<山本敦のAV進化論 第145回>
【レビュー】ソニー“ウォークマン”「NW-ZX300」の音は上位機「WM1A」にどれだけ迫ったか?
ヘッドホンはソニーの「MDR-1A」をベースに、ペンタコン端子のリケーブルを同梱する「MDR-1ABP」を使用。互いの実力はバランス接続を中心にチェックした。ソースダイレクトモードの設定は両機とも「オン」にしている。
【女性ボーカル】土岐麻子・ベストアルバム「HIGHLIGHT」から『乱反射ガール』
ZX300の解像表現力は上位機のNW-WM1Aに、まさに肉迫している。特に高域の豊かな情報量、華やかさはWM1Aを凌いでいるとも言えそうだ。中低域とのスムーズな一体感についてはWM1Aの高い完成度をそうやすやすと超えられないが、ボーカルのハイトーンの鋭利な表情、高さ方向へ伸びやかさについてはZX300も負けていない。
最初にアンバランス接続でZX300を聴いた時の声の固さは、バランス接続ではいい感じにゆったりとしてきて、そのぶん声の芯にあるしなやかさが引き立ってきた。これなら安心。バランス接続で聴く環境をぜひ整えたい。
【ジャズ・ピアノトリオ】上原ひろみ「SPARK」から『Wonderland』
上原ひろみのピアノトリオを聴いてみても、ZX300の類い希なるスピード感がWM1Aに勝るとも劣らない本機の持ち味であることが明らかになった。低音のリズムは芯の力強さがあり、筋肉質でバネが効いている。アンバランス接続で聴くよりも低音の肉付きが良くなって、WM1Aのサウンドが特徴とする美しく引き締まったボディラインとほぼ姿形が重なり合った。
ピアノのメロディが伸び伸びとうたい、ドラムスのリズムには一切のブレが感じられない。いったんZX300をバランス接続からアンバランス接続に変更してみると、バランス接続のサウンドがいっそう音楽のエネルギーを素直に引き出していることが実感できた。楽器の音がただ鳴っているのではなく、演奏者の姿がありありと浮かんでくる。
■ワイヤレス再生/MQA再生も確かめた
ZX300とWM1Aを、LDAC対応のワイヤレスヘッドホン「MDR-1000X」にペアリングして“ハイレゾ相当”をうたうBluetooth再生の音も確認した。
同じLDAC対応のスマホ“Xperia”シリーズで聴くよりも厚手で迫力あふれるリッチな音が楽しめることは言うまでもないが、トップレベルのプレーヤーどうしであるZX300とWM1Aはワイヤレス再生のサウンドにもキャラクターの違いが見えてきて面白い。
ZX300のフォーカス精度が極めて高いカッチリとしたサウンドはLDAC再生時にも活きてくる。MISIAのライブではボーカルの輪郭線がくっきりと描かれ、細かいニュアンスの変化にも目を、もとい耳を凝らすことができた。WM1Aではつながりがとても滑らかで、ゆったりと広がる音場に包まれ溶けてしまうような夢心地の体験を味わった。
ZX300は、より小さなファイルサイズでハイレゾが楽しめるMQA音源の再生にも対応する初めてのウォークマンだ。WM1Aも近くソフトウェアアップデートによりMQA再生の機能を実装する予定だが、今回の取材時点では間に合わなかったので、同じくMQA再生に対応するオンキヨーの“グランビート”「DP-CMX1」と聴き比べてみた。
情家みえのアルバム『MIE JOKE sings BALLADS and other love songs』から「Fly Me To The Moon」を聴くと、ZX300はS/Nが非常に良好で静と動のコントラスト感が鮮やかに描き分けられる。グランビートは柔らかくスモーキーな女性ボーカルの色っぽい表情を巧みに引き出した。
■ZX300はウォークマンの新しい地平を切り開いた
今回は新モデルNW-ZX300の実力を音の聴き比べを軸にしながらチェックしてみた。印象をまとめると、高い完成度を誇る現行モデルのZX100から様々な点でレベルアップが図られているが、WM1Aと比べてみながらも感じたように、同じウォークマンの中で上下関係に置くよりも、ZXシリーズの、あるいはウォークマンの新たな地平を切り開くサウンドが誕生したことを歓迎するべきかもしれない。独特なサウンドを楽しませてくれるプレーヤーがここにある。
ワイヤレス接続はLDACだけでなく、aptX HDにも対応していたり機能面でも細かなところでいくつも飛躍を遂げている、“欲しくなる”要素を満載したプレミアムモデルだ。同価格帯の強力なライバルがひしめき合うハイレゾ対応ポータブルオーディオプレーヤーの中でも特に勢いを感じるモデルのひとつと言えるだろう。
(山本 敦)