LDACにも対応のUSB-DAC/プリメイン
コンパクトで高品位、なおかつ「全部入り」 − ティアック「AI-503」を小原由夫が聴いた
■DAPとの組み合わせでもハイレゾ相当再生
手持ちのAstell&Kern「AK380」を、前面のφ3.5mm端子(同端子はLINE入力兼用)に丸型光ケーブルを用いて接続し、デジタル信号を試聴をしてみよう。井筒のヴォーカルはくっきり鮮明な定位で、質感がとても瑞々しい。坂本龍一のサントラ「怒り」のメインテーマでは、手前のチェロがグッと迫り出し、背後のピアノとの距離感も立体的に感じられる。総じて空間感がリッチだ。
ワイヤレス伝送については、ソニーが提唱する高音質コーデックLDACのサウンドクオリティを確認するべく、ウォークマンを準備。ジェイク・シマブクロのビートルズカバーアルバムを聴いた。96kHz/24ビットの音が途切れることなく、高い明瞭度で再生されるのが確認できる。素朴なウクレレのメロディーに乗せて、シンディ・ローパーの歌う「アクロス・ザ・ユニバース」のオーガニックなムードが心地よい。
AK380とのペアリングでは、CDクオリティのaptX再生となる。モルゴーア・カルテットのキース・エマーソンへのトリビュート盤からの「タルカス」の演奏は、エネルギッシュで力強い、それでいて硬さや冷たさのない、ダイレクトな響きを湛えた弦楽演奏が味わえた。取り立てて大きな不満はなく、再生手段のひとつとして積極的に捉えていいクォリティと思う。
続いての試聴は、ドイツのbeyerdynamic「T1 2nd Generation」を用いたヘッドホン再生。beyerdynamicのフラッグシップモデルとなるこのヘッドホンは、インピーダンスが実に600Ωと高いのだが、それでもAI-503は楽々と鳴らし切る。それには、実用範囲の音量ならばほぼAクラス動作となる、ディスクリート構成のヘッドフォンアンプTEAC-HCLD回路の貢献も大きい。
モルゴーア・カルテットのアンサンブルは、弦楽器各々の定位を明瞭に描写しながら、トレモロやヴィブラートといった微細なニュアンスを丁寧に描写。一方で井筒のヴォーカルは、滑らかで艶っぽい質感をキープしつつ、アクセントやイントネーションを生々しく再現した。しかもその音にはひ弱さが微塵もなく、ハイインピーダンス負荷を何ら苦にしない頼もしさがあった。
最後に、ティアックのブックシェルフ型同軸スピーカーS-300HRを組合せて試聴した。定位のよさは同軸ならではで、シーネ・エイのヴォーカル音像はピンポイントで浮かび上がるよう。欲張らなければ、周波数レンジも必要十分な印象。ここでPCMフィルターの傾向を探るべく、FIRシャープと同スローを切り替えてみたところ、女性ヴォーカルではスローの方がしなやかでゆったりと聴こえ、好ましかった。
こうしてAI-503をさまざまな角度から分析、試聴してみたが、本機は実に多彩なファンクションを備えており、さまざまなプログラムソースを用いていろいろな使い方のアプローチができることがわかった。そうした中でも、ハイレゾ、現行CDそれぞれの持ち味をきっちり引き出してくれる懐の深さが印象的だった。特にデスクトップでオーディオシステムを構築したいと検討している人には好適と思う。
(小原由夫)