【特別企画】MQAなどマルチソースに対応
クリプトン「KS-9Multi」を聴く ー ハイレゾ全方位対応の小型アクティブスピーカー
■唇の動きが見えるかのようなリアルなイメージ 臨場感や空気感を忠実に引き出す
HQMが配信するMQA音源から、ウィリアムス浩子の『A Time for Ballads』を聴く。ボーカルの音像は左右スピーカー中央やや手前に定位し、唇の動きが見えるようなリアルなイメージが浮かぶ。同じサンプリング周波数(176.4kHz)のFLAC音源と聴き比べてみると、MQAの方がベースのピチカートに緩みが少ない、声の低い音域のボディ感が豊かに感じられた。
声の音色はどちらも柔らかいタッチだが、ピアノと声の高い音域はMQAの方がフォーカスが精密に感じられた。声と楽器の輪郭ににじみがないためか、それぞれの音像の間の関係やステージの遠近感がよく伝わる。
ロッシーニの二重奏はチェロとコントラバスそれぞれの音像が立体的に浮かび、柔らかい質感の余韻がスピーカー後方に自然に広がった。KS-9 Multiの低域側の再生レンジは60Hzなのだが、コントラバスのE線、A線の音域がさほど量感を失わないのは、エンクロージャーが共振しにくくアタックが緩まないことと、ハイレゾ化で倍音を忠実に引き出していることに理由がありそうだ。
特に発音の瞬間の勢いはMQA音源で聴く方が強めに感じるが、2つの楽器の響きが柔らかく溶け合う感触はFLAC音源からも忠実に聴き取ることができた。
試しに音量を半分程度に下げてみたが、低音楽器だけのデュエットとは思えないほどリズムの動きが鮮明で、臨場感が後退する気配もない。近接試聴ならではの生々しさが好印象を生んでいる面もあるが、デジタルクロスオーバーとバイアンプの組み合わせが生むメリットも大きいはずだ。コイルやコンデンサーで組む通常のネットワーク回路は位相が微妙にずれて空間情報が曖昧になりがちだが、本機の再生音はその弊害がなく、臨場感や空気感を忠実に引き出す能力が高いのだ。
■小型スピーカーとは思えない迫力、微細な情報まで引き出す
児玉麻里と児玉桃によるピアノ二重奏で『くるみ割り人形』を聴く。二人のピアニストの呼吸がぴったり揃い、発音のタイミングもまったくずれがないので、まるで一人で演奏しているような一体感が実感できる。DSD録音は時間分解能が非常に高いので、指の動きから息遣いまで精密に揃ったこの演奏の特徴を忠実にとらえており、再生装置のグレードが高いほど、その一体感が現実味を帯びる。KS-9 Multiの再生音はコンパクトなUSBスピーカーとしては例外と言えるほど微細情報を正確に再現するためか、呼吸のニュアンスまで生々しく伝えてくるのだ。
アルネ・ドムネラスの『HighLife』をFLAC(192kHz/24bit)音源で聴く。今度は通常よりも音量を大きめに設定し、スピーカーから2.5m前後まで離れた位置で聴いてみた。リビングルームのソファに座って聴くような環境だが、それだけ離れてもベースやサックスの音像が広がりすぎず、切れの良いリズムを確保していることに感心させられた。リラックスした雰囲気でのライヴ演奏ということもあり、特にベースやドラムのテンションが高い録音ではないのだが、テンポが前向きに進んでいく軽快感はしっかり伝わって欲しい。
KS-9 Multiの再生音はリズムとテンポを確実に押さえていて、リラックスはしているが演奏のテンションには緩みを感じさせない。音量を上げると楽器の鳴りの良さや息漏れの音がいっそうリアルになり、小口径ユニットで組んだ小型スピーカーとは思えない迫力まで引き出すことができた。
◇
大がかりなオーディオシステムを組むのは気が進まないが、音のクオリティと質感には妥協したくない。KS-9 Multiはそんな本物志向の音楽ファンにお薦めできるスピーカーである。
(山之内 正)
特別企画 協力:クリプトン
HQMが配信するMQA音源から、ウィリアムス浩子の『A Time for Ballads』を聴く。ボーカルの音像は左右スピーカー中央やや手前に定位し、唇の動きが見えるようなリアルなイメージが浮かぶ。同じサンプリング周波数(176.4kHz)のFLAC音源と聴き比べてみると、MQAの方がベースのピチカートに緩みが少ない、声の低い音域のボディ感が豊かに感じられた。
声の音色はどちらも柔らかいタッチだが、ピアノと声の高い音域はMQAの方がフォーカスが精密に感じられた。声と楽器の輪郭ににじみがないためか、それぞれの音像の間の関係やステージの遠近感がよく伝わる。
ロッシーニの二重奏はチェロとコントラバスそれぞれの音像が立体的に浮かび、柔らかい質感の余韻がスピーカー後方に自然に広がった。KS-9 Multiの低域側の再生レンジは60Hzなのだが、コントラバスのE線、A線の音域がさほど量感を失わないのは、エンクロージャーが共振しにくくアタックが緩まないことと、ハイレゾ化で倍音を忠実に引き出していることに理由がありそうだ。
特に発音の瞬間の勢いはMQA音源で聴く方が強めに感じるが、2つの楽器の響きが柔らかく溶け合う感触はFLAC音源からも忠実に聴き取ることができた。
試しに音量を半分程度に下げてみたが、低音楽器だけのデュエットとは思えないほどリズムの動きが鮮明で、臨場感が後退する気配もない。近接試聴ならではの生々しさが好印象を生んでいる面もあるが、デジタルクロスオーバーとバイアンプの組み合わせが生むメリットも大きいはずだ。コイルやコンデンサーで組む通常のネットワーク回路は位相が微妙にずれて空間情報が曖昧になりがちだが、本機の再生音はその弊害がなく、臨場感や空気感を忠実に引き出す能力が高いのだ。
■小型スピーカーとは思えない迫力、微細な情報まで引き出す
児玉麻里と児玉桃によるピアノ二重奏で『くるみ割り人形』を聴く。二人のピアニストの呼吸がぴったり揃い、発音のタイミングもまったくずれがないので、まるで一人で演奏しているような一体感が実感できる。DSD録音は時間分解能が非常に高いので、指の動きから息遣いまで精密に揃ったこの演奏の特徴を忠実にとらえており、再生装置のグレードが高いほど、その一体感が現実味を帯びる。KS-9 Multiの再生音はコンパクトなUSBスピーカーとしては例外と言えるほど微細情報を正確に再現するためか、呼吸のニュアンスまで生々しく伝えてくるのだ。
アルネ・ドムネラスの『HighLife』をFLAC(192kHz/24bit)音源で聴く。今度は通常よりも音量を大きめに設定し、スピーカーから2.5m前後まで離れた位置で聴いてみた。リビングルームのソファに座って聴くような環境だが、それだけ離れてもベースやサックスの音像が広がりすぎず、切れの良いリズムを確保していることに感心させられた。リラックスした雰囲気でのライヴ演奏ということもあり、特にベースやドラムのテンションが高い録音ではないのだが、テンポが前向きに進んでいく軽快感はしっかり伝わって欲しい。
KS-9 Multiの再生音はリズムとテンポを確実に押さえていて、リラックスはしているが演奏のテンションには緩みを感じさせない。音量を上げると楽器の鳴りの良さや息漏れの音がいっそうリアルになり、小口径ユニットで組んだ小型スピーカーとは思えない迫力まで引き出すことができた。
大がかりなオーディオシステムを組むのは気が進まないが、音のクオリティと質感には妥協したくない。KS-9 Multiはそんな本物志向の音楽ファンにお薦めできるスピーカーである。
(山之内 正)
特別企画 協力:クリプトン