[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第186回】スルーしたらもったいない出来の良さ! パイオニアの新イヤホン「SE-CH9T」レビュー
もうひとつ、とても大きなポイントと思えるのはノズル形状だ。まずメーカーの解説をそのまま印象すると、「装着性に影響のない範囲内でノズルの内径を大きくし、ドライバーを鼓膜に近い位置に設置することで、振動板から再生される音をストレートに伝えます。また、波長の短い高音が打ち消し合う反射波形を抑えます」とのこと。
感覚的にわかりやすい一言に言い換えるならば、「短くて太い道の方が乱れなくすっと空気通るでしょ?」という話だ。極めてシンプルな理屈であり、だからこそ効果は大きいのではないかと思わされる。
だがシンプルな話だからといってそれを製品として成り立たせることは簡単ではない。苦労したところは色々とあるだろうが、それが見て取れるのはイヤーピースだ。
さらっと「ノズルの内径を大きくし」と書いてあるが、内径を大きくすれば外径も大きくなり、既存の「よくある径のイヤーピース」は使い回せなくなる。イヤーピースも完全新規での設計と製造が必要になるわけだ。このモデルはそれをやっている。
裏を見ると構造も独特。パイオニア曰く「リブ付き」シリコンチップだ。振動板の設計と同じく、この形状によって硬さや変形の具合を調整してフィットを高めてあるのかもしれない。
なおノズル周りでは、アルミ製のハウジングの内側にブラス、真鍮製のノズルを仕込んだ二重構造もポイントで、異種素材の組み合わせで素材固有の共振を抑える狙いとのこと。僕の経験上でも、真鍮ノズルを採用したイヤホンは良い音のモデルが多い気がする。
■そして、普通に使いやすい
ここまで述べてきたように音響技術の面での見どころも多い製品だが、装着感や使い勝手といったところも疎かにしてはいない。というかそちらも万全だ。
ノズルの太さも「装着性に影響のない範囲内」に収めてあるし、それに合わせてイヤーピースも前述のように工夫されている。LRグランド分離のツイストケーブルも細身でしなやか。耳周りにはワイヤー等を入れておらず、柔らかなケーブルを自然に耳にかけるタイプだ。なおグランド分離でプラグは3.5mm/4極だが、この4極はリモコンマイクのための仕様であり、グランド分離接続やバランス駆動に対応したものではない。
耳にかけるタイプのいわゆる「イヤモニスタイル」を採っているが、このモデル自体はイヤーモニターではなくリスニングモデルだ。装着の安定性の向上、自分の足音や衣擦れがケーブルを伝わって入ってきてしまうタッチノイズの低減という目的のためにイヤモニスタイルの耳に掛ける形を採用している。
さらに前述のポートもあることから、ガチのイヤモニほど強烈な遮音性はない。そこは用途が違うので見た目で判断しないようにしたい。とはいえ実際に電車内でも試してみたが、一般のイヤホンとしては十分な遮音性は確保。むしろ十分に良い部類と感じた。