[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第191回】高級ダイナミック型イヤホンに良作多数! ベイヤー/DITA/Campfireの3機種で実力を測る
XELENTOは小松未可子さん「また、始まりの地図」との相性が良かった。印象的なフレーズを奏でるピアノの硬質な響き、ドラムスのアタックと空気感のスピードを特に再現してほしい曲だ。ベースのゴリッとした感触も出してくれればさらに好ましい。このモデルはそれらが秀逸だった。
まず、鍵盤を強めにタッチされた時のピアノのあの「ガチンッ!」という音の当たりの強さ。それが実に気持ち良い。単に確く強いアタックなだけでは気持ち良いとまでは感じられず、むしろ耳に痛い音になってしまう。音の角を立てつつも、そのエッジは丁寧に絶妙に面取りされている、そんな印象だ。ピアノのアタックをがっつり出しつつ、それでいてその音色には艶もあるように聴こえさせる、高域の整え方が見事だ。
ドラムスとベースのリズムセクションはどちらも「いい感じにハードタッチ」。ドラムスはもたつかず、スパッとした抜けやキレと十分な太さや空気感もバランス良く兼ね備えている。音の本体をタイトにストレートに打ち出してリズムをバシッと決めつつ、太鼓としての響きの豊かさも表現してくれるのが嬉しい。
ベースはまさに「ゴリッと」だ。この曲のベースを演奏しているのは、Q-MHz/UNISON SQUARE GARDENの田淵智也さんだが、このモデルで聴いたときが僕がイメージする「田淵さんらしい音」に一番近い感触だった。
Dreamは何を聴いても大体しっくりきたが、一つ挙げるとすればペトロールズ「表現」には特にフィット。というのも、僕が試聴に使わせていただいている曲の中で特にギターに耳がいく曲の一つがこの曲なのだが、このイヤホンはエレクトリックギターの聴こえ方という要素が特に僕の好みに合っていた。
ギターの聴こえ方が良いというのは、実はギター自体の音色の表現の前にまず、その下のベースやドラムスの引き締め方が巧いというのがある。低域のいわゆる量感は控えめでベースやドラムスが膨らむことがなく、その上のギターや歌とのセパレートが明瞭。では低音楽器の存在感が不足するか?というと、そういうこともない。帯域としてはぐっと下まで伸びているし音の輪郭も明確なので、「半歩引いた上での存在感」はむしろ確固たるものだ。
半歩前に来るギターの音色自体ももちろん秀逸。軽く歪ませたクランチトーンのその歪みから生まれる芳醇な倍音によるエッジ感。それを耳に刺さる尖った感触ではなく、ほぐれた鋭さとでも言えば良いのか、耳心地の良い音として届けてくれる。長岡さんのギターの雰囲気、椎名林檎さんだったら「洒落乙」と表現するだろうか、それを一番それらしく再生してくれたのはこのモデルだった。
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