンマが得られるためと推察される。
X910では、映像のハイライト、つまりHDRのピークの部分の篝火と影のコンビネーションが自然でなまめかしく、14世紀のアジアにタイムスリップするエキゾティックな臨場感がここにある。
■地デジ番組も「映像が平板でなく奥行きと立体感がある」
次に、地上デジタル放送を見てみよう。放送と一体のシステムの発達がテレビの進化である以上、ここでも新ディスプレイデバイスらしい清新な映像を期待しよう。
この日見たオンエア放送は民放のバラエティ。映像の傾向は液晶レグザのそれに非常に近い。
画質を支えているものが「アダプティブフレーム超解像」で、複数超解像の一種なのだが、地デジのようにインターレスの場合、I/P変換で生成された前後フレームでなく、1フレームおきに現画を参照し超解像処理を行う(ノイズ抑圧は5フレーム)。
これが非常に有効で、ノイズ、フリッカー等映像の妨害要素が少なく、地デジの映像が平板でなく奥行きと立体感がある。
キャスターのクローズアップの人肌描写が自然な起伏に富むのは、「美肌リアライザー」機能によって、ライトの当たっているハイライト部分の階調が損なわれないため。筆者が椅子から立ち上がり視聴位置を変えて両端から映像を見ると、視野角が確保されコントラストや発色低下がなく、日常の大画面テレビとして大きな強みだ。
■4Kブルーレイソフト視聴 − 生々しさで「実画面サイズより大きな映像と錯覚」
ここからは4K/2Kのブルーレイコンテンツを見てみよう。まずは定番ソフト「4K夜景」からだ。
「4K夜景」はナイトシーンの多いソフトだが、暗部の再現性は非常に良好で、レグザらしく黒側ボトム数階調の表現がよく粘り明瞭。ノイズの抑圧に優れ、映像が隅々まで透明感を湛えている。