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「デコーダー/レンダラー」の詳細を解説

iFi audioも対応で盛り上がるMQA、その再生のための基礎を徹底解説

公開日 2018/05/24 18:11 佐々木喜洋
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■MQAの技術的なポイントとは?

次にMQAを実現する技術的な説明をしていく。ここは後に「デコーダー」と「レンダラー」のちがいを説明するのにも必要になる。

「高音質」でかつ「データ量が少ない」という目標を達成するためにMQAに導入された技術は、大きく2つある。ひとつは時間的なボケ・ぶれを減らして高音質化するという技術。もうひとつは、「オーディオ折り紙」と呼ばれる独自の圧縮技術によって、ロスレス相当の高品質を保ったまま大幅にデータ量を軽量化しているという点だ。

ひとつ目の時間的なボケ・ぶれを減らすというのは、知覚的な研究結果を元にしているという。デジタル信号では計算処理が入ってしまうため、元のアナログ信号にはなかったところにも疑似的に音が生ずる場合がある。これは人の耳にはとても不自然に聴こえるもので、デジタル音源は音が悪いと言われる原因のひとつと言われている。MQAではこれを正しい音の信号に戻すための独自の信号処理をしている。仮にオーディオ折り紙を展開しない場合でも音源の特性に応じた処理を適用しており、オーディオ折り紙を展開する場合さらにDACの特性を加味した処理が行われる。MQAとするだけで音質が向上すると言っているのはこのためで、これは特に20kHz以上のいわゆるハイレゾの領域において特に改善効果があると言う。

下図ではMQAの応答(黄色線)では通常のハイレゾ(赤線)に対して、応答が膨らまずにピンポイントでぶれていないことが見て取れる。

通常のPCM音源とMQA音源を時間軸で比較した図(出展:MQA Ltd. 提供による)

ふたつ目の点が本稿では重要なのだが、普通に圧縮していては1/10にもなるようなMQAの大幅な圧縮率は達成ができない。しかしMP3などのようにある高域周波数以上を削ったり、可聴領域内で音を省略すると音質が低下してしまう。

そこでMQAでは帯域のなかのハイレゾ音声信号が存在する領域を、「折り畳んで」CD相当のデータ領域の検知閾下の領域に格納する。この圧縮方法を「オーディオ折り紙」とMQAでは呼称している。再生する際にはその格納された領域から折りたたんだ部分を展開し、もとのデータに戻す。

例えば下の図では(A)の部分がCD品質のデータであり、その左下の黒い領域に48kHzから96kHzまで(B)、96kHz以上で192kHzまで(C)のハイレゾ成分が格納されている。それを再生時には元に戻すわけだ。

MQAの重要技術である「オーディオ折り紙」の概念図(出展:http://bobtalks.co.uk/blog/science-mqa/mqa-playback/)

注意して欲しいのはこの折り方は、畳む時にBとCの2回折り返されているということだ。つまり元に戻すときには2回折り直さねばならない。小さく畳り畳まれた音源を元の状態のように戻すことをデコード(コード化を戻す)という。この時、はじめの1回目の展開(B)のことを「コアデコード」、2回目までの展開(C)のことを「フルデコード」と呼ぶ。

ここで覚えておいて欲しいのは、48kHz/24bitのMQA音源をコアデコードした状態で再生可能な96kHzのハイレゾのデジタルデータになっているが、そのなかにまだデコードされていない(C)のデータも入っているということだ。(先走って言うとこれをデコードするのが「レンダラー」の役割だ)

このようにMQAでは、厳密に言えば必ずしも元と同一のデータに戻るのを保証しているわけではないので、正しくはロスレスではないが「ロスレスに近い」あるいは「ロスレス相当」と言って良い圧縮形式である。

また、(A)の部分は(B)と(C)を戻す手段がなくともそのまま再生ができるので、互換性が高いのも分かる。左下の「(B)と(C)のハイレゾ格納庫」は検知閾下のため、再生には影響しない。さらにこの場合でも(A)の部分には先に書いた時間的なぶれが低減されているので、高音質が期待できる。

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