名機“Grande Utopia”の設計思想を継承
FOCAL「Utopia III Evo/SOPRA」を聴く ー ハイエンドスピーカーの“到達点”
ここで声のなめらかな感触をさらに引き出すことを狙って、アンプをラックスマンの「L-509X」に変えてみる。ドゥヴィエルがオーケストラ伴奏で歌ったドリーブ《鐘の歌》を聴くと、どの音域、どのダイナミクスでも音色に統一感があり、最高音にも神経質な硬さや飽和感がなく、このフランス出身のソプラノが卓越した技巧と澄んだ音色の持ち主であることをあらためて思い知らされた。
ショスタコーヴィチの交響曲とガラッティのピアノトリオでは、L-509Xとの組み合わせが生むアドバンテージをもう一つ見出すことができた。セパレートアンプで鳴らしているような解像感と強靭な瞬発力も見事だが、それ以上に感心したのは音色面でもSOPRA N゜2との相性が優れていることだ。中でもピアノの和音が澄んでいることと、シンバルの金属音に付帯音が乗らないことは特筆に値し、幅広い音域で歪を極小に抑える設計の成果がうかがえる。
SOPRA N゜1は重量級の専用スタンドと組み合わせて試聴した。音色に統一感があり、周波数バランスが優れていることは一聴して気付く。小口径ミッドウーファーならではの応答の良さ、動的解像度の高さは言うまでもない。そして、コンパクトな本機の最大の長所は音色面でのつながりの良さにある。ジャズヴォーカルもソプラノのアリアも、自然な肉声感となめらかなフレーズのつながりが感じられ、声のイメージもちょうど良いサイズに収まる。どの声域でも音色と表情に誇張がなく、力みのない自然体。それだけに表情を細部まで聴き取ることができ、曲ごとの色合いの違いまで鮮やかに浮かび上がってくる。
リファレンスのセパレートアンプでは端整で落ち着いた音調が前面に出ていたが、L-509Xで鳴らすSOPRA N゜1の再生音には表情の豊かさが加わり、薄い殻を一枚剥がしたような濃いサウンドに生まれ変わる。ヴォーカルは半歩ほど前に出て息遣いまで生々しくなるし、ピアノトリオはテンポの加速感と音色の高揚感がリンクして、3人の体温が上がる感覚を味わった。組み合わせるアンプの特徴をダイレクトに引き出す一面と、FOCALのハイエンドスピーカーの魅力を凝縮したようなまとまりの良さがあり、今回聴いた4機種のなかでも特に強い印象を受けた。
筆者がFOCALのスピーカーを最初に聴いてから、すでに25年以上の時間が経っている。特にGrande Utopiaを聴いた時は、その威容とスケールの大きな表現力に圧倒されると同時に、絶対的な基準機の一つとして通用し得る音だと直感した。
長い時間を経た今日、その資質を受け継いだ子孫たちもまた、ホームオーディオのリファレンスとして活躍し得るポテンシャルを秘めている。FOCALの原点の記憶を引き出しながら聴き比べることで同ブランドの現在の到達点を確認することができ、大変に興味深い試聴となった。
(山之内 正)